道化師の思惑
エルブレン聖王国、王城にて。
「では、これより。魔人クラウン・ヘッドの対策について会議を行う。」
会議室には、エルブレンにおいて英雄とされる最強の冒険者達が一挙に集まっていた。
「魔人のlvは不明。しかし、魔力量は過去に現れた大災厄[月楼の王]に匹敵するものとされます。また、敵対したマグナ・レード・エルブレン様によれば、高い知能を持ち人間を確実に下に見ている。との情報もあります。そして、去り際にマジックアイテム[呼び出しの魔鐘]を渡してきたと。」
大臣の発言によって、動揺する一部の冒険者。しかし一切の動揺もせず、ただ一言英雄は告げた。
「この勝負、勝ちだろう。」
大英雄アンドラ、巨大な白い鎧を着込んだその大柄な男は一言そう告げた。
「理由をお聞かせしてもよろしいかな。アンドラ様。」
そう尋ねるのは、冒険者最高位であり月楼の王を討伐したエルフ[アーリア・ファルネス]。
側から見ればただの少女にしか見えないが、350年を生きるエルフにして最強の魔術師。
「奴は恐らく、我々の戦力を知り得ないでしょう。話を聞く限り、奴が知っているのは俺のレベルのみ。完全に我々を侮っている。だからこそ、アレが使える。」
「ふむ、できねばワシの持つ月楼の虹笛。そのスキルによって奴を討つか。良いじゃろう。」
会議室に集まっているのは、アンドラ、ファルネス、そして最高位の冒険者達。
「すげえな、[オールマジック]のアーリア・ファルネスと」
「ああ、[魔神狩り]スレイン・アンドラと肩を並べて戦えるのか。」
総勢16名の冒険者、その全てのlvが100。英雄の動きについていけるほどの、実力ある強者達。
「ふっ、久方振りに本気で剣をふるえるわけか。」
「ああ、そうじゃな。魔人に見せてやろう、レベルを超えた英雄本来の力を。」
最強の戦士と最強の魔術師。
「直ぐにベルを鳴らし奴を誘い出す。俺が代表してやっと対話してみよう。ダメそうならすぐにでも殺すさ。」
「敵は1人だが油断するな。奴も恐らく持っているじゃろうからな、災厄の魔道具を。」
一欠片の油断もなく、大英雄2名が確実にレイファムの首…いや、クラウン・ヘッドの首を狙っていた。
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王城、女王の一室。
マグナは1人、考えていた。
「あの道化師の狙いは、なんだ……?危害を加えず、わざわざマジックアイテムまで渡し……挙句いつでも呼べとは。」
王国に化け物が全速力で向かっていると聞いた時は、確実に知能を持った魔王の一種かと思ったが。考えが一切読めない。あの道化師の狙い。
「そもそも姿を表してこの国に現れたのは何故か。あそこまでの力があれば、不意打ちで何千人も殺せた筈。私を殺さなかったのも理解できない、もし協力するつもりでここに来たのならば…」
協力するつもりならばそもそも、あそこまで魔力を解放する必要が無い。そして質問の意図……。
「まさか……奴は愉しんでいるのか?我々がこうして抗うのを見て、笑っているのか?奴の目的は……なんなんだ…………?」
空を睨み、女王は思考を辞めた。
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「ここは……相変わらず、いや。かなり寂しくなったな。」
騒がしいBGMが鳴り響き、専用のNPC達が手品エモートを披露する。そんな光景は、ここにはもう無い。偽物の星と空を見て、ため息を吐いた。
客が誰もいない遊園地の様なこの場所で、ただ1人レイフィムだけが歩く。
「そうか、NPCは消えたか。BGMも聞こえず、遊具は動かない。」
メリーゴーランドにパンダ的な魔物の乗り物。ジェットコースターに観覧車、出店にマスコットのNPC。ゲーム中、ここはとても賑やかだった。様々なプレイヤーが訪れ、写真を撮り出店でアイテムを購入し去っていく。そんな懐かしい記憶を思い出した。
「行くか」
一際大きな天幕へと、足を向ける。その中では専用武具スキル【一人芝居のサーカス団】で使用された使い魔達が展示されていたはずだった。
「観客が誰もいないのは本当に寂しいもんだな。」
1人もいない客席、壇上には糸が切れた様にポーズをとって固まっている使い魔達。
全ての使い魔は、専用武具である【大芝居の福仮面】と同じデザインの仮面をつけていた。
「懐かしいね、コイツらもボスステージだと3倍くらいの大きさだったよな。」
大芝居の福仮面は、ワールドボスの1匹『福笑いの伝道師』を討伐した際にドロップした思い入れのある武具だ。そしてこの使い魔達は全て、その福笑いの伝道師の配下達だったという設定で、あの時は7匹がかりで襲いかかってきたものだ。
「1人で6時間も戦闘するとは思わなかったよ。まあ、それでもお陰でソロ最強を名乗れたんだけどね。」
壇上に登り、誰もいない客席へ振り返る。
「最後まで満員になることは無かったな、ここも。」
実の所このマイルームに来るプレイヤーほほぼ全て、アイテムの購入が目的だった。ここで販売されているアイテムは上級職プレイヤーでしか入手できない、希少なアイテムばかりだったからだ。
「インベントリ、オープン」
取り出すのは、最後に戦った支配王の専用武具。傀儡の大鎌と呼ばれる身の丈の倍はあろうかという鎌。スキルの効果は、耐性貫通攻撃。それに付け加えて恐怖に対する耐性を0にし、恐怖状態を付与というオマケ付き。
「随分物騒な鎌だな。」
大芝居の福仮面の効果、恐怖した相手の行動を完全に拘束する能力と抜群の相性だ。
「ここはどんな世界なのか、何故呼ばれたのか。この力で何を成すべきか。」
レイフィムも元はただの人間、異常に知恵が回るわけでもなく絶対的な支配欲があるわけでも無い。国を支配する気もなければ、隠居する気もない。ただ、道化師として。面白い事がしたい、私と共に誰か一緒に笑っていてほしい。そんな下らない考えだけが残っていた。
「ハッハッハッ……」
仮面を取り外し、ニヤリと笑う。縦に入った顔の亀裂、そしてその瞳は……宝石の様に見えた。ジュエリー・ピエロ、ゲーム中に隠し種族と呼ばれていた物の一つだ。
「最高に面白いショーでも、作りたい気分だ。この世界の誰もが笑ってしまうほどの、とても大きなショータイムを。この世界の全てが笑ってしまう、最高に下らないショータイムを。」
最高に下らない大規模なショーを成し遂げる。誰もいないサーカスでレイフィムは高々に宣言する。鎌をインベントリへと仕舞うついでに、取り出したのは時計。
「時間は、もう夜か……ってかこの時計時間合ってるのか?」
チリンチリンチリンチリン
途端に頭に響き渡る、騒がしいベルの音。姫騎士へ渡した鐘の音だ。




