さいしょのこと。
まず最初に視界に入ったのは、目も眩むような真っ青な空だった。
雲一つない晴天の空だ。鳥も飛んでいる。流石に高すぎてなんていう種類の鳥かまではわからないが。
此処はどこだ?
どうして倒れているんだ?
今は何時だ?
様々な疑問が次々と過るけれど思考が全くまとまらないまま、ぼんやりと空を眺めていると唐突に視界に誰かが入り込んできた。
空を自由に飛び回る鳥を見ていた視線が強制的にその人影へと向けられる。
まず分かったのはそれが少女だということ。
続いてわかったのは、薄金色の長い髪、空とも見紛うほどの真っ青な瞳、長い睫毛にモデルにもなれそうな可愛らしい顔と――――
「昴流!死体が生き返った!早く殺さんとゾンビ増える!」
驚くほどの頭の弱さだった。
「いやいや!死んでないし!?」
ゾンビになるのは勘弁だが、死体扱いをされるのは心外だ。
飛び起きるようにして上半身を起こして周囲を見渡すと、そこには少女だけではなく数人の少年少女たちがいた。
金髪の少女の様に驚いて俺を見ている奴がいれば、感心するような目で眺めてくる奴もいる。
一通り周囲を見渡してから、改めて少女を見た俺はギョッとしてしまった。
その可愛らしい外見には似つかわしくないもの―――剣を手にとって俺に向けていた。
反射的に両手を上げて敵意がないことを示す。
(おかしいでしょこんなん銃刀法違反でしょ早く誰か通報してくんないかな!?)
嫌な汗が体中から噴き出してくるのを感じた。
まさかこの日本で生きてきて、剣を向けられるなんてことがあるなんて誰が思うだろうか。
少なくとも俺は思わなかった。
他人に嫌われないように、恨まれないように、“そこそこ”を心がけて生きて来たんだ。
無関心こそあれど、殺されそうになるなんて冗談じゃない!
「陽向、武器しまえよ。コイツは敵じゃない」
「なんでわかんのさ!あっちから送り込まれたスパイかもしれないじゃん!」
一人で混乱していると、少女を宥める声が響いた。
声の主は先程俺を感心するような目で見ていた少年だった。
少年といっても年齢は20歳に届かないくらいか。少年と青年の間くらい。
おろせば肩くらいはありそうな茶色の髪をポニーテールにしていて、同じく茶色の瞳は眠たそうに垂れていた。
陽向、と呼ばれた金髪の少女はブツクサ言いながらも俺の傍から離れ、代わりに少年がその場所へとしゃがみ込む。
俺の姿を上から下まで眺めるように視線を流した後、上げたままだった俺の両手を下げさせるように片手をひらりと動かす。
「お前、何処から来たんだ?どうやって来た?」
「何処って……此処はどこなん、…どこですか」
思わず敬語になってしまった。
良く分からないが、この少年からは謎のオーラを感じる。
威圧感とかじゃなくて、なんというか……急に目の前に大統領が現れた時みたいな。
俺大統領に会ったことないけど。
少年は一瞬驚いたように目を見開かせてから、思案するように黙り込んだ。
少年の後ろで何か言いたげに陽向が睨んできたが、俺はそれを見ない振りをして視線を逸らす。
ほんの少しのだんまりの後、少年は立ち上がり、俺にも立ち上がるように合図を寄こした。
「記憶喪失か?それとも隠してる?……いや、無理があるだろ」
周りを見ろとでも言われたかのような顎の動きに、釣られる様にそちらを見た。
……青い空、空を飛ぶ鳥、どこまでも続くかに思われるだだっ広い大きな海、それと海、それから海……
いや今いる場所全部が海に囲まれてるっぽいな???
「え?」
思わず素っ頓狂な声をあげると、昴流と呼ばれた少年は俺に振り返ってこう言った。
「ようこそ地獄へ」