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09.元婚約者との再会

ひんやりと冷たい石畳の床で、私はかろうじて意識を保っていた。


「気を失っちゃだめ……」


一時間以内に、ノアの待つ図書室へ戻らなくてはいけない。

もし私が戻らなかったら、きっとあの真面目そうな男の子は自分を責めるだろう。


「起きるのよ、サラ。私はタフでしょ……成績はいつもオールA、妹たちのお手本にだった。クソ王子との婚約生活にも半年間、耐え続けた……」


そう、家族だ。

ここでくたばってしまっては、魔物の王女・リリーが人間界を統率してしまう。


なんとかして顔を上げた。すると机の上に座っている女性と目が合った。

肉厚の唇、幽霊のように白い肌。凶悪な目つき。


「あらあら。ねんねの時間にはまだ早いんじゃなくて?」


彼女は忘れもしない。リリー・キャンベル。

人間界の王子レオナルドの元婚約者で、五年前に死んだはずの令嬢だった。


「それともあの魔法使いを、夜通したぶらかしていたんですの?」

「そういう類の女もいるわね。それしか武器が無い、目の前の誰かみたいな女が」

「ふん。どちらの生き方が正しいか、レオの選択を見れば明らかですわ」


身体を起こそうとすると、リリーはぴしゃりと言った。


「あら、誰が頭を上げて良いなんて言っていませんわ」

「早くも王女気取りってわけ?」


彼女が懐中時計を振ると、ものすごい圧力がかかった。時計の針も進む。

残りは四十分になった。癪だが、彼女の機嫌をあまり損なわない方が良さそうだ。


「何しに来たのよ」

「二人きりで話すためですわ。城だと魔法使いの目がありますもの」

「ノアとローランの?」

「ええ。ちょうど見ていたところですわ、本の記憶を」


彼女は机の上から、一冊の本を手に取った。

面白くもなさそうにページをぱらぱらとめくる。


「これね。あなたが魔法界の城に連れて来られた夜ですわ」


すると本の上に、ある映像がうつしだされた。



それは魔法界の城で、見覚えのある寝室だった。

シングルベッドに寝ている私の足元に、ローランが立っている。


大きな窓は開いているので、戻って来たばかりだろう。

扉が開き、ノアが息を切らせて入って来た。


「お兄様!あと、ベッドに誰かいます……?」

「静かに。ここで話すのはよそう。彼女は疲れているんだ。寝かせてあげたい」


ローランは部屋にいたメイドに、私をベッドに移動させるよう指示をした。

寝室を出て、二人は長い廊下を歩き始めた。


「彼女がサラ・ベルモント。ついに連れて来たんだ」

「お兄様が姿を変えてストーカーしていた、人間の女性ですね」

「愛と読んで欲しいな」


ノアはため息をついた。


「まさか連れてくるなんて。人間界の第一王子と婚約したんでしょう。戦争になりますよ」

「もう婚約していないよ。元婚約者が現れて、彼女はお役御免になった」

「そのために、お兄様が元婚約者をよこしたわけじゃないですよね?」

「はは。サラを手に入れるために手段は選ばないけど、最愛の女性を不幸にする道は選ばないよ」


前半に不穏な響きがあったが、ノアは聞き流していた。慣れているのだろう。

ローランは真面目な顔になり、話を続けた。


「その元婚約者だけど、どうも様子がおかしい。調査を続けようとしたけど……」


急に二人の影がぐらぐらと揺れて、何もかもが消滅した。



ひんやりとした石造りの部屋で、蝋燭がゆらゆらと揺れている。

不自然なタイミングで映像が打ち切られたが、原因は明らかだ。

私は机の上で忌々しそうに本を閉じた、リリーを見つめた。


「この世界には、人間界を含めた三つの世界があることはご存知ですの?」

「いや、人間界しか知らなかったわ」

「当然ですわね。人間には魔法界と冥界については知らされていないもの」


彼女は本を持って、私の前に降り立った。そして手を取り、本に近付けた。

触れるだけと思いきや、ページの中にずぶずぶと手が入っていく。


「ちょっと、本に触れるだけって言われたんだけど!?」

「こっちの方が手っ取り早いですわ」


彼女の言葉が遠くから聞こえる。

その記憶を最後に、私は本の中に吸い込まれていった。

●読者の皆様へ

お読みいただき、ありがとうございました。


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