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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

 元国王の独白〜こんなはずでは無かった〜

作者: Ahmed



 私はルイス8世。由緒正しきサンタマーレ王国の元国王である。祖父は覇権を唱えたルイス7世。自ら「王の中の王」と称するほどで、外征を繰り返してはその影響力を知らしめた。高祖父は我が王朝の創始者で内乱を鎮め、賢王と称されるほどの善政を敷き、今なお王国民の尊敬を集めている。


 


 さて、私は生まれながらにして国王となるために育てられた。正妃の母から産まれたため、側妃の子の兄ではなく私が王太子の第一候補だった。私は幼少期から帝王学を学び、時には泣きたくなる程過酷な軍事訓練を受けた。貴族たちの子息が遊んだり、パーティーを楽しむ傍らで、私は私の義務を果たすために勉強し続けた。そして、王太子となる条件「軍を率いて勝利せよ」を達成し、正式に王太子となり、政治学や経済学などのより専門的な勉学を収めた。そのような青少年期を過ごした私は王国のため、王国に尽くす事が王の責務と考えるようになった。




 父王の崩御で私は王に即位した。同時期に王家の分家であった公爵家から王妃を迎えた。今思えば、王妃への最初の言葉が「私は王として王国に身を捧げなければならない。時には家族よりも優先するかもしれない。それでもいいか?」と問うのはあまりに冷たかったと反省している。そして、私は時にそうしたのだ。疫病が流行った時には王妃も疫病に罹ったのに、私はその対策会議に追われた。戦乱が起きた時には家族を守るためではなく、王国を守るために行動した結果、王妃は暗殺者に狙われた。あぁ、なんと酷い夫だろうか。




 私が即位し、王妃を迎えて一年が経った時、兄が反乱を起こした。兄はずっと私の存在が疎かったのだろう。だが、そんな兄に勝ち目はなかった。国内のほとんどの貴族は私につき、兄には兄の母の実家である辺境伯家だけが味方だった。兄と辺境伯は敗れ、私は躊躇なく兄を処刑した。王国の為には反乱を起こした兄を生かしておくことはできなかった。辺境伯家も連座して処刑した。兄の母にも世話になったことがあったのに、王国の為に躊躇なく殺した。




 その後は割と安定していたと思う。私にも子が産まれ、他国との戦争に勝利した。しかし、外征を繰り返した祖父が残した財政赤字。それに加えて、兄の反乱と外征で財政は破綻寸前だった。私は王国の為、増税を指示した。それしか方法がないと思った。だが、国民は既に度重なる増税で苦しんでいた。




 私と王妃の間に産まれた息子は私と同じく王太子の第一候補となった。彼しか男の子供がいなかったこともある。だが私とは違い、父から何かを言われる事はなかった。私は父から王となるべく勉強し、体を鍛えよと常々言われていた。だが、私は王国の為に日々の政務と問題解決に注力し、子育てなどは全くしなかった。その結果、私の息子は放蕩息子となってしまった。貴族との諍いを起こしては私が金で解決させた。王国民を弑虐した時も金で解決させた。だから私は早くから息子を諌め、王国を治めることができる娘を正妃とさせるように、貴族からその候補を探した。結果、私が頭を下げて、王国一の才女と名高い侯爵家の娘と婚約させた。




 王国一の才女を婚約者とさせ、財政は火の車ながら、何とか王国を経営していた。だが、王国民の王家への怒りは爆発寸前だったのだろう。今思えば、私は祖父と高祖父の功績に縋っていた。彼らの功績は王国民にとって誇りであり、彼らを輩出した王家の為、王国の為ならば何もかも差し出すと思っていた。私も王国の為に尽くしているのだから、彼らも王国の為に差し出すべきだと、本気でそう思っていた。




 そんな時に私のバカ息子がやってくれた。子爵家の娘に手を出し、勝手に孕ませた上、衆目の前で婚約を破棄した。衆目の前であった以上、もう後戻りは出来なかった。私は婚約者だった令嬢の実家である侯爵家に謝罪をしに行くが、門前払いされた。さらに、バカ息子が孕ませた娘はバカ息子同様バカだった。もう交流をしなくなって久しい王妃は仲が良かった侯爵令嬢が婚約破棄されたことに怒り、ついに私に離縁を申し出てきた。私はなすすべもなかった。




 そして、王国で革命が発生した。民衆は度重なる増税や王太子の王国民殺害により、不満が爆発した。私は当然、王国の為に鎮圧しようとした。だが、そこに王妃の実家の公爵家、バカ息子の元婚約者の実家の侯爵家、さらに貴族たちも革命に加わった。私は持てる力全てで対応しようとした。これでも戦乱に勝利してきた、勝ち抜いてきたという自負があった。だが、他国まで味方につけた革命軍に大敗した。もはや私に残されたのはバカ息子とその婚約者、わずかな近衛兵しかいなかった。首都近郊にある王国名の由来となったサンタマーレ城に籠城したが、民衆だけでなく公爵家や侯爵家、その他貴族の軍や他国の軍まで加わり、落城した。私は捕らえられ、今この牢獄でこれを書いている。




 数々の人たちが面会に来た。民衆のリーダー、公爵、侯爵、元王妃、息子の元婚約者。そして、私は知った。私が王国の為と思っていたことは王国の為では無かった。今になって私はようやく理解したのである。ただ、公爵には同情され、民衆のリーダーに貴人として処刑することを認めさせたと伝えられた。




 私は明日、処刑される。私は、少なくとも私はという方が正しいだろうが、王国のとって良かれと思うことをした。だが、それは違った。だから、私は私の死を生み出した者たちを許そう。サンタマーレ王国に栄光あれ!我が王国に神のご加護を!



 皆さま、どうも。作者のAhmedと申します。今回、「小説家になろう」初投稿でございます。優しい、暖かな目でご覧下さい。



 本作品は架空の王国を舞台に革命によって退位した元国王が牢獄の中で書いた手記という形式です。モデルはフランス国王ルイ16世です。ルイ16世といえば、フランス革命においてギロチンで処刑された国王として有名ですが、彼は果たして愚王だったのでしょうか?賛否両論あると思いますが、フランス革命は必ずしも彼だけの責任ではないと私は思います。ルイ14世以来の散財、マリーアントワネットの放蕩っぷり、その他様々な要因が重なって起きたと思います。ルイ16世にも責任がないとは言いませんが、彼が1番悪いのかと言われると疑問が残るところです。革命が起こる前に然るべき対策をしなかったと思うなら愚王で、彼自身が原因ではない事で振り回され、しかも彼が責任を取ることとなったと考えるなら、時代が悪かったために処刑された可哀想な王です。まあ、後から出てくるロベスピエールよりはマシだと個人的には思います。



 本作の元国王は「王国の為」という事に囚われすぎた国王です。しかし、国のトップが言う国の為は必ずしも国民の為とは限りません。国の為≠国民の為なのです。その構造で「国」と「国民」があまりにも乖離していると、こんな結末になることも、、、ということです。元国王自身は国の為に尽くした人物でしたが、国民の為ではありませんでした。国王からすれば、国の為に多くを犠牲にしたのに、何故処刑されなければならないと思うことも出来るでしょう。それは当然の感情であり、彼自身も可哀想な人間なのです。



 今回は書きませんでしたが、王国の未来はどうなるのか?王家の分家筋の公爵と民衆のリーダーという2つのキーパーソンを出しておきました。後は皆様のご想像にお任せします。


 それでは皆さま。ごきげんよう(貴族風)。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] 盛者必衰、次の支配者もいつか新しい改革者のために滅びるのだろう。 [一言] 国民に重税を負担させながら、息子の不始末を金で解決していれば不満の爆発は当然。 王妃は何をしていたのだろうか。王…
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