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プロローグ

 注意書きが必要になると思い、ここで。


 まず、この作品はなろう形式で、27話ほどで完結します。


 というか、実は新人賞への応募作品になります。

 結構前ですが、電撃小説大賞で三次通過(最終選考の一つ手前?)くらいまでいきました。

 吸血鬼の設定とか気に入っているのと、途中からの展開は気に入っています。


 ただ、この話で小説の一冊目として完成していますが、その後を書く気は今のところあまりありません。

 その辺りは注意してから読んでいただければと思います。

 動くものがいないからこそ己の鼓動が耳障りなほどよく聞こえた。


 その時、彼が意識していたことは苦しませないことだった。

 いや、それは意識というよりも願いだったのかもしれない。

 例えばそれは、日課である素振りの際、一振り一振り己の成長を刻むのと同種の祈り。

 真摯であれ、誠実であれ。

 人の純粋な心というものは裏切らないのだから。

 苦痛多きこの世界から、彼女の魂を文字通りに斬り離してやったのだ、と。

 それは懺悔にも似た慈悲だろう。

 もしくは愛。

 あるいは優しさ。

 いや、こんな言い訳めいた考えで救われるのが己のみである以上、それはごまかしか弱さなのだ。


 認めろ。現実を。

 考えろ。己のなしたことを。


 彼は目を見開いて、足元に転がっている死体を確認する。

 若い少女の死体だ。

 首を落とされた、よく知っている相手の死体である。

 もう物でしかないそれは彼の幼なじみだった。

 ずっと隣家で暮らしていて、よく見知った異性を自分がたった今、斬り殺したのだ。

 斬首した時に命と一緒に頸動脈から血が間欠泉のように吹き出て、彼の体を赤く濡らした。

 顔を背けたのは血が口に入らないよう気をつけたからで、目を逸らしたわけではない。

 そのまま訓練された動作で彼は心臓へ刀を突き立てた。


 これでもう絶対に生き返らない。


 彼は荒い呼吸を鎮めて、強張った手を叱咤し、死体の処理を開始する。

 冬場であっても、死体が急激に冷えるなんてことはない。

 だから、頭部の失われた死体を抱え上げた際、ぐんにゃりとした柔らかく暖かな感触とその重さを実感して彼の心が震える。

 その時だった。


 ……あ。


 恐ろしいナニカに襲われる。

 熱いものがこみ上げてきたのだ。

 最初、彼はそれが何なのか分からなかった。

 胸の奥底から湧き出る感情は抑えることも抗うこともできず、ただ、我知らず頬を一筋の涙が伝う。

 彼は呆然とそれを拭い、自問自答する。

 悲しいとは思っていないはずだ。

 それは間違いない。

 仕方がないと納得した上での決断どころか、そもそも、自分から父に頼み込んでその任を請け負ったのだから、悲しいなんて感情を持って良いはずがない。

 悲しむ資格などないし、必要なことだったと納得もしている。理屈の上では問題ない。

 なのに、何故か涙が溢れる。


「う……く……あ……」


 口元を手で押さえ、彼は声が漏れないよう必死になるが、抑えきれない。

 感情が失禁を続ける。

 分からない。

 どうしてだ?

 考えに考え、冬の大気で体が冷えきった頃にようやく思い至る。


 自分はこの少女のことが好きだったのか――と。


 だから、悲しいはずがないなんて嘘なのだ。

 当然のことなのだ。

 至極単純な理由に笑おうとするが、嗚咽にしかならない。

 彼はボソリと呟く。


「姉さんに、怨まれる、だろうな……」


 心を凍らせ、無駄口を封じ、ただただ死体の処理に没頭する。

 必要なことを淡々と遂行することで自分をごまかした。

 ただ、涙が口に入って、その塩っぽさに閉口させられ、苦笑が漏れる。


 それが罪の味だった。

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