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転生3話・パーティを組もう

 森の中は思っていた数倍暗かった。明かりを持たないクルトの姿が見える訳はなく、真っすぐ進むだけでいい道なのに、うちは知らず知らずのうちに迷子になってしまっていた。方向音痴なわけではない。全てはそう、『看板』のせいだ。

 『近道←』と書かれたその文字を鵜呑みにし、うちは直線を外れ、獣道じみた細道を歩いている。クルトもこっちを選んでいれば出会う可能性はあったかもしれないが……あの頭の良い弟が村の言いつけを破ってこんな怪しい看板に釣られるわけもない。

 戻ろうかなぁ、タイムロスがなぁ、なんて考えて、疲れてもいたし手近な倒木に腰を下ろし一旦休憩モード。落ち葉を集めて火の『印』を描き、小さな焚火に家から持ってきた小鍋を載せ、麦茶を注ぐ。この世界の水筒は保温効果が低いのでいちいち温め直さなければならない。

 ほっと一息ついて、そうだお菓子も出そうと振り返った時。


 うちのリュックサックを持った少年が、そろりそろりと草むらの中へ逃げ込もうとしている。


「……あ」

「ど……どろぼおおおおお!」

 勢い良く駆け出す少年に向かって、うちは叫びながら風の『印』を描く。

「うわあああああ!?」

 小さな竜巻が少年の足を絡め捕り、ずべしゃあああと顔から地面に。ぴくぴくしていたのでリュックを取り返し、ロープを出して近くの木にぐるぐるに縛り付けた。

「くそ……せっかくのカモだと思ったのに……」

 少年に反省の色がないので、光の爆発魔法を構え脅してみる。

「わ、悪かったよ! でも、こっちだって生きてくために仕方なく! ほら、『黒の森』なんて言われてる場所、滅多に人なんて来ないだろ!? おれ、ここで暮らしててさ、毎日ひもじい思いしてて……」

 上目づかいで同情を誘おうとしているようだが、それよりも気になる発言があったので、魔法を構えたまま少年に近付く。

「待って。ここで暮らしてるってどういう事? ここは立ち入り禁止の森でしょ?」

「そ、そう言われてはいるけどさ、守らねえ奴も結構いるんだよ。隣村との近道になるだろ? それに、子捨て場には丁度いいしな。おれみたいなガキは結構いたんだよ……皆死んじまったけど」

「ドラゴンがいて危ないって」

「ドラゴン……ああ、見た事あるよ。気付かれる前に逃げれたから平気だったけど、あれは確かに並みの冒険者じゃ倒せねえ強敵だ。

 しかしお前、そんな事知ってて何で森に入ったんだよ? その身形じゃ、貧乏でも配達人でも、冒険者でもないだろ。逢引きか?」

 魔法を発動させ、少年の顔の真横で爆発させた。ひっ、と悲鳴を上げ冷や汗を垂らしている。

「うちはねぇ、そのドラゴンを倒しに来たの。場所、教えてくれる? そうしたら警備団には引き渡さないであげる」

「はあ? ……ぷっ、くはは、良いぜ連れてってやるよ! ついでに遺品も拾ってやるから、食料は取っておけよな!」

 威勢がいいなあ、と思いながら二発目を反対に飛ばし爆発。一瞬怯んだものの、「一回見たんだから怖くねえぜ!」と啖呵を切る。中々図太い神経をしているようだ。

 脅迫は諦めてロープを解き、犬のリードの如く腰に結び付け端を持つ。少年は一瞬ぎょっとした表情をしたが、ボリボリと頭を掻いて案内を始めた。

 道のない草むらを進み、突然少年がしー、とジェスチャー。黙って指差した先には開けた場所があって、洞窟があって。


 入り口に、月明りに浮かぶ黒くて大きな生き物がいた。


 何て言うか、思っていたよりその、首が長い。ドラゴンっていうか、草食恐竜にコウモリの羽が付いてるみたいで、若干残念な感じ。

 ただ、鱗はガッチガチで黒光りしてて、あと、なんか全身からオーラ的な紫のもやもやが出てる。魔法が使えるものなら、誰でもわかるだろう。


 凄く強そう。絶対強い。


 ワンチャンはありそうだけど……ここで突っ込むのは無謀だろうと思うくらいには、プレッシャーを感じる。

 ドラゴンの周囲にクルトの姿がない事を確認し、一旦その場を離れた。ドラゴンには気付かれないだろう位置まで移動して、少年が笑う。

「な? 無理だろ? アレ倒そうなんてバカが考える事だって」

「あのオーラ的なやつ、何?」

「あれはなんか、魔力が多い奴の周りに見えるやつだ」

 ふぅん、魔力は鍛えれば鍛える程多くなるし、うちも頑張れば行けるかな……。

 で、修行と並行してやるべき事がある。ゲームでボスに挑む時の定石。勇者の定番。

「ねえ、きみ。うちとパーティ組まない?」

「ぱーてぃ? なんだそりゃ」

「一緒にあいつ倒しに行こうぜって事」

「はあ? まだ諦めてねえの? ある意味すげえなお前」

 うちはきびだんごの代わりのサンドイッチを差し出し、腰を九十度曲げ、真剣な目で彼を見つめた。

「きみを見込んでお願いします、うちの仲間になってください!」

 「な、何だそのポーズ……」と戸惑いながらも、少年はサンドイッチに手を伸ばそうとして、直前で手を止める。

「おっ、おれはやらねえけど! 冒険者のたまり場だったら紹介してやるよ。ついてこい……の前にこの紐解け!」

 ぐー、と少年のお腹が鳴るが、断った手前なのかきちんと手を引っ込める。意外と律儀なその姿に、まあいいか、と言われた通りロープを解いて、その手にサンドイッチを握らせた。

「そういえばまだ自己紹介してなかったね。うちはカナタ、きみは?」

「……サッシュだ。仲間にはならねえって言っただろ」

「仲間じゃなくてももう友達だから良いんだよ、貰って。まだあるしうちは大丈夫だから!」

「……さっきまで縛られてたんだが」

「おぅ、そうだった。ごめんなさい! はい、これで友達!」

「お前友達百人くらいいそうだな……」

 サッシュはサンドイッチに齧り付き、もぐもぐしながらついてこい、と手招きして歩き出した。


 草むらをどれくらい進んだだろうか。疲れて何度か転びそうになって、とうとう本当に小石に躓いて転んだ時、倒れた拍子で草むらを抜けると、そこには人家が建っていた。でも、うちの出身の村とは違う。

「ここは冒険者がよく立ち寄る村でな、酒場に行けば何人か会えると思うぞ。ドラゴン退治に乗ってくれるかどうかは別だがな。じゃ、おれはこれで……ぐえっ!?」

 立ち去ろうとしたサッシュの腕を掴み、町の中へ。暗い通りを歩いていると酒場っぽい看板の建物だけが明かりを灯し、中から賑やかな人の声が聞こえている。夜中なのに元気だなぁ、と自分の事を棚に上げ呆れながら、深く息を吸って、勢いをつけて扉を開ける。

「たのもー!」

「おい!? 何で殴り込みみたいな事言ってんだよ!」

 当然と言うか、どんちゃんしていた店内は一瞬で静まり、全員がうちらの方を向いた。大剣を背中に担いだ人、甲冑を身につけた人、ローブを羽織った人。いかにも冒険者ーって感じの見た目の人が十人くらいいる。

 その人たちに向かって、うちは全力で叫んだ。

「うちは光の魔術師カナタ! うちらと共にドラゴンを打ち倒す勇者は名乗りを上げよ!」

 しばらくシーンとした後、どこからともなく笑い声が上がる。それは店内中に伝播して、入って来る前よりも賑やかになった。

「ドラゴンを倒すだってよ! こんなお嬢ちゃんが!」

「プロの冒険者だって敵わねえのになあ!」

「まさか『黒い森のドラゴン』何て言わないだろうな、あれはドラゴンの中でも別格だぞ!」

「勇者が何人も食われたんだ、森に近付くだけでも恐ろしい! ここで名乗り上げるような奴は勇者じゃなくて死にたがりだよ」

 冒険者達は口々にそう言って、興味を無くしたと言わんばかりにお酒を飲み、雑談に戻る。うーん、この世界には意気地なししかいないのか。それとも本当にドラゴンがそれだけ強いのか。

「おい、お前、カナタ! 今、おれも仲間みたいな言い方しなかったか!? やらないって言ってるだろ!」

 サッシュを引きずり酒場を出る。魔物の出るダンジョンで修行しようかなーなんて考えながら森へ戻ろうと歩いていると、背後から足音が聞こえた。

 振り返ると、シスターのような服を着た女性が立っていた。ような、というのも、深いスリットが入っていたり少し露出が多かったり、聖職者というより冒険者寄りの衣装だったから。……そういえば、さっきの酒場に居たな、この人。

 女性は走って追いかけて来たのか、上がった息を少し落ち着かせうちらを呼び留める。

「あ、あの! ……ドラゴンを倒すって、本当ですか!?」

「うん、本気だよ」

 うちが即答すると、女性は突然跪いて、祈りのポーズを取った。

「私はアリア・ファーノン。冒険者であり聖職者です。悪しき魔物に苦しむ人々を救うため旅をしています。黒い森のドラゴンの話を聞きこの町へやってきましたが、一ヶ月経っても協力してくれる人が現れず困っていたのです。得意な事は回復魔法。良ければ私を、貴方達の仲間にしてください」

 ヒーラーか。こっちは魔法使いと盗賊、断る理由はどこにもない。

「よろしく、アリアさん! あなたみたいな勇気のある人がいて嬉しいよ!」

「よ、よろしくお願いします……!」

 アリアさんは嬉しそうに笑った。サッシュが暴れているが、気にせず話を進める。

「これで三人かー、四人欲しいからあと一人スカウトしなきゃ。この編成だと前衛の防御力が足りないよね。アリアさん、誰か良い人知らない?」

「実はお一人、ドラゴン退治に食いついてくださった方が居るのですが、私一人では何にもならないからと断られた事がありまして……ですが、三人で行けば仲間に加わってくださるかもしれません」

「その人はどこに?」

「毎週水曜日の昼間に酒場に現れます」

「うーん、二日後かぁ。結構急ぎの用なんだけどなぁ……仕方ない、その間に修行でもしようかな」

「おい! 何で当然のようにおれが頭数に入ってるんだよ! カナタ! 聞けよ!」

「アリアさん、近くで魔物が出る場所って知ってる?」

「黒い森は魔物が出る事で有名なのですが……」

「えっ、それヤバいじゃん!」

「ちょっ、どこまで引っ張んだよおおお!」

 ヤバい情報を聞いたうちは、急いで森へ駆け戻る。が、そもそも道なき道を通ってやって来たのだ、元の場所に戻れる訳もなく迷子になった。幸いな事にちゃんと後を付いて来てくれたアリアさんが「今日はもう遅いので休みましょう」と声をかけるが、うちの持っているテントは一人用。どうしよう。

「……寝床ならおれの使ってる小屋がある、案内するから、おれをパーティから外せ」

「流石サッシュ! これはお礼にパンケーキ焼いてあげなきゃねぇ」

「パンケーキだと……たっ、食べ物だけ与えときゃ良いって思ってるだろ!」

「ドラゴン倒した暁には我が家にご招待して豪勢な料理を振る舞う事を約束するよ」

「豪勢な……料理……!?」

 サッシュは素晴らしく本能に従順だった。よだれを垂らしながら、迷いなく森の中を案内する。到着した小屋はあちこち修復した跡だらけだったが、現役で使われているだけあって中はまあまあ綺麗だった。

 ベッドが二つあったのでうちとアリアさんで一つ、サッシュで一つに班分け。ごろりと横になって、さぁ寝ようかといった時、アリアさんが口を開く。

「あの、お二人はどうしてドラゴンを倒そうと?」

 そういえば話してなかったなぁ。

「うちの弟がね、ドラゴンの生け贄に出される事になって。取り返しに行こうと、家を出たんだ」

「まあ……それは、お辛いですね……」

「あはは、まだ大丈夫だよ。……本当に辛いのは、弟が死んだ時だもん」

 そう言った時、隣のベッドから舌打ちが聞こえた。

「何だよ……そういう事なら、早く言えよ。急がなきゃいけねえんじゃねえか、変なとこで油売ってる場合なんかねえじゃねえか! そんな事なら……食べ物なんて貰わなくたって、手伝ってやったのに……!」

「なぁにさ、急に優しくなって。そんな事されても惚れたりなんかしませんぞー?」

「茶化すな! ……悪かったよ、笑ったりして。そりゃあ家族のためなら、無茶な事だって、当然そうするよ……!」

「……そっか、良かった」

 多分何かの琴線に触れたんだろう、サッシュは鼻水を啜っている。アリアさんも、隣でこくこくと頷いている。

 村ではあんなに反対された、誰に言っても笑われた行動を、初めて認めて貰えた。まだ、何も終わってないけど、何だか嬉しかった。

「……二人を誘って、本当に良かったよ」

 聞こえたか、聞こえないか、小さく呟いた言葉に返事はなかったけれど。鼻水の音は、しばらく止まらなかった。


 森に生息している魔物、青いヒグマみたいなグーグーとかいうやつを狩り続ける事二日。多少は強くなったかな、というところでもう一度町へ。

「お前、本当にただの農家だったのか? 攻撃魔法使いこなしすぎじゃねえか……?」

「畑に魔物が湧いたら追い払ったり倒したりするのも農家のお仕事です!」

「冒険者にも引けを取らない魔力量……農家さんは大変なのですね」

 本当は転生したからなんだけど。あんまりややこしくなってもいけないし黙ってよう。……アリアさんのキラキラした視線が痛い。

 日中の酒場はこの間より静かだった。お酒を飲んでいる人はたくさんいるが、仕事の途中の休憩なのだろう作業着姿で、どんちゃん騒ぎはどこにもない。

 うちも「たのもー」せずに普通に入る。アリアさんが、角の席に向かってまっしぐらに歩いて行く。

 そこには硬くて重そうな銀色の鎧を着た、難しい顔をした男性が座っていた。テーブルの飲み物は見た感じお酒じゃなくてコーヒー。足元には大きな剣が入ってるっぽい大きな鞘。いつもだったら絶対に話しかけられないだろうなぁっていうプレッシャーを放っている。

 アリアさんは堂々と、その男性の正面に立った。

「ジョージア・バーナーズ様。以前お声をおかけしました、アリア・ファーノンです。あれから、ドラゴン討伐の仲間を募集しているという状況はお変わりないでしょうか?」

「……実力不足のシスターか。貴様一人が仲間になったところで何にもならんと言っただろう」

「一人ではありません。同じくドラゴン討伐の志を持つこちらのお二人と、行動を共にする事になりました。カナタさんの魔法の実力は確かです、サッシュさんは森の内部に精通しており素晴らしい案内役となってくれます。私も、日々鍛錬を積んでいます。

 どうでしょう、私達を、貴方様のお仲間にしていただけないでしょうか」

 ジョージアさんはうちとサッシュをじろじろ見た後、コーヒーを一気飲みし、剣を持って立ち上がる。

「……外に出ろ。本当に俺の仲間に相応しい実力かどうか、試させてもらう」


 町外れの広場に着くと、ジョージアさんは剣を抜き、うちらに向かって構えた。

「俺の手から剣を離す事が出来れば、貴様等とパーティを組んでやろう。だが、先に三人全員が膝を地面に着けたらそちらの負けだ。


 ……行くぞ」


 言葉と同時にジョージアさんの姿が消えた。

「アリアっ!」

 サッシュが突然アリアさんに体当たりする。二人がさっきまで立っていた場所に、大剣が振りかざされた。

 早い。あの鎧を着ているとは思えない動き。成程、あれだけ自信満々に人を選べるわけだ。

 だったらこっちだって、こんな即戦力逃すわけにはいかないじゃん!

「サッシュ! アリアさんは頼んだ!」

「おう! お前はっ!?」

「大丈夫、反応できる!」

 サッシュみたいに動きが見えているわけじゃないけど、魔法使いには目よりも便利なものがある。使うのは初めてだけど、多分大丈夫。

 ステップ、ワンツー。足の軌跡で『印』を描く。広がる光の波紋。最後のひと模様を描き終えた瞬間、『印』が巨大化して広場全体に展開した。

「フィールド魔法か……」

 前の方から低い声が聞こえた。けれどその一瞬後、光の波紋が捉えた気配は後ろから。ひらり、とかわすと案の定、目の前に大剣が振り下ろされて、地面がえぐれた。良かった避けれた、と思った瞬間、大剣があり得ない捻り方で持ち上げと同時にうちの方へ向かってきた。何この変態技術ー! と思いながら咄嗟に爆発魔法で剣を弾く、と同時に自分も後ろへ飛ぶ。着地で転びそうになったけど、負けちゃうので必死に踏ん張った。

 サッシュとアリアさんは避けるので手一杯みたい。だけど、攻めない事には勝てないわけで。つまりはこの勝負、うちの頑張りにかかってる……よし!

 使い慣れたビームの『印』を量産する。そして、フィールドを通して発動させる。波紋から感じる位置情報を頼りに、ちょっと威力は手加減して。

 ピチュピチュピチュ! と三回、当たった感触も確かにあった、のだが……一瞬立ち止まったジョージアさんは無傷だった。鎧のおかげでびくともしていない。

 これ、手加減いらないかも。

「カナタ! あとは任せた!」

「うええ!?」

 サッシュとアリアさんがフィールドの端で笑顔で手を振っている。え? 一人でこの相手何とかしろって!?

「……あいつらは論外だな」

 ジョージアさんはうちに集中攻撃をしてくるようになった。避けるのが精いっぱいで、こちらから攻撃する暇がない。いや、こんな事じゃ駄目だ。無理にでもやらなきゃ……膝つかなきゃいいんだし、少しくらい怪我しても……アリアさんが治してくれる、よね?

 直撃はしないかなってところで立ち止まって、溜めていた魔法を発動させる。ジョージアさんの腕目がけて、ゼロ距離で、

「はぁぁあああああ!」

 魔力をたっぷり込めた、レーザービーム。これなら流石に剣を手放してくれるだけのダメージが……

「ふんっ! まだまだぁ!」

「ひぃえええ~!」

 この人化け物じゃないの!? かなり全力に近い攻撃だったんだけど……だったんだけどー!

 これじゃあ成す術ないよー! と泣きべそかきながら大剣を避ける、避ける、避ける。ジョージアさんの動きが少し変わった事とか、近くにもう一つ気配がある事とか、無視して避ける、避ける。

「どうした! この程度か!」

 一喝が入るが、どうしようもないので避ける。

 と、突然何かに躓いて、うちはすってんと転び地面に膝をついてしまった。

 やっちゃった、終わっちゃった、そう思って振り返ると。

「よっしゃあ! どうだ、これでおれらの勝ちだ!」

 サッシュが宙に浮いた大剣を指差し、笑っていた。よく見ると、剣にはキラキラとした糸のようなものが絡んでいて、サッシュの手元まで繋がっている。どうして浮いているのかと言うと、糸の道筋の所々に魔法の反応が。

 ジョージアさんは呆然と自分の手を眺めた後、額を押さえ、その場に跪いた。

「……謝ろう。貴様等を下に見過ぎた。奢れるものは足元をすくわれるとはその通りだな。最も実力のある者を囮に使い、罠を張り、俺の握力が弱った事を勝機と見て実行に移す、素晴らしい判断だ」

 何だこの人、急にデレ始めたよ。サッシュはすっごいドヤ顔でふんぞり返っていたが、うちがどゆこと? と訝しい視線を向けていると「任せたって言っただろ?」と首を傾げる。いや、それだけで通じるわけないじゃん。

 糸が解かれ帰って来た大剣を鞘にしまったジョージアさんは、立ち上がりうちらを見回して、溜息をついた。

「約束の通り、貴様等の仲間になろう。だが……この程度の実力でドラゴンに挑もうなど笑止千万。修行に行くぞ」

「修行!? そんな事してる暇ねえんだよ、カナタには時間が……!」

「どんな事情があるかは知らぬが、負けると分かっている勝負をするのは愚の骨頂。仲間になってしまった以上は、実力不足を対等以上まで上げるのが俺の責任だ。少なくとも現時点で、単体での実力は俺が一番上だろう。言う事は聞いてもらうぞ」

「でも!」

「わかった、修行だね」

「カナタ!?」

 サッシュったら、三日前から急に良い子になって、お姉さんは嬉しいよ。でも、それとこれとは話が別なんだ。

「うちの目標はね、弟を連れ戻すだけじゃダメなんだ。それじゃあまた次、別の人が生け贄に出されるだけだもん。悲しみを終わらせるためには、ドラゴンを倒さなきゃいけない……もし、間に合わなかったとしても、ね」

「そんな……他の奴なんてお前には関係ないだろ!」

「あるよ。やらなかったら、うちはずっと後悔する事になる。ずっと、魚の骨が喉に引っかかったみたいに」

「でも、それで弟が死んだら、元も子もないだろ!」

「だったらつべこべ言わずに修行を始めるぞ!」

 うちらの言い争いを黙って聞いていたジョージアさんが、突然大声で怒鳴った。びっくりしてサッシュと一緒にそっちを向くと、物凄い怖い顔をしている。……でもなんか、怒らせたって感じじゃないような。

「時間に限りがあるなら! 泣き言を言うより先に動け! とっておきの狩場に連れて行ってやる、ついてこい!」

 言いながら、ジョージアさんは早足で歩き出した。うちがその後ろについて行くと、「何だあいつ……」と文句を言いながらサッシュも歩き出す。

 しばらく進んで、アリアさんは? と後ろを振り返ると、その場で天に祈りを捧げていた。

「……あ、修行が無事に進むように武の神様へお祈りを」

「何をやっている無能シスター! お前が一番足手纏いなんだぞ!」

「は、はいぃ、申し訳ありません!」

 サッシュが駆け戻って、アリアさんの荷物を奪い取る。「軽くなったんだから早く走れるだろ!」と言ってこっちへ向かってダッシュ。アリアさんは慌てて、荷物有りの時とそんなに変わらないスピードで走って来た。

 鬼教官騎士、活きの良い弟分シーフ、ぽんこつシスター、魔法使い農家お姉ちゃん。

 うちらある意味、バランス最高のパーティーでは? なんて考えながら。

 一つの目標を達成して、うちは森の奥のドラゴン野郎に、心の中で改めて宣戦布告を行うのだった。

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