道化師vs大英雄
「お話……ではなさそうですネ。」
時刻は夜、見上げれば雲ひとつない空。マイルームから、姫騎士と戦った門の前へとテレポートしてみればそこに居たのは、頑強な白の鎧に身を包んだ戦士。そしてその後ろには数十名の冒険者。
「お初にお目に掛かる、魔人クラウン・ヘッド。威圧感、いや存在感か。明らかに災厄の獣と同類の匂いだ。」
中身は声の低さから、おっさんだろうか。ステータス看破を使用し、相手のレベルを見定める。
(lv100、成程……この男がアンドラか。)
「初めまして、大英雄アンドラ様。私はクラウン・ヘッド、貴方達に危害を加えるつもりはありませんでしたが……これは一体どういう要件でしょうカ?」
「アンタに危害を加えるつもりが無くても、上の連中が騒がしくてな。済まないが、アンタにはここで討伐されてもらう。詫びといっちゃなんだが、俺とアンタ一対一での決闘だ。」
では背後の冒険者はなんなのか、と聞きたくなったがそもそも決闘自体罠という可能性もある。しかし、好都合だ。人族最強の力がどれほどの物なのか。
「成程、状況は理解しました。良いでしょう、貴方との決闘受けて立ちまス。無抵抗での死など、面白くないですかラ。」
「そう言ってくれると助かるな。俺も退屈してたのさ、最近は本気で戦うことも出来なかったからな。」
見合い。この空気感、まずは小手調と言った所か。
「武器は出さねえのか?」
「そうですね、その気にさせて貰えれバ。」
「そうか」と言った後、剣を構えるアンドラ。力が高まるのを感じるが、こちらのレベルは255。天地が翻ろうとも勝敗は既に決まっている。一瞬で勝敗をつけても良いが、それではつまらない。場の盛り上がり所がなくなる。
「『空揺の剣戟』」
「っ……!」
アンドラが大剣を振るうと同時に、空間が揺れアンドラの方へと体が引き寄せられる。踏ん張りきれない。このままでは、間合いに入ってしまう。
「まずは『連撃』っ!!」
キン-
見事に振るわれたその大剣は、レイフィムの胴体を完全に捉えた。そして、あろう事か剣は甲高い音を立てて弾かれる。そして出来上がった、大きな隙。
「クラススキル『ドッキリナイフ』」
アンドラのガラ空きの体へ、虚空から出現したナイフの雨が襲い掛かる。
「『ウォリアー・タンク』!!!」
体が薄く光り輝く。降りかかったナイフは全て弾かれ、地面へと落下した。
両者共に距離を取った事で、状況は振り出しに戻る。
「はっ、その体。まるで鉱石だな。」
「貴方の判断力もお見事。所持する中で最大の防御スキルを使いましたネ、ではコチラも……接近戦と行きましょう」
クラススキル『クラウン・アップ』を使用し、近接攻撃特化へとステータスは変化する。そして、知らぬ間にレイフィムの手には鉤爪が装備されていた。
「戦士に近接戦とは、舐め切っているな。」
「いえいえいえ、私はこちらの方がやり易いのでネ!!」
共に距離を詰め、放たれる斬撃。迫り来る鉤爪の連撃を全て完璧にいなすアンドラ。スキルを使用しないただの通常攻撃同士のぶつかり合いだというのに、その一連の攻撃全てが重い。
「まるで本能のままに振るわれる野生の獣が如き爪、技のかけらさえ無いとはっ!」
「申し訳ありませんが、私に技はございませン。」
アンドラの言う通り、レイフィムの攻撃は余りにも拙い。ただただ力いっぱいに振り下ろされる攻撃であり、そこに技などは存在しない。ただぶつけると言う、獣にさえ劣る攻撃。
それもその筈、この世界はゲームではない。つまる所、レイフィムはただの凡人なのだ。
「だと言うのにこの俺が押されているその膂力、素直過ぎるその攻撃。アンタとは別の出会い方をしたかったな。」
「ふふ、確かニ。ですがそれは叶わない。」
攻撃を止め、若干の距離を取り言葉を続ける。
「貴方の類稀な努力によって生み出されたその技術でさえも、圧倒的な絶望の前には無意味デス。」
発動するのは、クラススキル『二面性』。このスキルの効果は、ソロであれば攻撃力が飛躍的に上昇し、PTであれば魔力量が飛躍的に上昇するという変わり種のスキル。そして続けて自己バフを使用する。
「本気で行きます、死なないで下さいネ。私、人殺しになりたく無いのデ!!!」
「そいつは随分な無茶振りだなぁっ!!!!」
最初の撃ち合いを遥かに上回るスピードと攻撃。一つ一つの行動全てが、アンドラのソレを超えている。
「くっ……!!」
「ハッハッハッハッハッハッ!!」
息を吐く暇さえ与えぬ攻撃の連続。距離を取れば投与アイテム、近づけば鉤爪と臨機応変な対応。流石の大英雄も対応しきれず、鎧が擦り減っていく。
「仕方ねえ……!『挑戦者』発動!」
痺れを切らし、発動するのはクラススキル『挑戦者』。発動中1分間は全ての攻撃を弾く奥義であり、戦闘中一度しか使えない戦士クラスの切り札。つまり、ここを耐えれば勝ちだ。
「『戦士の矜持』『強靱化』『ウォリアー・レジスト』」
「ほう、次の一手で決めるつもりですカ。」
アンドラも自己バフを重ねがけして行く。恐らくは次の一撃に全てを賭ける為に。
「大英雄を言わしめた人族の極地をとくと見るが良い……!!
「『大英雄の一振り』」
アンドラの踏む地面が沈み、割れる。振り下ろすその大剣は空を割るほどの、強大な斬撃として襲い掛かる。聞いた事のないスキルと効果に、少し驚きを隠せないレイフィム。
しかしゆっくりと、その大地を割らんとする一撃に向けて……トランプを2枚取り出す。
「『クラウン・ショット』」
そのスキルの発動と同時に、2枚のトランプは射出されその巨大な斬撃に触れる。
ゴゴゴ-
瞬間、爆発のような音と共に大英雄の一振りは跡形もなく消え去った。
煙が晴れて行き、その先にはこちらを見て微動だにしないアンドラの姿が見える。
「……成程、俺はまだ極地の欠片さえ理解していなかったわけか。」
「いえ、素晴らしい攻撃です。これは演技でもお世辞でも無い。貴方は確かに大英雄だ。しかし、届かない。」
トランプをもう一枚取り出し、剣を構える素振りもなく、ただ立ち尽くすアンドラの方へと足を向ける。
「本当に残念です。これで私は人殺しになってしまウ。」
「そうか。」
ゆっくりとトランプに力を込めて、その首を断とうとした。その、瞬間。
『ルナ・スプラッシュ』
「すまない」
アンドラの言葉と共に、頭上から降り注ぐ大魔法がレイフィム達を包み込む
筈だった。
黒い斬撃が、その魔法を貫く。
「はぁ…………………………」
レイフィムは、魔法が降り注ぐあの一瞬で捉えていた。
見えるはずのない、その魔法の使用者に向かって『傀儡の大鎌』専用武具スキルを発動した。
たった数フレーム、コンマ数秒という異常な反応速度。一般人であったはずのレイフィム、その唯一の異常性。恐るべき、反射速度。
たった一人でワールドボスを倒したその、異常なプレイング。それを可能にしたのは、卓越したその異常な反応速度が理由だった。
_____
「はっ…………!?あり得ないっ……!!!!なんで!!!!????」
上空にて、少女のような外見をしたアーリア・ファルネスは1人喚く。
「なんで分かるのよ……!!!???」
レイフィムの斬撃は、遥か上空にいるアーリアの腕に深い切り傷を負わせていた。
そう、命中していたのだ。多重にかけた隠蔽の結界、完璧なタイミングの専用武具スキル。
まるで最初から位置を理解していたかのようなその、寸分違わぬ一撃。
「ひっ……!」
傀儡の大鎌、そのスキルの効果は『恐怖に対する耐性を0にし、恐怖状態を与える。』という代物。
(350年間……一度も!一度だって!怯えた事なんてなかった!!この私が!?)
「あの道化師に、怯えているっていうの……?」
大英雄とも言われるアンドラが引き付け、アーリアが上空から2人を巻き込んでトドメを指す。そう言った作戦だった。大英雄の命を捨ててでも、倒さなければならない強敵。無駄に集めた高レベルの冒険者も、その為の駒だ。
「あれ……?体が……動かない…………?」
そして気づく、体の自由が効かない事に。
「貴方に一つだけ質問をさせて下さい。」
悪寒が走った。その声を聞いて、震えが止まらない。恐ろしいとこれ程までに感じたのは、いつ以来だろうか。ただ目の前に居る魔神が、恐ろしくてたまらなかった。
「その武器は、どこで入手したんですか?」
「げ…………げつ、ろうの……に、にじふえは……っ。む、むかしあらわれたっ……さいやくのけものを……たおした、とき……です……っ。」
抵抗も出来ず、恐怖にかられる儘に返事を返す。この一瞬でどうやってこの上空まで、そして何故体の自由が効かないのか。何もかも怖くて仕方がない。そして、近くで見てさらに理解する。その強大な魔力量。
「……成程。いやー、思わず演技を止めてしまうほど焦りましたヨ。本当に。成程、リポップしている訳ですか。興味深い。」
「ひぃっ……!」
ケタケタと笑う道化師を見て、震えが止まらない。今からでもここから逃げ出したい。だというのに体が言うことを聞かず、動かない。
「私、貴方にお願いがあるんデス。できれば、私の事は死んだ事にしてほしいんですヨ。」
「はっ……ぁ……?」
道化師はそっちの方が都合がいい、と言って語り続ける。
「私はやられたフリをしながら、ここから落下します。後は貴方が堂々と降りてきて、倒した。と皆様に説明する。そうすれば!万事解決。全て解決デス。」
「わっ……わかり………………ました……」
_____
「ガハッ……!?」
わざとらしい演技をしながら、無様に地面へと落下する。
「クラウン・ヘッド!?まさか、アーリアがやったのか!?」
「くっ……さすが大魔術師、アーリア。私では、力不足ですカ。」
どうやらバレてないらしく、アンドラがコチラを見て驚いている。
もがき苦しむようにのたうち回り、ゆっくりと動く。
「え、ええ。そう、そうよ。」
「だ、大丈夫か?アーリア。」
「私は……諦めませんからネ!!必ず、王都を……我ガ…………手中……二……」
捨て台詞は機械的に、そして最後はお約束だ。
ドゴン-
爆発と同時に周囲に宝石と布をばら撒き、カモフラージュをする。
「よし、成功。」
レイフィムは爆発と同時に透明化&魔力封印の首飾りをつけて逃走。
「アーリアとか言うエルフっ子、トラウマになってないと良いけどなあ。」
去り際に少しだけ、エルフの子が気がかりだった。
派手な戦闘の描写、難しいですね。




