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転生4話・VSドラゴン!

 ジョージアさんの修行は厳しかった。魔物の巣窟である地下洞窟で一週間、寝るに寝れず、食べるに食べれず、襲い来る魔物と戦い続けた。なんか紫色の巨大カタツムリだったり、なんか緑色の十二本足のクモとか、なんか蛍光ピンクのバナナみたいなやつとか、本当にわけわかんない見た目の化け物がわんさか出てきて、この世界ヤバいなって思った。でも何て言うか、魔物の見た目のセンスが『混沌』と似てるんだよね……これもあの白い人が作ったのかな……。

 でも修行の甲斐あって、とうとううちの体からオーラが出た。ドラゴンとは違って黄色いモヤモヤ、光属性の色らしい。

「一週間でここまで到達するとは……天賦の才に恵まれたのだな。農家にしておくには惜しい」

「いやぁ、それ程でも~」

「小僧の動きも良くなった。シスターは……相変わらずどんくさいが、自力で身を守れるようになっただけ良しとしよう」

「じゃあドラゴン倒せるか!?」

「……五分五分だな」

「ごぶごぶってなんだ!?」

「ドラゴンを打ち倒せるか、こちらが全滅するか、半々の確率だという事だ」

 半々、かぁ。不安要素といえば、そのドラゴンの強さが目測でしかないって事だけど。

「ねぇ、この世界って、死んでも教会に行ったら生き返ったりしない?」

「死んだ人が生き返るわけがないじゃないですか?」

「だよねぇ……」

 ゲームみたいにはいかなかった。試しに一回突っ込んで全滅したらやり直しとか出来なかった。いや当たり前なんだけど。

 でも、ずっと修行してるわけにもいかないし、正直飽きて来たし、そろそろボス戦したいなぁ。ジョージアさんの説得……できるかな?

「カナタさんの弟さんが心配です。五分で勝てるのであれば、リスクを冒してでも早く助けに行くべきではないでしょうか?」

「そーだぞ! おれたち十分強くなっただろ!」

「……農家は、どう思う?」

「うちは……」

 無理してでも戦いたいっていうのは、ある。でも、無理して自分が死んだら駄目だって事もわかってる。

 迷ってる状態じゃ勝てないだろうなっていうのも、わかる。だったらしっかり、覚悟を決めなきゃ。そう、前向きに。

「うちらが力を合わせれば、勝てる、そう信じてるよ」

「……わかった。修行は終わりだ。町で必要な道具を揃えて、明日ドラゴンの討伐に向かうぞ」

 おや、意外と簡単に説得出来ちゃった。焚火を消して、荷物を持って、少し早歩きで歩き出す。……こういう時に、一番早くて、怖い顔してるのがジョージアさんなんだよなぁ。

 この怖い顔の理由をうちが知る事になるのは、その夜の事だった。


 もう魔物の巣の中じゃないから起きる必要はないんだけど、つい四時間くらいで目が覚める。隣でアリアさんが寝ているので、起こさないようにそっとベッドを抜け出した。

 小屋の中を見渡すと、ジョージアさんの姿がない。外からパチパチと焚火の音がしたので、ブランケットを肩にかけて扉を開ける。

「ジョージアさん、見張りなら変わるよぉ……ふわぁ」

「いや、眠れないだけだ、気にするな。……修行から解放された途端に気が抜けたようだな、これからドラゴンとの戦いが待っているというのに」

「えへへ」

 あくびしたうちを怒る声は、いつもより少し迫力がない。寝不足かな? でも、大事な戦いの前って寝れないの、よくわかるから仕方ないね。

 焚火には鍋がかけてあって、ジョージアさんが中身をコップに注いで、うちに渡してくれた。ふーふーして飲む、苦い、コーヒーだ。

 ジョージアさんもコーヒーを一口飲んで、はぁ、と小さく溜息をついて、焚火を見つめる。

 そして、ぽつり、ぽつりと話を始めた。

「……少し、昔話をしよう。

 両親を早くに亡くし、貧しい暮らしをしていた兄妹がいた。兄は妹のために毎日働き、いつか王宮の騎士になって妹に裕福な暮らしをさせてあげようと日々鍛錬を積んでいた。大変だったが、幸せな日々だった。……だが、妹の七つの誕生日。空から、赤いドラゴンがやってきた。ドラゴンは貧民街を焼き尽くし……妹は、炎に飲まれて死んだ。兄はプレゼントを買う為に都に出ていたから助かったが……家も、唯一の家族も、何もかも失って……兄はその日、ドラゴンへの復讐を誓った」

 話しながら、どんどん怖い顔になる。あぁ、もしかして、ジョージアさんが怒っていたのって、うちらにじゃなくて。

「赤いドラゴンを探して兄は旅に出た。修行がてら各地の弱いドラゴンを倒して回り、いつしか『ドラゴンスレイヤー』等と呼ばれるようになったが、肝心の仇に会う事は出来ず。そして、自分一人の力では敵わないドラゴンに出会い、現実に打ちひしがれた。

 仲間を集めようと各地の酒場を巡ったが、ドラゴン退治に協力してくれる奴はどこにもいなかった。俺は毎日、酒場の隅で腐っていた。

 そんな時だ、貴様等に出会ったのは。……弟、無事でいると良いな」

 ジョージアさんはそう言って、どこか泣きそうな顔で笑った。うちは若干もらい泣きして、鼻を啜りながらジョージアさんの背中をバンバン叩く。

「そっちこそ、仇、見つけたら呼んでねぇ、うちらも力になるからぁ……!」

「ああ……おい、止めろ、コーヒーが戻る……」

「うちらなら勝てる、きっと勝てるよぉ!」

「まさか酔っぱらっているんじゃないだろうな……シラフでそれなら精神を鍛えた方が良い」

 ジョージアさんはいつもの難しい顔になって、残りのコーヒーを一気飲みした。



 ドラゴンは夜行性だが、日中でも眠りを妨げられるとすぐに覚醒して暴れ出すそうだ。

 我々討伐隊は早朝に黒の森のドラゴンの巣穴である洞窟へ向かった。すると、以前見に来た時には無かった物が三つ。

 洞窟の前には人が組んだような焚火があった。焚火には動物の肉を切り分けた物が刺さっていて、どうやら焼いているみたい。そして最後の一つは、荷車。クルトが村を出る時に引いて行った物だ。

 クルトは、もうここに着いている。でもこの生活感、もしかしたらまだ食べられていないかもしれない。

 しばらく様子を見ていると、洞窟の中から人影が出てきた。布一枚だけを身にまとった美少女顔の美少年、間違いない、我が弟だ。クルトは火にかけた肉の具合を見て、小さいのを一本引き抜くとふーふーしてかぶり付く。もすもす咀嚼して、飲み込んで溜め息。

「……キッチンが欲しい……」

 そう呟くと、しょんぼりした顔のまま洞窟内へ戻って行った。

「……人間だったな。あれが、弟か?」

「妹の間違いじゃねえの?」

「間違いなく最愛の弟ですねぇ」

「ご無事で何よりです……」

 神に祈りを捧げるアリアさんと対照的に、物凄く怖い顔になるジョージアさんと、拍子抜けしたみたいな顔のサッシュ。

「ドラゴンの居場所を確認次第、彼を救出。あとは当初の作戦通り、眠っている間に罠を仕掛け、明るみに引きずり出し日が落ちる前に倒す。行くぞ、小僧」

「お、おう!」

 先遣隊の二人が静かに草むらから出て、洞窟内へ。少しして、ジョージアさんがクルトを連れて戻り、無言で合図。ドラゴンは中にいるようだ。サッシュは残って罠を仕掛けているのだろう。

 うちとアリアさんが草むらから飛び出す。クルトは驚いた顔をしたが、声は出さない。流石賢い弟。

 うちは手筈通り、洞窟の前に光のフィールド魔法を展開。……と、下準備を終わらせたらアリアさんと一緒に後方にいる弟の元へ。

「ク~ル~ト~! 怪我はない? ドラゴンに何かされてない? ドレスはどうしたの!?」

「こっ、声がでかい、静かに! ……怪我は、ないよ。何もされてない。その……太らせてから、食べるんだって、毎日食べ物渡されてただけで……ど、ドレスはもういいだろ!」

「良かった~良かったよぉ~、もう大丈夫だからねぇ多分、お姉ちゃんが助けるからね多分」

「えぇ……多分って……」

 物凄く不安な顔をしながらうちの熱烈ハグを引き剥がすクルト。疲れが溜まっているのだろう、少し力は弱いが、元気そうで良かった。本当に、本当に……

「うあぁぁあああ、ひぐっ、ぶええぇぇえ……」

「何で俺よりカナタ姉が泣くんだよ……」

「感動の再会ですね……!」

「こんな汚い再会嫌だよ……」

「……おい、そろそろ、集中しろ」

 珍しく怒らずに静観していたジョージアさんが、低い声を出した。そして同時に、洞窟内から爆発音がして、サッシュが飛び出してくる。

「クルト、アリアさんから離れないで」

「お、おう」

 急いで涙を拭って、クルトから離れフィールドの中へ。洞窟の奥から、聞いた事のない絶叫と地響き。ガラガラと入り口が崩れ始め、やり過ぎたっぽい、と思ったのも束の間。大きな落石が吹き飛ばされて来て、うちらに当たりそうになったところをジョージアさんが弾き飛ばす。

 岩と砂の隙間から見えたのは、黒い鱗に覆われた大きな体。体の割に小さな羽を一羽ばたきしただけで巻き起こる突風。


『誰ダァ! 我ノ眠リヲ妨ゲシ者ハァ!』


 しゃ、喋ったー!?

「カナタさん、サッシュさん!」

 あまりの衝撃に呆然としていたうちらは、アリアさんの声で現実に引き戻された。そうだ、今ここは、一息もつけない戦場になったんだ。

 やっぱりあの羽は体を持ち上げるには足りないみたい、少し飛びながら出てきたドラゴンはすぐに地面に下りて、狙い通りうちのフィールド魔法の上に乗った。長い首の上の蛇みたいなぎょろぎょろした目がうちらを見渡し、クルトを見て血相を変えて一鳴き。

『供物ヲ奪イニ来タカ、愚カナ人間共ヨ! マズソウダガ仕方ナイ、今宵ノ飯ニシテヤル!』

「傲慢なドラゴンめ、貴様の悪事もここまでだ!」

 右前足と尻尾に鱗の剥がれを確認、どうやら初動の罠で与えられたダメージはそれだけらしい。ピンピンしているドラゴンに向かって、ジョージアさんが素早く近付き剣を振るう。避けるまでもない、とでも言うようにどっしりとその一撃を受けとめたドラゴンだったが、バキリ、と鱗が割れる音がして、少し慌てた様子でジョージアさんに火を噴いた。


「格上の相手と戦う時に、向こうがこちらを見下している間は勝機がある。半端な『余裕』は『驕り』であり、大きな『隙』になる」

 作戦会議の時に、ジョージアさんがそう言った。うちらが勝つにはこの隙に付け入るしかない、つまりドラゴンがうちらを舐めている序盤が勝負だ。


「くっ……!」

 素早く後ろに飛び黒っぽい炎を避けるジョージアさんだが、僅かに足の鎧が焦げる。直撃すれば金属も溶けてしまうかもしれない、恐ろしい炎。でも、怯んでいる時間はない。

 足元からのレーザービーム、サッシュの風ワイヤーでドラゴンの行動を妨害する。本当は押さえつける、まで行きたかったのだけれど、ワイヤーは爪の一振りで切られるし、レーザーは鱗を抜けないしでやっぱり予定より上手く行っていない。でも諦めない、絶対に、誰も諦めたりなんてしない!

「天におわす武の神よ、我が剣に力を与えたもう、空を割く雷の如く!」

 ジョージアさんが『詠唱』と共に剣先で『印』を描く。これは単純化されている『印』に複雑な追加効果を与えるための儀式とか何とかで……超パワーアップ要素なのである!

「でやあああああっ!」

 ワイヤーに絡まり動けないドラゴンの首目がけて、ジョージアさんが電気をまとった大剣を振り下ろす。バリバリと痺れる音がして、鱗が割れる音がして、ドラゴンはつんざくような悲鳴を上げながらぶんぶんと前足を動かした。その足がジョージアさんに当たって、鎧を着こんだ重い体が簡単にフィールド外へ吹き飛ばされる。

「がはっ……!」

「天におわす癒しの神よ、我が願いを聞き届けたもう、彼の者の傷を癒し給え……!」

 アリアさんがすかさず治癒魔法を唱える。ジョージアさんも急いで起き上がろうとしているけど、痛むのか動きが遅い。

 前衛を失ったうちらは必死に魔法で足止めをしようと頑張ったんだけど、暴れ出したドラゴンは止められなくて、あっちこっちに吐き出した炎がサッシュに当たり、更にフィールドが破壊された。

「天におわす癒しの神よ、我が願いを聞き届けたもう、彼の者の傷を――」

「てっ、天におわす光の神よ! うちの願いを聞いちゃってなんかしちゃって、ピカッと凄いの出せー!」

 修行中には「なんだその変な詠唱は!」ってめっちゃ怒られたけど、今はそんな事言ってる場合じゃない。それにこんな『詠唱』だって、なぜか効果はあるのだ。

 空を覆う雲に穴が開いて、ドラゴンに向かって光の柱が照射された。光属性大魔法、とかいうもので、流石のドラゴンだってひとたまりも……

『ギャアアアアア! オノレ、オノレ人ノ子風情ガアアアアア!』

 ぶしゅう、と広がる闇の瘴気。天に向かって吐き出された炎が光の柱を貫いて、大魔法がパリンと消滅する。現れたドラゴンの体からは煙が上がってはいたけど、まだまだ動けそうで、しかも下手に追い詰めたせいでプレッシャーが強くなっていた。

 ドラゴンの口の奥に酸素が集まる。黒い炎よりも更に黒い、漆黒の炎が辺り一面を焦がした。これは……フィールド魔法に近いかも。水を出して消火しようとするけれど、全然間に合わない。

「農家! 左だ!」

 ジョージアさんの声がして、さっきまでの場所にドラゴンの姿がない事に気付いて、急いで左を見ようとした瞬間に、うちの体が吹っ飛んだ。あれー、と空中をくるくる回っている間に羽音がして、ざくって、激痛が走る。

「カナタ!」

「カナタさん!」

「お姉ちゃん!?」

 大きな黒い爪が、お腹に突き刺さっている。これ、異世界じゃなかったら致命傷だな、異世界でも致命傷なのかな? 何てやけに冷静に考える。ジョージアさんが剣で突進してドラゴンを引き離し、うちをアリアさんのところへ運んだ。

「天におわす癒しの神よ、供物と引き換えに我が願いを聞き届けたもう、彼の者に命の泉の力を分け与え給え……」

 強力な治癒魔法、痛みが少しずつ引いていく。炎の向こうで聞こえる激しい金属音、ジョージアさんとサッシュが必死に時間を稼いでくれているけれど、二人も手負い、押されているのがわかる。

 ……こうなったら、死ぬ気で、特大魔法を。

「お姉ちゃん……お姉ちゃん……!」

 ぽたり、ぽたりと、涙が顔に落ちて来た。ああ、その呼び方は何年ぶりだろう、昔のクルトはお姉ちゃんお姉ちゃんってべったりで、可愛くて。今でも十分可愛いけど、そう、大切な、世界で一番の弟……。


 そうだ、生きて、帰らなきゃ。


「……天におわす光の神よ、我が願いを聞き届けたもう、闇を浄化する燦々たる輝き、全てを貫く光の剣を、この手に!」

 宙にレーザービームの『印』を描いて、ぎゅっと握り締める。止めるアリアさんを振り切って起き上がり、炎の中へ。

 炎を抜けた先には、火を噴き続けるドラゴンと、向かい合って剣を振るうジョージアさん、その傍らに倒れたサッシュ。

「っ! 傷が塞がっていないではないか! しっかり治療を……ぐぅっ!」

 振り下ろされた黒い腕を大剣で受け止める。押し潰されないあたり流石の鍛え具合、うちならぷちっと行かれるので、申し訳ないがもう少し引き付けていて頂きたい。

「天におわす光の神よ、供物と引き換えに我が行く道を切り開き給え」

 足元から炎が消え去り、光のフィールドが展開される。血を捧げただけあって強力だ、周囲の変化にドラゴンも目を見開いてこちらを向いて、うち目がけて漆黒の炎を吐き出すが、闇属性のそれは眩しい光に掻き消された。

 右手の握り拳を開く。『印』から強烈な輝きを放つ光の束が現れ、剣の形になった。

 剣を構えゆっくりと近付くうちにドラゴンが攻撃をしようとするが、ジョージアさんと上半身だけを起こしたサッシュがそれを妨害する。光の剣はフィールド魔法の光までもを吸い取り、段々と大きく、眩しく、力を増していく。

『コノォ……光、光ノ一族、裏切リ者ガアアアアア!』

 大剣よりも大きく、長くなった光の剣を振り上げる。黒い炎を弾いて、鱗を割いて、ドラゴンの体を貫いた。切り裂いた部分からは血の代わりに闇が漏れ出して、それも光に浄化され消えていく。

 断末魔は森中に響いた。あちこちに炎が飛び散って火事になりかけていたので、光のフィールドを拡張して消火を、しようとしたんだけど目の前が真っ暗になって、うちはばたり、と地面に倒れた……。

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