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現代6話・もしも神様がいるなら

 真っ白な部屋で目を覚ます。いや、部屋、なのだろうか。角のない、果てのない、どこまでも淡く白い空間。

 自分の体を見ると、ほんのりと透けていて、白っぽく光っている。それは生きているとは思えなくて、死んだはずだという自分の認識と一致していた。

 ここが、死後の世界か。

『気が付いたか、井藤小とりよ』

 声に振り返ると、白い人影が立っていた。目のようなくぼみはあるけれど、鼻と口がない、のっぺらぼう。

「……妖怪?」

『我々は上位次元の存在、そのような下位生物と一緒にされては困る。

 それよりも、さて、「混沌」の処分ご苦労であった。貴様の働きを評価し、転生先を好きに選べる権利を与える事になった。要望を述べるが良い』

 とても鼻に付く、傲慢な喋り方。話の内容よりよっぽど気になるけれど、近付こうと体を動かしても前に進めない。

『無駄だ、貴様と我々の間には次元の壁がある。通常の方法では超える事は出来ず、貴様は我々には触れられない』

「……会話なら応じてくれる?」

『それくらいなら良いだろう』

 一旦熱くなった頭を落ち着かせて、先程の話を思い返してみる。

「あなた、『混沌』について詳しいの?」

『当然だ。あれは我々が開発した実験動物だからな。不要になったものを貴様等の暮らす下位次元へ廃棄し、ついでに観察を行っている』

 ……そう、こいつが原因だったんだ。

「あなた達のせいで、どれだけの人が犠牲になったと思ってるの?」

『怒られる筋合いはないだろう。むしろ感謝して欲しい、我々のおかげで貴様等は本来使う事の出来ない魔法の力に目覚める事が出来たのだ。「混沌」に含まれる高次元の物質との化学反応によってな』

「マッチポンプって言葉、知ってる?」

『それは悪意があって成立するものだろう? 我々にとってこの行為はゴミ箱にゴミを捨てるのと何ら変わりない。貴様らがゴミ箱の中で勝手に騒いでいるだけの事だ』

 ……はぁ。呆れて声も出ない。今まで、神様なんて信じてこなかった。でも、もし神様がいるなら……彼方にあんな運命を科した神様って奴がいるなら、やってやろうと思っていた事がある。

「想像以上のクソ野郎で安心した。心置きなくやれるわ、ありがとう」

 人影ににこりと笑って、拳を構える。

『何をする気だ? 我々には触れられないと……いや、そういえば貴様の「ギフト」は』

 死の直前に目覚めたわたしの『ギフト』。空間に穴を開け、別の空間と繋いだあの力なら、きっと次元の壁だって越えられるだろう。


 つまり、わたしなら、奴を殴れる。


『ちょ、ちょっと待て、好きな転生先を選ばせてやるんだぞ、竹丘彼方が行った世界を教えてやっても――』

「歯食いしばれ……これは、彼方の分っ!」

『グフォアッ!』

 門の『印』を描き、開いた扉に拳を勢いよく突っ込む。右ストレートが、人影の左頬を捉えた。

「そして……死んでいった全ての『天仕』達の分!」

『ウボォウッ!』

 続けざまに左ストレートで右頬を殴る。白い人影は吹き飛び、何もない空間にばたりと倒れた。

 ぴくぴく痙攣する人影を尻目にして、一仕事した手をパンパンと叩く。さて、転生先、だっけか。別にテキトーでいいや。

 もうこれ以上この場に居たくなかったので、わたしはぱっと目についた世界に手をかざし、飛び込んだ――。

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