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現代4話・かつての仲間達

 それから、更に一ヶ月。『人造天仕プロジェクト』に、遂に実践許可が下りた。五人はそれぞれ自宅近くの部隊に編制となり、この日わたしは仲間との顔合わせをする事になった。

 もしかしたら、彼方の知り合いだった人も居るかも、そんな期待か、不安か分からない感情を抱いて。わたしは待機所だというプレハブ事務所の扉を開けた。

「――よくぞ参った、新なる同胞よ! 我々四天王は、貴様を歓迎しよう!」

 ソファーの上に仁王立ちし、謎のポーズを決めるあちこちに包帯を巻いた少年が一人。

「いらっしゃーい、ごめんなさいね、これの事は基本無視してもらっていいからね。オレンジジュースでいい?」

 冷蔵庫を開け、ペットボトルとコップを持ってくる長い三つ編みの少女が一人。

「ちな四天王はそいつの自称な。オレは認めてねえ」

 反対側のソファーに座りゲーム機を操作している少年が一人。

「あっ、井藤さん! 実践投入おめでとうございます、今日から同じ部隊ですね!」

 雛形さんが一人。

「くっくっく、これからは五人で四天王……共に這い寄る『混沌』共を駆逐しようぞ!」

「意味分かんねえよ、五人なら五天王だろ」

「四天王は何人でも四天王なのだ!」

「歓迎会って言ってもケーキしかないんだけどね、苺のショートとチョコとチーズケーキ、どれにする?」

「えっと……チョコで」

「どきなさい天馬てんまじゅんもちゃんと座って、女子と男子分かれて座るんだから。はい、小とりちゃんここどうぞー」

「天馬の隣とか落ち着かねえ……」

「熟成せし乳の菓子は我の物だ!」

「はいはいどうぞ」

 バタバタと並び替えが行われ、ケーキとジュースが配り終わり全員が着席する。ばらばらに「いただきます」と挨拶をして、フォークを握る前に少女がこう言った。

「……ねえ、小とりちゃんって、彼方の彼女、だよね?」

 ああ、やっぱり、この部隊だったんだ。一口含んだチョコケーキを素早く飲み込んで、わたしは頷いた。

 全員の視線が、わたしに注がれている。

「……なんで、『天仕』になろうと、思ったの? その、今更言うのもあれだけど……彼方は、アナタを守る為に戦ってたのよ。なんで、自分からこんな世界に、入って来ちゃったのかなって……」

「……『混沌』さえ現れなければ、普通に、何もせず生きていくつもりでした。でも、事情が変わった。

 もう、昔みたいに、見ている事しか出来ないなんて嫌なんです」

「……それでも、言わせてもらうわね。アナタに何かあったら……それこそ、彼方の望まない結果だと思うわ」

「分かっています。でも、彼方ならきっとこう言ってくれる。『本気で決めた事なら、応援するよ』って」

 そう、信じたい。もう正解は分からないけれど、本当は違うかもしれないけれど。わたしの記憶の中にいる彼方なら、きっとわたしを後押ししてくれる。

「……そう、きっと、そうなのね……アタシ達よりも長く一緒に居たアナタが言うんだから、そうなのよね……」

「……オレ達が、守ってやりゃ良いんだろ」

「『レーザービーム』への恩返しか……良いじゃないか!」

 涙を零す少女と厨二病少年に雛形さんがティッシュを差し出す。顔を吹き、チーンと鼻をかんで、二人はキリッと顔を上げた。

「自己紹介がまだだったわね、アタシは」

「我らが四天王の紹介をしよう! 『ドロップウォーター』志波しば天馬! 『キャッスルウォール』ひだり隼! 『ローズガーデン』有原菜種ありはら なたね! 『プレッシャー』雛形満知! そして永世名誉四天王『レーザービーム』竹丘彼方! 以上だ!」

「それだと六人になるじゃねえか」

「……ツッコミどころはあるけど内容は間違ってないわ。『天仕』はチームワークが命、年齢はバラバラだけど、皆気楽に下の名前で呼んで」

「貴様の二つ名は初陣の後に付けよう」

「あ、マシンのコードネームがもうあるみたいですよ、『ソーラーレイ』っていう……」

「何っ! ……良い名だな!」

 わいわいと賑やかな人達。戦いの場なんて辛いばかりだと思っていたが……彼方も、こうして一緒に笑っていたのだろうか。


 ケーキの皿が空になって、何故か皆で事務所にあったジェンガをやり始める。接戦を繰り広げたが隼くんが倒し、罰ゲームとして一昔前のお笑い芸人の一発ギャグを披露し場が凍ったところに丁度大人の男性がやって来た。

「……違う、違うんです隊長」

「……うん、キャラ変は個人の自由だからな。良いと思うぞ」

「ぶふっ」

「マジでそういうんじゃないんで。成り行きで仕方なかっただけなんで」

「隊長もやりましょうジェンガ、最下位は罰ゲーム付きで」

「キミ達……羽目を外すにも程度があるだろう」

「あ、小とりさん。この人はうちの部隊の隊長さんで、高来千之助たかき せんのすけさんです。『天仕』じゃないんですけど、書類の必要な手続きとか、部隊の代表責任者とかやってる人です」

「どうも。僕はキミ達が心置きなく戦えるようにサポートするのが仕事だ。直接会う事は少ないが、こんな仲間もいるんだと頭の隅に入れておいておくれ」

「よっしゃ隊長に罰ゲームやらせるぞ」

「第二遊戯の始まりだ、さぁ構えよ!」

「だから………一回だけだぞ」

「オレ達のチームプレーを発揮する時だ!」

 意気揚々と始まった二回戦も、隼くんが負け再びの一発ギャグを披露する羽目になった。


 だが、『天仕』達がこんなに笑っていられたのはあの日だけだった事、『天仕』だからこそあんなに賑やかに振舞っていた事を、すぐに理解する。


 命懸けの戦いが続けば、人はいつ死んでも良いように、毎日に全力を尽くすようになるのだ。



 その日降って来た『混沌』は、紫色で巨大なナメクジのような姿をしていた。ゆっくりと動くが毒を振りまき、周囲の生物も、植物も殺し、甚大な被害を出している。

「毒持ちだと、アタシの毒は多分効かないわね……ごめんなさい、足止めしか出来ないわ」

「圧し潰したら毒が飛び散ったり……しそうじゃないですか……?」

「菜種が時間を稼いでいる間にオレが壁で囲う、そしたら圧し潰してみて、毒が飛び出たら天馬が受け止める。倒せなかったら小とりが攻撃する。一先ずこれでいこう」

「オペレーションXだな、任せたぞ『プレッシャー』、『ソーラーレイ』!」

 ざっくりと作戦を決めて、散会。わたしと満知ちゃんが上空へ、菜種ちゃんと隼くんが『混沌』の進行方向を塞ぐように滞空し、薔薇と壁の『印』を描く。棘に絡まりもがく『混沌』を、正面から順番に現れる壁が取り囲んでいく。その周囲で、天馬くんが水玉を量産し待機。

 城壁と呼ぶのが相応しい頑丈そうな壁がぐるりと『混沌』を囲み終わり、わたし達の出番。満知ちゃんが『印』を描き、『混沌』の圧殺を試みる。『混沌』はぐにゃりと曲がり……口らしき場所から、毒々しい紫の液体を大量に吹き出した。

 びちゃり、と液体が付いた箇所の壁が、一瞬でどろりと腐ったみたいに溶ける。棘も溶かされ、圧から脱出した『混沌』は更に毒を吐き散らし壁の破壊を始めた。

「小とりさん!」

 壁が壊される前に、とどめを。全員が目でわたしに訴えた。

 羽パーツにほとんどの魔力を集中する。飛行に使う分以外は全て。わたしの機体は、この攻撃に耐える事だけを目的として調整された。激しい機械音。纏う眩しい黄色の光の粉。

 チャージ完了、発動!

「はぁぁぁあああああ!」

 わたしの叫びと共に、羽から光の雨が放たれる。『混沌』を囲う壁の中いっぱいに降り注ぐレーザービーム。それは柔らかい体を貫き、見て分かる致命傷を与えた。

『ぎゅぴいいいぃぃいいいいい!』

 辺りに響く断末魔。それと同時に、『混沌』の体から紫色の液体が四方八方に飛び散った。壁が溶かされ、あわや町に降りかかるといったその時、ぶわりと広がった水玉が液体を受け止め包み込む。

 紫を捕獲した水玉は幾つも宙に浮いていて、天馬くんが皆に向かってぐっ、と親指を立てて見せた。

「ところで此の危険物……如何にして処分するのだ?」

「………」

「………」

「……隊長に任せましょうか。それまで天馬、そのままでお願いね」

「何ぃ!?」

 「魔力切れが先か、処分が決定するのが先か……!」と謎ポーズを決めながら呻く天馬くん。終わった終わったー、と皆が気を抜いたその時、隼くんと菜種ちゃんがふらりと傾き――そのまま落下した。

「ぬあぁ!?」

 腐った地面に辿り着く前に、奇声を上げながらも素早く『印』を描いた天馬くんの咄嗟の判断により水玉に受け止められる。が、二人は目を閉じ、苦しそうにしたままだ。

「もしかして、毒を浴びてしまったんでしょうか……お二人が、一番近くにいたので……」

「病院……早く病院に! 天馬くん、このまま運べる!?」

「我の能力より貴様等が抱え飛ぶ方が早い!」

「分かった、行こう満知ちゃん!」

「は、はい!」

 満知ちゃんと一人ずつ抱きかかえて、病院へ向かって急加速する。

 菜種ちゃんの呼吸が、徐々に浅くなっていくのが分かった。死が近付く感覚、怖い、嫌だ。

『二人共、病院では駄目だ! 魔法科学研究所へ連れて行きなさい!』

 途中で隊長からそんな連絡が入る。わたし達は進路を変え、研究所へと向かった。

 何とか二人共呼吸があるうちに辿り着いたが、防護服を着て待ち構えていた人々に物々しい厳重さで運ばれる。わたし達も別室へ連れて行かれ、検査を受けた。

「やはり、未知の毒だな。『混沌』と言うのはその体を構成する全てが未知の物質である確率が非常に高い。空から降って来る事から宇宙人説がよく叫ばれているが、宇宙の物質はそれなりに解析が進んでいる。こんなに謎に満ちている事なんて無いはずなのだ。

 ああ、安心してくれたまえ、たとえ未知でもこれだけ毒の実物があれば解毒剤を作る事など容易い。それまで諸君らを隔離させてはもらうがな」

 防護服でも小ささで博士と分かる人物が自信たっぷりにそう言う。少しホッとしたのも束の間、病室のような部屋に入れられた。


 そして、五日。同室の満知ちゃん、天馬くん共々発熱し起き上がれなくなったり、幻覚が見えたり、笑いが止まらなくなったりしたが、ヤバそうな青色の液体を注射されて全ての症状が治まった。そして二日、戦いから一週間振りに、部隊の全員が顔を合わせた。隼くんと菜種ちゃんはベッドに横になりまだ点滴を繋がれていたが、顔色は良く元気そうだった。


 人間は、いつ死ぬか分からない。どんな環境にいたって、それは同じだけれど、意識するかどうかは別だ。

 この世界は、こんなにも常に死が隣り合っていて。今なら、彼方があんなに思い出作りに躍起になっていた理由も、よく分かる。日常を大切にしたいと思う気持ちが、痛い程分かる。

 もうこれ以上失うのが嫌だった。だから力を求めて、こうして『人造天仕』になった。でも、でも。


 得れば、失う。何も得ずに生きる事は出来ない。だから人生は、失う事ばかりだ。

 やっぱり、死ぬのは、怖い。


 前向きになんてなれない。わたしは、ずっと後ろを向いて進んでいる。後悔しないための選択で後悔しながら。もうどこにも無い面影を追い求めて、森の中で彷徨っている。

 ……やっぱり、君がいないと駄目だなって。いつまで、そう思うのかな。

 ねぇ、彼方。

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