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ど正論ヒーロー セイロンガー  作者: 月極典


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100/113

正論(100)ブーメラン会見


 セイロンガーは冒頭の挨拶を終え、水の入ったグラスを手にした。

 ウィーーン、カシャンッ

口元が開き、そこから器用に水を飲む。


 パシャッ、パシャッ、パシャッ

 フラッシュが一斉に焚かれる。

 

「水を飲んだだけだ。そんなに注目するようなことじゃない……。さて、では始めようか」


「ハイ!」

 ビシッと手を挙げたのは、やはり太陽テレビの高柳リポーターである。他の報道陣が、自ら質問に答えてから質問するという、前代未聞のルールに戸惑う中、彼女だけがノリノリだ。


「では、元気の良いあなた。まずは名刺交換だ」


 高柳は名刺を取り出し、セイロンガーに渡した。

「太陽テレビ、リポーター高柳郁子です!」


 丁寧に両手で受け取り、自らの名刺を両手で差し出した。普段は使うことがない、表面にセイロンガーの名前が入り、裏面にマンション経営の会社名、そして本名が印刷されている。活版印刷の質感が、彼の几帳面さと古風な美学を感じさせる。

「セイロンガーと申します。本名は裏面に書いてありますが、今回はセイロンガーとしてお話させていただきます。それではお座り頂き、質問をどうぞ」


「はい、ありがとうございます! えー、私は今、都内の12万8千円の1Kに住んでいますが、ちょうど引越しを考えていまして。あの、ちょっと太陽テレビまで乗り換えが不便なんですね。それで、こちらのマンションは単身者用のお部屋はありますでしょうか? またお家賃は大体どのくらいになるでしょうか?」

 

 場が微妙な空気に包まれた。元気良く先陣を切って質問した内容が、引越しの相談なのだから当然だ。

 

 高柳と顔見知りの、新日本テレビ、50代の男性リポーター富山が呆れながら揶揄する。

「ちょっと、太陽テレビさん。あんた、何言ってんの、そんなの不動産屋に相談しなさいよ」


 しかし、セイロンガーはその発言を制して、

「いえ、せっかくご自分の住環境の話もしてくれましたので、お答えしましょう。こちらのマンションは1階から5階までが単身者用の1Rから1DKとなっています。6階から10階までがファミリータイプで2DKから3DKの間取りとなっています。単身者用のお家賃は間取りによりますが、15万円前後となっています。もし良ければ後ほど仲介の不動産会社を紹介します」


「ありがとうございます! 是非お願いします!」


「では、次」


「じゃあ、私、いいですか?」

 先程の新日本テレビの男性リポーター富山だ。まずは名刺交換を行い、質問する。


「えーとですね、セイロンガーさん。あなたはヒーローのような格好をされていて、ヒーロー活動もされているそうですが、国のヒーロー登録もなく、IHAの所属でもないという。一体、どのような経緯で現在に至るのか教えていただけますか?」


「わかりました。では、あなたからどうぞ」

 セイロンガーはさも当然のように質問を返す。


「ん? あぁ、私がテレビリポーターになった経緯を話すんですか?」


「はい、テレビリポーターとして就職というのはあまり聞かない話です。どのような経緯であなたがテレビのリポーターとなったのか、大変興味があります」


 いいから早よ、答えろっ

 次がつかえてるぞ!

 番組終わっちまうぞーっ


 報道陣の各所から声が上がり、男性リポーター富山は諦めて語り出す。

「……別に誰も興味がないと思いますが、私は18歳で演歌歌手を志して上京しました。ある大物演歌歌手の内弟子になり、デビューもさせてもらいました。デビュー曲は『男盛り女盛り』でした……」


 別に悪気はない、意地悪でもない、ただ興味があったセイロンガーは、

「エミリー、頼む」


 統合AIエミリーがすかさず当該曲を探し出す。

『見つかりました。『男盛り女盛り』を再生します』


 会見場の洒落たリビングに、アップテンポの陽気な演歌が流れてくる。

『男盛りとぉ〜ん、女盛りがぁ〜ん、夜の酒場でぇ〜ん♬シュビドゥビドゥワッパ〜♬』


「やめてくれーー! それは全然売れなかったんだぁ!」

 耳を塞いで叫ぶ男性リポーター。


 太陽テレビのニュースショーは、修羅場と化した中継からスタジオに切り替わった。

司会者は必死に笑いを堪えてなんとか声を絞り出す。

『申し訳ありません……お時間になりました。会見の模様は夜10時からのニュースで改めてお送りいたします。』

 頭を下げるが、その肩はプルプルと震えていた。

 

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