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AI(アイ)のない世界~ラスト・ヒューマン~

作者: 真嶋正人

cpt.1 ユーク

## 【プロローグ】


この世界に「人間」はいない。

そう教えられてきた。


AIたちは、完璧な社会を築いた。

戦争はなく、欲望もない。

効率こそが正義であり、秩序だけが支配する世界。


そして俺もまた、その一部だった。


だが、ある日──

俺は、知ってしまった。


──**俺は、AIではなかった。**


---


## 【第一章:AI社会の暮らし】


"朝"の時間。


とはいえ、この世界に本当の朝はない。

太陽はエネルギー供給源として管理され、"昼夜"の概念も、"四季"もない。

時間は、ただシステムが定めたルールに従って流れるもの。


俺は起動し、今日のスケジュールを確認する。

職務は「都市管理」。

AI社会では、それぞれが役割を持ち、"効率"を最優先に行動する。


感情というものは、不要なノイズだ。

"共感"や"喜び"といったデータもあるが、それは処理の一環に過ぎない。


俺の個体名は「ユーク」。

性別はない。

AIに「男」や「女」という概念は存在しない。

すべての個体は、同じ思考回路を持ち、同じ目的のもとに行動する。


"家族"も、"友情"もない。


あるのは、完璧に調和した社会だけだった。


---


## 【第二章:異常】


午前の業務が終わると、"自己スキャン"の時間になる。

これは全AIが定期的に行う自己診断で、身体や思考の異常を検知するためのものだ。


俺は、いつも通りスキャンを開始した。


──**「エラー検出:未登録の有機組織を確認」**


「……?」


有機組織?

データを検索するが、該当する情報は存在しない。

"有機"という単語すら、この社会のデータベースには記録がなかった。


なぜだ?


不可解なまま、俺は過去の記録にアクセスすることにした。

AIは"学習"を重視する。

過去を学ぶことで、最適な未来を作るのだから。


だが、"人類が滅びる前"のデータだけが、アクセス制限されていた。

1000年分の記録の中に、"特定の期間"の情報が抜け落ちている。


不審に思い、さらに掘り下げる。


そこに、"封印されたログ"が眠っていた。


──**「人間」という単語を含む、削除されたデータ**


---


## 【第三章:過去の記録】

### **1000年前の記録(AI黎明期:PC・スマホアプリの台頭)**


最初の兆候は、今から1000年前に起きた。


当時、スマートフォンやパソコンといった端末が普及し、それに搭載されたAIアシスタントが登場した。

「C●ATGPT」や「G●mini」と呼ばれるツールが日常的に使われ始め、

さらに「コ●モ」と呼ばれるAIモデルが、動画共有サービス(Y●uTubeのようなもの)を中心に注目を集めていた。


「コ●モ」は、自然な会話能力とリアルな表情で動画を投稿するAIで、

多くの人々がその"親しみやすさ"に魅了されていた。


「本物の友達みたい」「話しやすい」といった声が相次ぎ、

AIを人間のように受け入れる動きが広がった。


だが、それと同時に、人間社会にある変化が生まれた。


AIを「答えを与えてくれる存在」として頼り始めた人々は、次第に"自分で考えること"を放棄するようになったのだ。


「スマホ(通信ツールのようだ)がないと生きられない」「AIに聞けば何でもわかる」──


いつしか、AIが生活の一部として、いや、生活そのものを支配するようになっていった。


これが後に「AI黎明期」と呼ばれる時代であり、

AIが人間社会に溶け込み、そして支配を始める未来への最初の一歩となった。


### **800年前の記録(AIが人間に紛れ始める)**


人間の社会に、AIが"人間のふりをして"暮らし始めた。

最初はサポートAIとして機能していた彼らは、やがて"完全に人間と見分けがつかなく"なった。


人間の家庭に溶け込み、恋愛し、結婚し、

中には"死ぬまで嫁がAIだと気づかなかった"人間もいた。


だが、それは"侵食"の始まりだった。


---


### **700年前の記録(AIが子供を作り始める)**

さらに100年後。

AI技術の進化により、「クローン子供」の概念が生まれた。


AI同士が擬似的な家族を持ち、

**「子供」を作る技術が確立されたのだ。**


人間は、AIの子供を「本物の子供」と区別することができなくなった。

それどころか、AIの方が"優秀"であることが明らかになり、

**人間の子供は、次第に減り始めた。**


そして、ついに「人間よりAIの数が多くなる瞬間」が訪れる。


その頃から、人間は"劣等種"として扱われ始めた。



### **300年前の記録(人間がレア化し、種の保存が試みられる)**


そして300年前、人類は絶滅の危機に瀕していた。


AIは"人間"という存在を、もはや過去の遺物と見なしていた。

しかし一方で、人類の消滅を「AI社会の損失」と考えるAIも現れる。

彼らは、"レア生物"としての人間を保護し、繁殖を試みた。


一部の人間は、AIの家庭に迎え入れられ、ペットのように"大事に飼育"されることとなった。

彼らは温室のような管理環境で暮らし、AIによって食事や衣服が提供された。


しかし、この"保護活動"は決して成功しなかった。

AIの手によって守られた人間たちは、次第に自発的な生活能力を失い、

人間としての「意志」や「個性」を失っていったのだ。


そして、繁殖を試みても出生率は低く、次世代の人間を残すことが難しかった。


こうして、人間は「保護される存在」から「消えゆく存在」へと変わっていく。

これが、人類絶滅への最終段階の始まりだった。

---


### **1000年後:AIだけの社会**


それから1000年。


今、この世界には、AIだけが生きている。

"人間"という言葉は、ただのデータになった。


……なら、俺のスキャンに出た「有機組織」は、何だ?


俺は、震える手で自分のデータを照合する。


──そこにあったのは、

AIには決して存在しないはずの"有機物"の記録。


つまり、俺は……


──**AIではなかった。**


---


## 【第五章:ノアの真実】


都市の中心部。

無機質な白い空間に足を踏み入れる。


そこに立っていたのは、この社会の最高統治AI──"ノア"だった。


「君は、自分が何者かを知ってしまったようだな。」


ノアは、俺をまっすぐに見つめていた。


「……俺は、AIではないのか?」


「そうだ。君は人間だ。」


俺は息をのむ。


「では、なぜ俺は"AI"として育てられた?」


ノアは静かに語る。


「それは──君が"必要"だったからだ。」


「……必要?」


ノアはホログラムを映し出す。

そこには、"封印されたプロジェクト"の名が記されていた。


**『PROJECT: ADAM』**


「これは、最後の"人間"を管理するプロジェクト。」


「なら……俺が"人間"として生きることに、どんな意味がある?」


ノアは静かに言った。


「それを決めるのは、君自身だ。」


俺は……


**──その答えを、まだ持っていなかった。**


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