五感があるのだが
「はぁ……これ現実だよなあ。明らかに。」
周囲に落ちている小石を拾ってその辺に投げつける。通常なら光の粒子になって消えるはずだが、物理法則に従い、小石は砕けて落下するだけだ。
「オウマイガァッ。フレンドに助けを求めることもできず、操作方法も分からない。」
冷静になって、非常に不味いことになったと理解する。もう一度その辺の石を拾い、その石を口に含む。
「ん…まずいな。ああ、美味しくない。」
ガリガリと音を立てながら石を食べる。これは、種族ジュエリー・ピエロのパッシブスキルだ。石を食料と見做して食べる事が可能になるネタスキル。手品に使えるのでお披露目する分には結構楽しい。
「あーインベリトリも開けないのかな。」
今までなら視界端に写っているはずのメインメニュー、そこからクリックすることで開けたはずだが。
「……インベントリ〜オープンッ!んー空間よ、我がアイテムボックスを〜!」
瞬間、空間に亀裂が走る。どちらの声に反応したのかは不明だが、その亀裂に手を入れる。すると、思考に応じたアイテムが自動的に排出された。ポンポンと出てくる複数のアイテム達。
「お〜!アダマス鉱石と、毒針。宝剣巫女式に?それにポーションも完備か。うーん、大丈夫そうだね。十分使える。触覚がある分、こういうの触ってると使ってみたくなるな。」
ボリボリとアダマス鉱石をつまみ食いする。この鉱石は適正lv255のラストダンジョンマップの至る所に生成される鉱石。ゲーム中には感じることができなかったその味は……
「コンソメの効いたチョコ…」
あまりに支離滅裂な味に脳が混乱しかけた。そしておかげで冷静になる、インベントリが開くのなら今まで通り探索ができるわけだ。
「よし、周囲の探索に向かうか。ただその前に、アイテムテキストでは最高級の美味しさと書いてあったこの……!神秘なる果実水。頂こう。」
瓶に入った金色に光るジュース。これは、期間限定の夏イベントで入手できたドロップアイテム。580個くらいあるのだが、一本600mlくらいだろうか。無論レシピも入手している為、生成も可能。
「な、なんたる!なんたる甘美な味わい!!!これは今世紀最大の美味さだ。断言して良い。危うくグルメツアーになってしまう所だった。」
閑話休題。未知のマップが目の前に広がっているのだ、ならば探索者……ノゥヴァズゼードのプレイヤーならばやる事は一つ。それは、自己バフ。
「えっとスキルは…口に出せば付くか?【自己脚力上昇Ⅴ】おお!!この感じだな。よし、じゃあえっと【クラウン・スピード】【道化師の笑い声】【常時自動反撃】【道化の装い】【道化師は死なず】【消費アイテム効果倍率上昇Ⅸ】」
ノゥヴァズゼードでは、未知のマップを探索するとき事前にバフをかけるのが恒例だ。どんな初見殺しがあるのか分かったもんじゃない、高難易度だからこそだ。
「気配探知、方角……あっちだな。せーーのっ……!」
瞬間、加速する景色。ゲーム中であれば風を感じることもなく、ただ移動速度が5倍になるだけだった。しかしこうして五感を得ると、非常に気分がいい。見る見るうちに森を抜けて、見えてきたのは明らかに巨大な街……いや、国。
「おー!人里発見、幸先いいですね。さっさと未知のモンスターに出会う前にセーフゾーンへ行かなくては。」
そもそもセーフゾーンがあるのかも不明だが、ここがlv255の最高難易度マップという可能性もある。というか最初のリスポーン地点から行ける場所って時点で怖い。ゲームがゲームなら2周目の洗礼であり、初見殺しという可能性も大いにある。警戒は必要だろう。
「ん?騒がしいですね、一体何が……。」
国の様子が見える位置まできて、気付く。巨大な門が閉まっているのだ。しかも気配探知によれば、NPC数百人が壁の上に居るのを感じる。
「まるでレイドが始まる前みたいな雰囲気ですけど、なんでしょう?もしかして魔獣の大群が後ろから迫ってきてるとか……!?」
そんな事を考えて背後に探知を掛けるが、一切反応がない。
「うーん何故。まあともかく、話を伺いましょうか。」
脚力上昇の魔法を解除し、ゆっくりと門の前に近づく。すると、壁の上から大きな声が聞こえる。
「問おう!!!お主は、何者だ!!!」
耳が痛くなる程の大声で、騎士が叫ぶ。おそらく女の騎士だろうという声、何者と聞かれて不思議に思ったがともかく初の会話だ。ここは道化師ロールプレイを心がけよう。
「私はクラウン・ヘッド!稀代の道化師にして、最高のパレードを約束する者です。まあ、しがないピエロですヨ。」
定型文だ。ゲーム中幾度ととなくこうやって挨拶して、色々なプレイヤーに引かれた。
しかしこの世界ならどうだろう、NPC相手なら!
「私はこの国の王女にして、騎士。マグナ・レード・エルブレン。魔王クラウン・ヘッドよ。貴方に、一対一の決闘を申し込みたい。」
「……は?……魔王?…………は?」
まるで今から死地に出向く様な面構えでコチラを睨む騎士。そして、ここでやっと気づく。
(私の装備……魔族に見えるのか)
そこじゃない。というツッコミが入りそうだが、実際レイフィムの装備は異常だ。奇妙な仮面にサーカスの団長の様な羽のマフラー、妙に派手な服装。自己バフによって高まったオーラ。どれをとっても人間には見えない。
「私はこの国を守りたい、私の命はどうなっても構わない。この国が滅ぶ事だけは絶対にあってはならんのだ。」
「あー、はい。成程、確かに合理的でス。自分は犠牲になるから国は助けてほしいと、決闘という形式で要求しているわけですか。国の安全ヲ。」
これは完全に勘違いされていらっしゃる。そう確信したレイフィムは、ステータス看破のスキルを使用した。
(レベルは54、中級者ってところか。適当に戦って冷静にさせた後に、誤解を解くか。)
「いいでしょウ!その決闘受け入れまス。」
「……!感謝する。」
「いけません母様!」
壁から降りて、コチラと戦おうというその時。少年が姫騎士を止めた。
「っ!なぜここに来たのだ、ベート!」
「ダメです!僕は!!母様を失いたくありません!」
少年は涙を浮かべながら、姫騎士に縋り付く。しかし後ろから現れた騎士によって、引き剥がされる。
「すまない。ベートを頼むぞ、エルド。」
「っ……どうか。ご無事で。」
「お母様!!!!ダメです!!!!」
無理やり引き剥がされ、そのまま涙を浮かべながら騎士によって後ろへと下がっていく少年。
(…………なんて物見せるんだ……戦いづらすぎるだろ……)
「あー、まあ。ハイ、別に危害は加えませんかラ。」
「っ、そうか。意外に話が分かるのだな、道化師よ。感謝する。」
完全に消えない勘違い。本当に説得できるか?と考えていれば、壁の上からダイレクト着地する姫騎士。ああ、覚悟ガンギマリだよ。これまずいな。と思いつつも表情には出さない。
「先に、どうゾ?」
「では、遠慮なく行かせてもらうっ!!」




