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邂逅と真実

長め(2500字)です。





 暗闇のなか椅子に掛けたままのセレーネを、揺れる灯りが照らす。


「お待ちしておりました」


 貴族牢であっても、夜間、灯りはない。

 鉄格子の向こう、足音もなく現れた仮面と黒マントの人物。その人物の手にあるランタンは扉式らしく、灯りを牢へ向けており、セレーネが知れるのはその人物が男だということだけ。


「トレイル侯爵令嬢。私が来るとご存知だったのですか?」

「貴方はトレイル家の十字架なのでしょう? 違うかしら?」

「私がここに来た理由もご存知ですか?」

「あなた方は、必ず原因と理由も記録するのでしょう? そしてそれは真実でなければならない。間違っても、トレイル家の者を冤罪で葬らない為に。今回の真実を語れる者はわたくしだけですもの、来ると思って当然です」


「なるほど、よくご存知のようだ」

「そういえばわたくし、貴方に教えていただきたいことがあるの」

「私がお答え出来ることで、貴女が真実をお話くださるとおっしゃるのなら」

「構わないわ。わたくしが真実を話しても、それを知るのはトレイル家の当主だけですもの。そうでしょう?」

「お父上には知られてもよいと?」


「ふふ。ひとり娘が、逆さ十字どころか斬首になるのよ? 迷惑どころではないでしょうね。せめて理由くらい教えてあげないと」

「そうですか。では私にも教えてください。何故、第二王子に毒を盛ってまでアリアを殺したのですか?」

「それはね、アレックス殿下の凱旋が嘘だからよ。そして、お兄様である第一王子殿下は亡くなってはいない。敵国で捕虜になっていらっしゃる」


「何故それを……」


「わたくしね、ずっと〝トレイルの十字架〟が、どの家なのか知りたかった。だから、見込みのありそうな者達を教育して探させていたの。全然解らなかったけれど。でもせっかく集めたのだから、殿下の為に使おうと思って兵に紛れ込ませていたのよ」


「まさか。もしかして第二王子付きの斥候も?」

「そうよ。とても優秀だったでしょう? でも、その者を知っているなら、あなた方も誰か送り込んでいたようね」

「黙秘します」


「別にいいわ、そんなこと。でもどんなに優秀でも、第一王子を奪われ、アレックス殿下を苦しめたのなら意味はないわ────もうご存知でしょうけれど、アリアは敵国の間者なの。第一王子の側近を誑かし敵国に売らせたのも彼女」

「知っています。それを第二王子が知ったのは戦場だったようですが」


「でしょうね、側近が寝返るとは思いもしなかったでしょうし。でも、それを陛下にお伝えすれば、敵国の手に落ちた第一王子は放棄されるわ。第二王子であるアレックス殿下がいらっしゃるなら尚更。殿下は第一王子を慕っているから、お伝え出来なかったのでしょう。そこにつけこまれて、兄の命と引き換えにアリアを王妃に据えるよう脅されていたのよ。敵国もずいぶん気の長い侵略をすると思わない?」


「だから、彼女を殺したのですか?」


「ええ。私との婚約が破棄される前でないと近づくことが出来ないし、二人が婚約する前でなければいけないから。それに王家に殺させるわけにはいかないでしょう? 確実に第一王子が殺されてしまうもの。だから、()()()()()()()()()()()()殿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()必要があったのよ」


「第二王子まで苦しめなくても良かったでしょう。アリアを尋問すれば済む」


「ダメよ。対象が殿下だと信じさせる必要があったの。第一王子の側近のように、アリアの息がかかった者がどれだけ近くにいるかわからないでしょう? それにわたくし、アリアが知っているようなことはとっくに知っていてよ。きっと今頃、わたくしの手の者からお父様に渡っているわ。それが、お父様の助けになれば良いのだけど」


「ですがお助けするなら、お教えするなり他に方法があったはずです」


「わかっていないのね。わたくしが真実、殿下をお慕いしていて彼の為に斬首になろうしていると知れば、殿下はとてもお苦しみになる。高慢で愚かな婚約者が馬鹿なことをした、で丁度いいのよ?」

「彼の為なら、汚名を着せられたまま死んでもいいと?」


「ふふ。殿下はね、例え政略的に結ばれたわたくしであっても、巻き込みたくなかったの。とてもお優しい方だから。でも、国の為に兄を切り捨てることも出来ない、愚かな令嬢を殺めることも出来ない、婚約者を遠ざけはしても巻き込むことは出来ない。そういう、王族としては弱くて愚かな方でもあるわ。可愛らしいと思わなくて?」


「……そんな不出来な婚約者の為に、貴女は名誉と命を捨てると言うのですか? 家門を巻き込んでまでそうする価値が彼にあるのですか?」

「そうね、きっとわたくしも愚かなのでしょう。理屈じゃなくてよ。わたくしは、弱くて愚かなくらい優しい彼を愛しているの。王子を愛しているのではないわ」


「…………」


「ねぇ、わたくしはアレックス殿下を守れても、第一王子をお助けすることは出来なかった。トレイル家の直系はわたくしが最後でしょう? 傍系はいるけどそこは目を瞑って、アレックス殿下に鞍替えしてくれないかしら? 殿下と一緒に第一王子を助けて欲しいのよ。ご自分で助けたいと思っていらっしゃるはずだから」


「さっきから貴女は彼のことばかり……」

「あら、それはごめんなさいね。でもわたくしに出来ることは、もう、あなた方にお願いすることだけだもの。──ほら、わたくしは全部お話したわ。今度は貴方の番よ」

「……何をお訊きになりたいですか?」

「そうね。まずはいつ、どうやってうちのタペストリーに刺繍したのか、とか」

「簡単です。我が家には全く同じタペストリーがあるのです。そちらに刺繍しておいて、侯爵家にいれた、我が家の者に入れ換えさせるだけですから」

「あらがっかり。奇想天外な方法を期待していたのに。なら、正十字と逆十字の意味は?」


「それは私がお答えしよう」






本当に「悪役」令嬢だったのでした。



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