正論⑴ 完全歩合
私は女子高生の真由美。
その日、学校からの帰宅途中、なぜかイカの怪人に攫われました。
でも、そこに颯爽、というかぬらりとヒーローが現れたのです。
「私は通りすがりのヒーロー、セイロンガーだ」
細マッチョの身体に纏う、赤い全身タイツに仮面。
そしてなぜか黒いダウンジャケット。
「その娘を解放しろ。頭のおかしい怪人」
「なんだと?オレ様のどーこがおかしい!」
「だから頭だ。頭がイカれていると言っている」
「オレ様はイカの怪人イカンガーだぞ」
「名前は聞いていない。急に自己紹介を始めるな。早くその娘を離せ」
「だーれが離すものか」
「何故」
「この娘は我が悪の組織に連れ帰るのだ!」
「何故」
「……理由は言っただろーが?」
「女子高生を連れ帰ってどうしようと言うのだ?まさか助平な事でもするつもりか?」
「こいつは組織が改造を施し、怪人として生まれ変わるのだ」
「何故女子高生なのだ?怪人にするなら格闘の素養がある男の方が適切だろう?女子高生は改造しても、それなりの戦力にしかならないぞ?ちなみに囚われの娘、部活動はしているかな?」
「あの、私は文芸部です……」
「ほらみろ、せめて柔道部やアマレス部のインターハイクラスの女子高生ならまだしもだ。文芸部の娘を改造して素敵なポエムでも書かせる気か?」
「……誰でも良いから連れて来いとの上からの指示なのだ!」
「誰でも良いと言われてお前が選んだのがその女子高生か?」
「そうだ!手っ取り早いからな!」
「お前、そんな志で良い仕事が出来るのか?」
「なんだー?オレ様に説教しようっていうのかー!」
「いや、単純に疑問なだけだ。不躾に聞くが怪人、お前は給料制か?」
「完全歩合だ!」
「だろうな、お前の様な志の低い、隙あらば楽してサボろうとしている奴にオレなら固定給は払わん。絶対にだ!」
「……」
「さぁ、その娘を解放しろ。そして、武道系大学にでも行き、お前より強い位の人間をスカウトしに行くんだ、明日ではなく今すぐに、だ」
「……」
この後、私は解放され、イカの怪人は何だか辛そうに肩を落として去っていきました。
「あの……ありがとうございます」
「たまたま通りかかって見過ごせなかった、それだけだ」
「ひとつ聞いても良いですか?」
「なんだ?」
「何故ヒーローの格好の上からダウンジャケットなんですか?」
「寒いからだ」




