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神様からの挑戦状です  作者: ミミズク
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プロローグ


「まずいな」


敵と対峙しながら、ぼそりとつぶやく。肋はおそらく3本は逝ってしまっているが、回復は出来ない。臭いから目の前の相手は1人だけだが、離れた所に仲間が数人おり少しでも動くとおそらく遠距離の攻撃が来る。脚は生きているが、逃げ切れるには体力が足りない。出血も酷く今はまだ平気だが、このまま睨み合いを続けると気を失って倒れてしまうな。まさに袋の鼠だ。これだけ追い込まれているわけだが殺そうとしてこないあたり、生け捕りが目的か。


「おいおいこんなもんかー?獣国の勇者様は?案外簡単な依頼だったなぁおい」


勝ちを確信したのか敵が話しかけてきた。


「いつまでそんな痩せ我慢するつもりだぁ?ほら、さっさと倒れろよぉ」


此方には逃げる体力が無いと分かった上で今か今かと獲物が倒れるのを待っている。

人間族の男でガラの悪い見た目いかにもチンピラだが、こいつ一人なら倒せる。武器も大斧と破壊力はあれど、スピードが遅い為なんとかなるだろう。だが、背後の遠距離攻撃が厄介だ。ローブを被った奴らが炎の魔法を何度か撃っている。その魔法がなかなか速く、ましてや戦っている途中に撃たれると避けきれない。

とはいえ、話しかけてくるという事は相手も油断していると見れる。少々賭けになるが、動くなら今しかないな。


「しかたない。使うか。」


その言葉とともに取り出したのは手には王から譲り受けた一つの小瓶だった。

敵が気づいて襲いかかって来るが、すでに遅い。遠距離の魔法使いから、魔法は放たれたが、ほんの僅かに遅れている為ギリギリ届かないだろう。持てうる全ての力を振り絞って大きく地面に叩きつけた。そして小瓶が割れ、破片が周囲に飛び散ったときにはボクは既に呪文を唱えていた。


世渡り(トラベリング)


その言葉を告げた瞬間、ガル・ロキオンは意識を失った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

7月の中頃、梅雨が明けだんだんと暑くなってくる季節にきしきしと音を立てながら、俺は小さな頃から愛用している車椅子を漕いでいた。

俺の足は生まれつき動かない。医者には、生まれた時から、不治の難病で現代医療では治す事が不可能な病だと言われていた。所謂、障害者だ。外国の文化では神からの挑戦を受けて生まれたと言われているらしい。そのため他人から見ると普段の日常生活は些細なことでも、俺にとっては立て続けに困難が起こるイベントの連続だった。

俺、小林水希(こばやしみずき)は高校1年である。

家から高校は、意外と近場にあるため朝はギリギリまで寝ていることが多いが、今日はいつもよりほんの少し早く起きてしまった。

朝早く起きたからと言ってほんの少しでは、何かするには時間がない。仕方がないから俺は手短かに準備を済ませ、学校へと向かって車椅子を漕いでいっているのだった。朝の陽気を背後に感じながら登校していると、うしろの方から突然声をかけられる。


「おーい!待ってー!」


声のする方へ顔を向けると、赤毛のロングヘアーを風になびかせ、こちらにだんだんと近づいてくる人影がある。

何故そんなに朝早くから元気ハツラツとしていられるのかなかなか理解し難いが、俺が振り向いたのがわかったとたん爽やかな風を吹かせながら此方へ全力ダッシュで近づいてきた。


「ゼェ、、おはよう、ゼェ、、水希くん。今日もいつになく目つきが悪いね!ゼェ。」


「そりゃ、朝から全力疾走したら、息が切れるだろうに。というか、それを言うためだけに全力疾走したのかおい」


「えへへ。」


会って早々、さも当たり前かの様に人に笑顔で悪口を言って来たのは俺の幼馴染みである、佐々木田朱音(ささきだあかね)だった。歳は俺の1つ上の17で、スポーツ万能、誰とも仲良くなれる陽キャだ。彼女自身はしっかり者のお姉さんと思っているようだが、実際は天然、というかアホでありあまり物事を深く考えなずに、よくドジを踏む。容姿はそこそこ整っており、少しウェーブのかかった赤毛のロングヘアーに年相応に膨らんだ胸とぱっちりとした大きな眼が特徴的だ。昔からの付き合いだからかよく俺に絡んでくる。


「褒めてねぇよ。まったく誰がスーパーの売り残った魚みたいだ。目つきが悪いのは元からだ。ではゴキゲンヨウ」


「ちょっと待ってぇっ!今日のテレビ占いで相手の第一印象を指摘すると、仲が一層良くなるって聞いたの!え、効果なし!?」


「寂しそうにしてた奴にかけた言葉がそれかよ。普通その人の良いところを言うだろ。お前の道徳はどこに置いてきた。」

というか、どんなアドバイスだよテレビ占い。俺みたいな被害者が全国区で起きてるのではないだろうか。


「ひどいなぁ!せっかく寂しそうな水希くんとの距離を縮めようと作戦を練ってきたのにー。」


そう言って俺の背中側から抱きつくようにもたれかかってくる。あの、ちょうど肩に柔らかいものが当たってるんですが。そういうのは勘違いするので良く無いと思います。


「おい。あんまりくっつくなよ。暑苦しいし、動きにくい」


もう少しこの感触を堪能していたかったが、心を鬼にして朱音を引き剥がす。こいつの距離感が未だにわからない。こうやって数々の人を堕としてきたのだろうか。


「冷たいなぁ。いつでも『あかねぇ、あかねぇ』って言ってきた君は何処へ行ったんだか。」


「いつの話してんだよ、もう16だぞ俺。」


「え〜覚えてないの!?一緒に保育園に行っておままごとしたじゃん。他にも、、、」


本当にこいつの後に生まれてきた事を恨むぞ。

嫌な予感がしたので俺はそそくさとこの場を後にしようと車椅子のタイヤに手をかけた。こんな道のど真ん中で、俺の黒歴史をベラベラと話されたらたまったもんでは無い。こんなところで足止めを食らって学校に遅刻したら大変だ。断じて逃げたのではない。

腕に力を入れて、勢いよくタイヤを回して猛スピードでアホの幼馴染みを置いて行った。ガタガタと車体を揺らしながら、走行していると風を切ってとても気持ちいい。初夏だからか最近は暑いから尚更だ。

そんな俺は急ブレーキをかけた。

最初はゴミかと思ったが、全然違っていた。毛が生えていた為だ。正直驚いた。このご時世にこんな歩道の真ん中で、見つけるとは思ってもみなかった。


目の前に、一匹の犬が倒れていたからである。




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