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破壊神の終末救世記  作者: シマフジ英
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02 帝国潜入(ルーツ視点)

 ミストロア王国の敗北から3年が経った。俺は今、飛空艇に乗っている。行き先はメルトベイク帝国の首都ブリドーアムだ。身分を偽装して帝国士官アカデミーに編入することになっている。


「ルーツ、では手はず通りに」

「ああ、分かっている。君も気をつけろよ」

 共に潜入する仲間と言葉をかわし、俺は下船の準備をした。


 船が港に到着すると、大勢の乗客と共に入国審査の建物に向かった。帝国人だけでなく、仕事を求める外国人が大勢押し寄せているのだが、中には俺のように不法入国を狙う者も多い。既にあちこちで摘発が行われている。運が良ければ強制送還、そうでなければ最悪極刑が待っているだろう。


「次の人」

 声をかけられ、俺は書類を手に審査官の元に向かった。ちょうど俺の前の者が不法入国狙いの外国人として摘発されていただけに、審査官も目が血走っている。しかし、俺の身分偽装を見抜くことはできず、軽々と通過することができた。


 協力者との待ち合わせまで少し時間があったので、俺は港からブラブラと歩き始めた。さすが、他国を次々と併合している強大な国だけあって、首都はにぎやかだ。繁栄を極めている。そこら中に大きな建物が並び、人がひっきりなしに出入りしているし、客商売の店もたくさんあって、売っていないものを探す方が難しいのではないかと思う。


「多くの犠牲を払って成り立つ栄華だ。反吐(へど)が出る……」

 俺は誰にも聞こえない程度の音量で呟いた。ミストロア王国で受けた仕打ち、それを思い出すと、声に出さなければ精神を落ち着かせられなかったのだ。


 俺は屋台で軽食を買うと、待ち合わせ場所で食べ始めた。約束の時間になると、見知った男女が歩いて来るのが見えた。


「ルーツ……、本当にルーツなんだな!」

「ルーツ、よく無事で!」

「ジャック、リリィ、久しぶりだな」

 俺は二人と握手を交わす。彼らはサナ王女の幼馴染の貴族だ。サナ王女と一緒に俺の住んでいた村に来ることもあった。彼らも普通の貴族と違い、平民である俺と仲良くしてくれたものだ。


 ジャックとリリィの先導の元、俺たちは帝国士官アカデミーの寮に移動した。手続きを済ませ、3人で俺の部屋に集まってから話を始める。


「反帝国同盟のスパイとして来るのがルーツだって知った時は驚いたぜ」

「それで今、同盟は?」

「ミタインズ地方を解放するため、作戦準備中さ」

「そうか、いよいよなんだな……」

 ミタインズ地方は今は帝国領となっているが、以前は小さな国があったところだ。何より俺たちにとっては特別な場所でもある。サナ王女がそこに軟禁されているのだから。


「今回の作戦に加わるメンバーのリストはできているんだよな?」

「ええ、もちろんよ」

「裏は取れてる。帝国のスパイが紛れていたりはしないはずだ」

「分かった。だが、俺も直に確認するよ」

「ああ、宜しく頼む」

 反帝国同盟の活動の話をそこで終わらせ、積もる話に花を咲かせた。ジャックとリリィはほぼ人質として帝国に連れて来られたわけだし、リリィなどは無理やり誰かに(とつ)がされても不思議ではなかったはずだが、ジャックとリリィが婚約していることが尊重されたらしい。おかげで二人はこうして一緒にいられるというわけだ。


 しばらく話をした後、ジャックとリリィは部屋に戻っていった。お互いを信頼し合い、頼り合っている様子が俺にもよく分かった。それはそうだろう。(かたき)の国でたった二人。婚約者でなかったとしても絆は生まれていたはずだ。


 俺はふと、サナ王女のことを思い出す。言わなければならないこと、聞かなければならないことがいっぱいある。再会を待ち望んでいるのかどうか、俺自身も分からなくなることがある。しかし、ジャックとリリィを見た後だと、あの美しい笑顔を思い出さずにはいられなかった。


「寝るか……」

 敵国の中とはいえ、休息は必要だ。俺は明日に備えて床につくことにした。



    ◇



 目が覚めると、身支度をして帝国士官アカデミーの校舎を目指した。俺が入り込んだクラスにはジャックとリリィもいる。自己紹介をすると、俺の実力を測るために模擬戦を行うことになった。


 訓練場に向かう途中、リリィが話しかけてきた。

「あれ、ルーツ、剣なんて持って、魔道士じゃないの?」

「しー。それは隠しといて。身分偽装の一環なんだ」

「え、そっか、ごめん」

 昨日、そこも説明しておくべきだったかと、俺は反省した。


「でもルーツが剣か。勿体ない気もするな」

 ジャックも話しかけてきた。心配も含んでいるのだろう。俺自身もこの3年でスキルの一つとして必死に磨いてきたつもりではあるが、付け焼き刃の域は出ていないはずだ。


「まあ、極められてはいないよ。でも、今は魔法を使うわけにはいかない」

「そっか……」

 ジャックに説明したところで訓練場に到着した。クラスメイトが見学位置に移動する中、一人の剣士が俺の前に出る。


「俺はブルーニー。俺が相手をさせてもらうぜ、新顔くん」

 ずいぶんと態度がでかい。自信もあるのだろう。調べによれば、ブルーニーはこの学年で2位の成績を誇る剣豪だ。


「ルーツだ。よろしく」

 俺は剣を抜き、構えた。ブルーニーも構える。クラスメイトの雑談が収まり、沈黙が訪れた。


「始め!」

 教官の合図と共に、ブルーニーが打ちかかってきた。俺は両手に持つ剣で受け止めたが、後ろに下がらざるを得ない圧力だ。なるほど、威張るだけのことはある。


「おらおら、どうした! そんな程度じゃ俺の靴磨きにもしてやれねえぞ!!」

 俺を格下と判断したのか、ブルーニーは余裕で挑発の言葉を口にしながら斬撃を繰り返す。


「ぐ……!?」

 ダメだ、(さば)くので精いっぱいだ。正直、魔法を使ってしまえば勝てる相手だと感じる。しかし、それはこれまで準備してきたことを無駄にすることだ。魔法の行使は選択肢にない。


 勝つことは諦め、無駄に怪我をしないために剣技を受け流し続けたところで、教官から止めの合図が飛んだ。


「ち……。どいつもこいつもつまらねえ。何で俺がこんなクラスに……」

 ブルーニーは多少息が弾んでいるようだったが、余裕の様子で取り巻きと共に教室に戻っていった。


 俺はジャックからコップを受け取り、息切れしながら中身を飲み干した。


「なあ、ルーツだっけ?」

「ブルーニーの攻撃を受け流し切るなんて、凄いじゃないか!」

「ああ、やるやる! 怪我する奴だって多いんだぜ!」

 クラスメイトが集まってくる。受け流すだけで褒められるとは……。どうやらあのブルーニーという男の剣の腕前は本物のようだ。


 ともあれ、クラスメイトからは受け入れられた。ジャックとリリィも輪に加わり、しばし談笑する。しかし、このクラスにも反帝国同盟に加わる意志のある者がいたはずだ。その外面だけを見ていてはいけない。そう思いながら、俺たちは教室に戻った。

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