第五回
元の句
鳴かぬなら 鳴くまで待とう ほととぎす
答の句
どかぬなら どくまで待とう ケルベロス
注釈
おっと、いたよ、ケルベロスだ。通路の向こう、扉の前、黒い三つ首の魔犬がじっと座ってやがる。
どうやら、うわさは本当だったみたいだな。このダンジョンにはとんでもない値打ちのマジックアイテムが眠っていて、それをあいつが守ってるんだ。
正面突破はまず無理だろうな。あのケルベロスの放っているオーラ。俺も冒険者として相当の修羅場をくぐってきたが、あいつはヤバイ。俺たちAランクのパーティーが全力でかかっても、きっと返り討ちだ。全滅は免れない。
とにかく、しばらく様子を見よう。何かのきっかけで、あのケルベロスが扉の前からどくかもしれない。あのケルベロスがどくまで待つんだ。
……。
何の音だ? 今の音は? おいおいマジかよ。盗賊のリッキーが屁をこきやがった。強烈な腐敗臭、卵の腐ったような臭いが漂ってやがる。
くっせー。くっせーな、おい。勘弁してくれよ。こんな臭い、もしも嗅覚の鋭い魔物に嗅ぎつけられたらどうすんだ?
ん? 嗅覚の鋭い魔物? まさか……。
……。
来てる! 来てるよ! ケルベロスが全力でこっちに走って来てる!
撤退! 全員撤退だ! 地上に続く階段を目指せ!
くそっ! くそっ! くそっ! どうしてこうなった? どうしてって、そりゃあ、あいつがこんな時に屁なんかこくからだ!
くそったれ! リッキー! このスカンク野郎! 隠密行動と索敵が得意だっていうからパーティーに入れたのに、どこが隠密行動なんだ! お前のせいで気付かれたんだぞ! 今も真っ先に先頭切って逃げやがって! なんなんだよ、その逃げ足の速さは? ギルドに帰ったら説教だ! お前には言いたいことが山ほどあるぜ! もっとも、生きて帰れたらの話だが……。
うわっ! 危ねえ! もう少しで尻を噛まれるところだった! なんて獰猛な生き物だ!
くそっ! くそっ! くそっ! どうしてこんなことに! 出口はまだか?