パンクマン〜ウォールアート?ただの落書きじゃドアホウ!〜
昨今「クールだ」と巷を騒がせている話題の男がいた。
──謎のさすらい画家『パンクマン』
彼は世界の街から街を気の向くままに旅し、気に入った場所にインスピレーションが沸き起こったその時に絵画を残していった。
いわゆるストリートアーティストである。
──音楽で有名な都の中心部の何気ない一角
──くぐもった弱い日差しが差し込むスラム街の裏道
──多種多様な民族が行き交う小さな国の道端のとある家屋の壁
──動物園の目立つ場所にある掲示板
彼はアートを残す場所を選り好みせず一貫性がない。
本当に気の向くままに描いているのだろう。
まさに生粋のアーティストであった。
今日彼が訪れた街は特に一風変わっていた。
乱雑に規則性もなく立ち並んだ住居や商店。
道端で『ショウギ』を打っているらしい男たちの横を抜け商店街を歩けば粉物を焼きソースを焦がす匂いが漂ってくる。
多くのものが新鮮だったが一際彼の目に付いたのはとある人々の団体だった。
髪を紫色に染めた年配の女性が豹柄のケバケバしい服を着ていたり、あるいは白と黄色と黒の縞模様の『はっぴ』と思われる服をきた酔っ払いが肩を並べ声を合わせて歌を歌っている。
どうやらこの地域には伝統あるスポーツチームがあり彼らはそれを熱心に応援しているらしい。
『ふむ、どうやら彼らにとってボカやマンUのようなクラブチームがこの地域にはあるのですね』
この法治国家である日本にこんなにアナーキーな風景が広がっているのか……
『よしこのエネルギーに溢れた街に私の生きた証を残そう』
感動し何かを捉えた彼は自前の筆を手に道端の一角の壁に向かって絵画を描き始める。
数十分後、作品が完成し彼は満足そうにタオルで汗を拭った。
……なかなかのいい出来だ
これならこの街の人々も喜んでくれるだろう。
そう思い密やかに微笑んだその時だった。
低いトーンのダミ声が彼の背後から聞こえてきた。
「ちょっとお、あんたなにしてんの?」
咎めるようなその声に彼は戸惑いながら振り返る。
声の主は頭髪を紫色に染めた縞模様の『はっぴ』を着た妙齢の女性だった。
見ると先ほど見た一団のお仲間のようだ。
紫色の女性は怒りの表情で腕を組んでいる。
彼は気まずく思いながらも女性の目を見て挨拶した。
『すまない、マダム。いけなかったか?
だがここはあなたの家でも所有物でもなさそうだが。
ちなみに私はパンクマンと呼ばれている画家です』
こうして芸術活動中に彼が街の人々に咎められることは今までにも少なくなかった。
だが大抵の人は自分の作品を見て名前を出せば逆にお礼すら言ってもらえるケースが多かった。
それくらい自分の作品には力がある。
彼はそう信じていた。
しかし紫のおばちゃんの次の一言が彼の自信を吹き飛ばす。
「はあ⁉︎なに言ってんのかわからへんわあ……⁈
ちょっとあかんでえ⁈ほんま!
こんなとこに落書きして‼︎
ほら!これでけしとき‼︎」
紫色のおばちゃんは怒った表情でバケツとモップを突きつけてくる。
彼は戸惑う。
彼女は自分の事を知らないのだろうか……?
いや、それよりこの絵を見ても何も思わないのだろうか……?
『しかし、マダム……』
言い淀む彼に更におばちゃんは拳を振り上げながらバケツを突きつけてくる。
「ガチャガチャ言わんと消し‼︎しばくで‼︎
今どき小学生でも落書きなんてしいへんで‼︎んまに!」
……自分の作品が落書き扱いされたのは初めてだ
(oh……!O阪のおばちゃん恐るべしです……!)
彼はすっかり意気消沈し彼女の言に従い街の片隅に描いた自分のアートを消した。
その後彼がこの街を訪れることは2度となかったという。
最後までお読み頂きありがとうございました。
あくまでもフィクションです。
当作に登場する人物、団体名は実在の物とは関係ありません。
本当です( ;´Д`)