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06.魔法使いの正体

目が覚めると、そこは眠りについたはずの山小屋ではなかった。

趣味の良い飾り付けがされた、高く広い天井が目に入った。


「ここ、どこ?」


ベッドも小屋のシングルベッドではない。ふかふかのキングサイズのベッドだ。

なめらかなシルクの手触りが心地良い。それはかつて住んでいた城を思い出させた。


「まさか、城に戻って来た?!」


飛び起きて、辺りを見渡した。壁の色も装飾も違う。

ただ置かれている家具や調度品は、見るからに高そうだ。こんなに部屋を持てるのは、王族くらいだろう。


「まさか、ローランって……」


控えめなノックの音が部屋に響いた。この鳴らし方は、声を聴かなくても分かる。


「ジェフリー?良いわよ、入って」


ベッドの上で返事をすると、ゆっくりを扉が開いた。


「お目覚めかな、サラ様?」


口調はジェフリーだが、姿はローランだった。

昨晩と同じ魔法使いのローブを着ている。王族が公務の時に着る服では、決してない。


「あー、良かった。安心したわ」

「何がだい?」

「ローランが王族じゃなくて。そうだったら、今すぐに窓から飛び降りてたから」

「僕が王族だと、何か問題があるの?」


彼のあっという間に私のそばにやってきた。長い足を組んで、ベッドに腰かけている。


「大ありよ!」


勢いをつけて、ベッドから抜け出し、彼の前に仁王立ちになった。怒りが私をそうさせた。

本当は薔薇の花弁のようなベッドに、いつまでも寝ていたかった。


「モラハラ王子、死人の元婚約者、親バカ王妃。王族には嫌な記憶しかないわ!」


昨夜に森で見せた余裕ぶった態度はどこへやら、ローランは瞳を泳がせている。

ゾンビを前にしても落ち着いていたのに。ゾンビより怖いことを言ったのだろうか。


「二度と王族とは関わらない。王族とは絶対に婚約しないんだから!」

「ま、まあまあ。これでも飲みなよ。スピーチで喉が渇いただろ?」


彼はナイトテーブルに置かれていた、グラスを差し出した。口をつけると、ただの水ではないことが分かった。

リコリスがほんのり甘い、ミントの香りのデトックスウォーターだ。おしゃれなカフェにありそうな味だ。


それを一気に飲み干す私を見ながら、彼は呟いた。


「昨晩は僕を誘ってきれくれたけど、まだ道は遠いか……」

「誘ってきた?」


ベッドに座る彼は、隣の場所を軽く叩いた。ここに座れ、という意味らしい。

私はおそるおそる腰を下ろした。彼の瞳が、いたずらを企んでいる少年のように輝いていたからだ。


「小屋のベッドで寝ていた君を、誰がここまで運んだと思う?」

「ローランでしょ」

「うん。ベッドを空に浮かべて、ここまで来たんだ。始めからそのつもりだった。だからシングルベッドが見えて、がっかりしたんだ」

「え?」

「危ないだろ、大人が二人も乗るのは。キングサイズなら余裕で乗れるけどね」


……確かにローランは言った。

「サラは華奢だから、シングルベッド一台に二人でも大丈夫だね」」

それに対して私は返した。

「下半身でものを考えるの、やめてくれる?」……


今すぐ消え去りたかった。この際、洗面所でも良い。

ベッドから立ち上がろうとしたが、それは叶わなかった。彼はしっかりと私の腰を引き寄せていた。


「サラはベッドが一つで、一緒に寝ることを想像してたんだよね?」

「……」

「はは、どうしたの?こめかみまで赤くなってるよ」


ローランは徐々に距離を詰めてくる。

城の皆に言ってやりたい。笑顔がさわやかな好青年に騙されないでください、と。


すると、部屋にノックの音が響いた。救世主だ。

「邪魔が入ったか」と呟くローランから身を放し、扉へ向かった。



ドアを開けると、そこにはおかっぱ頭の女の子がいた。

十代前半だろうか。ローランと似た魔法使いのローブを着ている。


彼女は私の顔を見上げて、目を見開いた。


「貴女が、お兄様の……」


ささやくように小さな声で、彼女は言った。

銀髪に大きな瞳、すべすべの肌、整った顔立ち。彼女がローランの妹であることは、一目で分かった。


「呼びに来てくれたのね。ありがとう、お嬢さん」

「!」


頭を撫でようとすると、ばしっと手を振り払われた。しかも目つきが鋭い。

美少女が睨む様子は迫力がある。彼女はベッドに座るローランに向かい、言った。


「お兄様。お楽しみのところ悪いですが、公務の時間です」


驚いた。目の前の子は、男の子の声をしていたからだ。

その答えは、ローランが教えてくれた。


「ノアは男の子だよ、僕の弟だ」


だから目つきが鋭かったのだ。性別を間違えられて機嫌を損ねたのだろう。

そんなことよりも、確認しなくてはならないことがある。


私は振り向いた。ベッドの上で気まずそうに頭をかいている、青年を見つめた。


「公務?」

「はは、そういうこと。窓から飛び降りるのはやめてね」


どうやら彼は、他ならぬ王族だったらしい。

●読者の皆様へ

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