逃走4
クロと勇者の戦闘をエリザベートの肩に担がれながら横目に見ていると何の問題もなく町の出口である門の近くまで来た。しかし、近づくにつれて人の声が聞こえてくる。
後ろ向きに担がれているから前の様子が見えず、体と首を捻って門の方を見ると数十人の冒険者と騎士が待ち伏せていた。
「ちょっと!あんまり動かないでくれる?走りにくいんだけど!それにしてもあいつら邪魔ね」
そう言いながら止まって門に近い路地裏に入った。
「ご、ごめん。なぁ出来ればあいつら殺さないで通れないか?」
と言うとジロリと睨まれたような気がした。俺からは見えないからわからないけど。
「はぁ!?何言ってるのよあんた!あいつらはね、あんたを殺すためにあそこにいるの!そんなことあんたにもわかってるでしょ?なんでそんな奴らに情けをかけようとするのよ。あたしだって無駄なリスクは冒したくないし」
「それはわかるんだけどさ。俺も勇者に殺されそうになって逃げることになった時点で人間側で生きていけるとは思ってないし覚悟は決めたけど、それでも同じ人間だし」
「まったく、甘いわね。けど無理よ。さっきも言ったけどわざわざリスクを冒したくないわ」
そう言ってそのまま門に向かって歩こうとした。
「やっぱいくらエリザベートが強くても無理だよな。ごめん、無理言って。そのまま突っ切ってくれ」
俺が諦めてそう言うと路地裏から出ようとしたエリザベートの足がピタリ止まった。
「今、あんたなんて言った?」
そして妙に圧のある声で問いかけてきた。
「え、無理言ってごめんって」
「言っとくけどね、別に無理じゃないわよ。·····いいわ、あなたまだあたしのことを舐めてるようだからやってやるわよ!」
「本当か、ありがとうエリザベート!」
「ほんとよ、あたしの強さよく見ときなさい」
俺を肩から下ろしながら得意げに言って腰に巻いてあるポーチから3本のナイフを取り出した。
そのうち2本を投げると詠唱もしていないのに魔法が発動して全てが同時にそれぞれの方向に動き始めた。
「あ、それ俺がさっき使ったナイフ。回収してくれたのか。しかも3本同時に操作してる」
「ふふん」
そして3本のナイフのうち一本が、門の前を固めていた冒険者の一番間隔がある所に落下して爆発した。
周りにいた冒険者は爆発によって吹き飛ばされた。遠目に見る限りそれなりに重症を負った人はいるが死人は出ていない。
エリザベートはそれを確認すると再び俺を肩に担いで走り出した。
さらに爆発に巻き込まれた冒険者に近づこうとした別の冒険者には2本目のナイフが飛来して全員の足を貫いて立つこともできないようにした。
その頃には門の前まで近づいていたが後ろから街の巡回をしていた別の冒険者が爆発を聞きつけていつの間にかすぐ後ろまで迫ってきていた。
それでもエリザベートは余裕そうにしながら風の魔法を使って門に近い負傷した冒険者を全て街の方に吹き飛ばした。
そして門を抜けると同時に3本目のナイフを投げて門のアーチ状になっている上部を爆破して破壊した。
後からきた冒険者達は負傷者を飛び越えて門を抜けようとしたが落ちてくる瓦礫に驚いて慌てて後退した。そしてその瓦礫は門を塞いで後退した冒険者を通れなくした。
「どうよ、約束通り一人も殺してないわよ」
「うん、すごかった!」
あまりの鮮やかさにその一言しか出てこなかった。
「ま、まぁ当然よね。あたしにかかればこれぐらい朝飯前よ」
エリザベートは少し照れたように頬を赤くして顔を逸らして俺を抱え直した。
「さっさと行くわよ」
町から少し離れた所まで来るとエリザベートは俺を下ろした。
振り向くとエリザベートに頭を下げている青年がいた。
「ご苦労様です。我が主人」
「ほんとよまったく。テレポートの準備は?」
「ほとんど終わっています。詠唱を終えればいつでも。ところでこちらの方が初代魔王様の生まれ変わりという方ですか?」
「クロが言うにはそうらしいわよ。名前はレイジって言ってたかしら」
そして青年は俺に近づいてきて手を差し出した。
「はじめまして、レイジ様。私は名前はバトラーと言います。元は人間でエリザベート様に吸血鬼にさせていただきそのまま眷属となりました」
「あ、えっとよろしくお願いします。バトラーさん」
元は人間だった方に驚きながらも差し出された手を握って握手を交わす。
「ちょっとなんであたしは呼び捨てなのにバトラーはさん付けなのよ!」
「あ、えっと·····」
横で聞いていたエリザベートがすかさず問いただしてきたので、言い訳を考えようとした瞬間モンスターから守るために町を囲っていた壁の一部が突然轟音と共に弾け飛んだ。
今年最後の更新です
皆さん1年間読んでいただきありがとうございます!
始めた頃はこんなにpvが増えたりするとは思っていませんでした。今年1年ありがとうございました!
来年もよろしくお願いします!
良いお年を!