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現代2話・魔法科学研究所

 スマホで募集要項を見せると、父と母は大反対した。

「確かに高校生以上と書いてあるが、学生がアルバイト気分でやる様な仕事じゃないだろう。それに……彼方ちゃんの分まで生きるって言っていたじゃないか。『天仕』が命の危険を伴う仕事だっていうのは、分かっているだろう?」

「……お母さんは、ことちゃんが危ない事をするのは反対です。この施設も何だか怪しいし……」

 正論だ。予想できる返答だ。特に彼方の事を突かれるのは痛い。だが。


 それでも、わたしにも譲れないものがある。


「……もう、黙って見ているだけなんて、嫌なの。彼方が守ったこの街を、わたしも守りたいの。思い出を、守りたいの。

 何もしないでただ生き長らえたい訳じゃない。自分に出来る事があるのに、やらないで生きていたくはない。

 わたしは、もう後悔したくない! 無力な自分でいたくない! 変わりたい! 強くなりたい! お願い、行かせて!」


 体育館の床の上に敷いたアルミマットの上で、正座からの土下座で頼み込む。叫び声は周囲に筒抜けなので心配したご近所さんが声をかけて来たが、父母はそちらに反応する事なくわたしをじっと見つめた。

 そして父が、大きな溜息を吐く。

「分かった。行ってきなさい」

「ちょっと、お父さん……」

「面接で落ちたらきっぱり諦める事。もしも受かったら……その時は、『天仕』としてしっかり世の為に働きなさい。責任の持てない年じゃないんだからな」

「はい、頑張ります!」

「もう、お母さんは反対ですからね! 危なそうだったら何時でも止めて帰ってきてくださいね!」

「はい、お母さん!」

 顔を上げ、母に良い笑顔を返す。内容は守る気はない。


 何はともあれ、こうして無事に許可を得たわたしは、三日後電車に乗り隣街へと向かった。



 魔法科学研究所。『天仕』の使用する『魔法』を専門に研究する施設で、政府からの援助を受けているらしく、大きく立派な建物が幾つか建っている。

 しかし奇妙な事が一つ。敷地を囲んでいると思われる塀が、建物に対して異様に広い。謎の更地の空き地がいっぱいある。


 そしてその空き地の方から、ボンッ! といった爆発音が聞こえた。


「……あの、研究所の方ですか? テスターに応募した者ですけど、面接会場はどちらでしょうか?」

 呆気にとられ突っ立っていたら、背後から声をかけられた。振り返ると、大体同じ年頃と思われる女の子が困った表情でこちらを見ている。

「あ、わたしもこれから面接行くんで、一緒に行きましょうか」

「えっ、あ、すみません……」

 つば広帽を被った少女は、静々とわたしの後を付いてくる。建物の中に入り、『テスター面接会場』と書かれた案内看板通りに進む、のだが何故か少女が途中で違う方向へ曲がったので、追いかけて手を掴み無理やり正規ルートへ引き戻した。

 三回程角を曲がって、とうとう面接会場と思われる部屋とその前に立つ係員を発見。時計をチェック、色々あったけどまだ十分前、よし。

井藤小いとう ことりさんと、七海六花ななみ りっかさんですね。どうぞ、中でお待ち下さい」

 そう言われ部屋に入ると、目に飛び込んで来たのは謎の機械の数々だった。面接会場に関係のないものが置いてあるとは思えないが、一体何に使うのだろうか。

「……すみません、あの機械は、一体……?」

「よくぞ聞いてくれた!」

 七海さんは係員に尋ねたのだが、反対方向、部屋の奥から声が聞こえた。バタバタと足音がして、機械の裏から白衣を着た小柄な少女……女性? 多分女性が姿を現す。

 彼女は胸を張って、機械のモニターと思われる部分の縁に優しく触れた。


「これは私が開発した『羽量測定器』だ! この面接では君達の『羽』の量を測らせてもらう! 志望動機は応募書類の中だけで十分。さあ、早速機器をセットしようではないか!」


「博士、次の開始時間は十五時からです、あと五分我慢してください」

「もう前の部は終わっているのだから良いだろう! 五分何て誤差だ誤差!」

「まだ全員揃っていないのでお待ちください」

「細かいぞ谷治やじ君!」

「ルールです博士」

 博士達がそんなやり取りをしていると何時の間にかわたし達の隣に男性二人と女性一人が増え、壁掛け時計がポーン、と三時の鐘を鳴らした。

「時間だな! それでは受付番号順で、七海六花君! ここに立ちたまえ!」

 謎の機械のお立ち台に恐る恐る乗る七海さん。その両腕に、研究員の男性がコードの繋がったリストバンドのような物を装着する。

 博士がモニター下のボタンを操作すると、お立ち台とリストバンドが緑色に光り、大きな駆動音を鳴らした。

「五分ほどかかるが出来るだけ動かないでくれ! 計測にノイズが入るのでな!」

「………!」

 七海さんは緊張しているのが傍から見ても分かるくらい、きゅっと唇を強く結んだ。

 そのまま、五分弱。何事もなく計測が終わり、発光の無くなったリストバンドを外し七海さんは別室に連れていかれる。それを順番に繰り返して、最後がわたし。

 機器の上でしばらくじっとしていると、突然足元の光が強く輝き、赤色に変色した。

「ほう、これはこれは……!」

 嬉しそうな声を漏らす博士。どうやら故障ではないらしい。

「よし、井藤君、君は合格だ!」

「博士、合否は別室でまとめて報告する事になっていますので」

「細かいぞ谷治君!」

「ルールです博士」

 わちゃわちゃする博士達を横目に、係員がわたしを別室へと案内する。博士達もタブレット端末を持って後ろを付いてきた。


 パイプ椅子に五人、並び座る。博士が正面中央に立ち、こほん、と咳ばらいをした。

「えー、今回の合格者は七海六花君、井藤小とり君、以上だ。二人は後日指定の日時に再び研究所へ来る事。では、これにて面接を終了する!」

 ばっさぁ、と白衣をひるがえしすぐさま立ち去る博士。わたし達も早々に帰宅を促され、質問をする間もなく建物の外へ。

 敷地外に出て立ち止まり、ぼーっと曇った空を眺める。


 受かっちゃった。何にも分かんなかったんだけど。お母さんに何て説明しよう。


「あの……バス停って、どっちでしたっけ」

 七海さんに声をかけられ現実に戻る。結局駅まで彼女と共に行動し、わたしは考える暇もなく帰郷してしまうのだった。

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