麗しい悪役令嬢、王太子が偽者だって分かった理由なんて明らかでしょ!
答えは胸
「婚約破棄だッ!!」
国立魔術学園、ローズガーデンの卒業パーティーでその幕は開けた。
艶やかな金の髪に知性に溢れる青の瞳。
いつだって、公明正大な彼が愛おしかった。
端正な顔立ちの婚約者、未来の王。
運命の人。
その美しい造形が未だ嘗て見たことがない恐ろしい顔でアルディナを睨みつけていた。
「いかに公爵令嬢とは言え、お前を許すわけにはいかない!私の愛する星渡りの巫女に対する暴言及び殺害未遂により、アルディナ・シルベスターを公爵令嬢の身分を剥奪し、国外追放とする!!」
王太子のその言葉に向かい合った一人の令嬢は背筋を伸ばし、口を開いた。
「一つだけよろしいでしょうか?」
「フン…今更、許しを乞うのか?」
「いいえ、私は何もしておりませんので…許しは必要いりません。仮にセシル殿下が私を処刑したいと言えば、白は黒になりますので」
「アルディナ…貴様ッ」
いっそ、彼女以外が言えば、ヤケになっているに違いないと周りの貴族達も思っただろう。
しかし、彼女はローズガーデンきっての才媛、未来の王妃、社交界の麗しの赤薔薇と名高い令嬢である。
艶やかな赤髪に涼やかな緑の瞳、人形のように美しい肌に均整な肉体美。
知性は王太子に並び立つとも噂された淑女だ。彼女以上の次代の国母が居ただろうか?
その美しい唇からこぼれ落ちるのは、一体なんだ?
貴族達は固唾を飲んで、二人を見守る。
アルディナは優雅に微笑み、こう言った。
「てめぇ、誰だ?」
てめぇ?
え?
今、てめぇって言った?
いやいやまさか、あの麗しい淑女からそんな言葉が出るはず。
「お前よ、セシル坊やがこの超絶賢くて、麗しくて、ついでにめちゃくちゃ可愛くてボンキュッボンな婚約者を振ってなぁ…星渡りの巫女と付き合う訳ねーだろうが。あいつ、清楚なタイプ好みじゃねーし。大体、星渡りの巫女って腹黒だろ。無理無理、タイプじゃないから。つーか、まじありえんだろ、巫女、つるぺたじゃん。おっぱい星人だぞ、セシル坊やは」
我が国の王太子がおっぱい星人。
思わず、婚約者でもない男爵子息と伯爵令嬢が目で確認し合うくらいの情報である。
いや、麗しのレディから飛び出したと思えない口の悪さに脳味噌が追い付いていないのだ。
ただ、確かに公爵令嬢の胸は何とは言わないが、たわわに実っていたし、巫女の胸は…お察しである。
パクパクと口を餌を待つ魚の如くパクつかせる王太子に近付くとアルディナは持っていた羽根が立派な扇子で顔面を殴打し出した。
それを咄嗟に止めようと声を掛けたのが、昔から王子に付き従う護衛の騎士である。
いや、自分も破棄とか言い出した王子を気絶させるか迷っていたが。
高熱が出て、胸の大小の区別がついていないかと思ったのである。
「ア、アルディナ様!お待ちください!!王子です!!!仮にも王子の顔面に何を!?せめて、体に!!!!体なら、隠せますし!!」
「あ?完全になりすましだろ。お前な、セシル坊やが私と話してる間に私の胸を一秒も見ないなんてあり得ないだろうが」
「この偽者をひっ捕らえよ!!!王子を探せ!!!!!!!!」
護衛騎士のその言葉に王子の婚約破棄宣言から戸惑っていた衛兵が遠慮なく顔が腫れ上がった王子の偽者を引っ捕らえた。
判断基準それなんです!?!?とパーティ参加者の皆さんは思ったが、わざわざ、王子から遠くに待機するように命令されていた王子の側近達は確かにおかしかった…、殿下がアルディナ公爵令嬢の胸を見ないなんて…、病気かと思ってました…、つるぺた同志が増えたかと思ったんだけどな!などと口にするのを見て、思わず、この国大丈夫か?と真顔になる。
令嬢達から子息達に冷たい視線が飛んだのも致し方なし。
ちなみに余談だが、無実の罪を着せられそうな子息達が慌てて、婚約者と結婚した為、この年の出生率は異様に高かった。
そして、話は戻り、暫くして、使われていなかった倉庫に星渡りの巫女と共に閉じ込められた王太子が見つかった。
どちらも下着姿であり、星渡りの巫女が意味深に頬を染めていたが、王太子は完璧な笑みを浮かべて、一言。
「死んでも、まな板は選ばん」
「うるせぇえ!!!誰が抉れてるってぇえ!?!?」
こうして、ブチ切れた巫女が凄まじい平手が王太子に飛んで、痛み分けとなったのだった。
どうやら、星渡りの巫女を未来の王妃に推す一派の企てだったらしい。
魔法で王太子の姿を騙り、その間に巫女と王太子に決定的な醜聞を起こし、アルディナとの仲を引き裂く予定だったのだ。
この事件の裏には、国政に食い込みたかった教会の手引きがあったらしいが、巫女の暴力を無かったことにする為に事件は箝口令が布かれた。
貴族達も次代の王が凄まじいおっぱい星人とか恥ずかしくて言えなかったし、周りの国に知られたくなかったので、この話は闇に葬られたのである。
「全く…私が愛おしいアルディナとの婚約を破棄するはずが無いだろ」
「そうですわね、セシル殿下…ところで、胸を見過ぎですわ」
「芸術的だからな…愛でなくては…うーむ、やはり、最高」
「殿下は胸ばっかり……フンッ!セシル坊や、良い加減にしないと平手するからな」
「あーーーん、アルディナちゃん、許しておくれ。アルディナちゃんの全てが大好きなんだから」
「本当に?では、私の好きなところをあげて?」
「えっとね、アルディナちゃんの猫ちゃんみたいな性格とかさ、可愛いよね、ツンツンしながら、甘えてくる感じがね、私は好きだなぁ」
「ふふ、殿下たら〜」
東屋でイチャイチャとお茶会をする王太子夫妻に護衛騎士はまぁ、安泰安泰と微笑んだ。
ちなみに護衛騎士の妻は男装が似合うタイプであった。
初投稿です。
笑えるラブコメ悪役令嬢の婚約破棄が見たくて書きました。胸に関して、連呼しておりましたので、R15にて投稿させて頂いております。
不慣れな為、何か失礼等ございましたら、申し訳ありません。
勉強していきます。