逃走
翌朝またクロの猫パンチによって起こされるとすでに昼前だったので荷物をまとめて宿からチェックアウトした。
近くの店で朝食を食べたあと、ギルドに行く前に魔道具屋に向かとクロが不思議そうにしながらついてくる。
一旦店の手前の細い路地に入って奥まで進んでいく。
「クロ、一回変化してくへないか?」
俺が言ったのとほぼ同時に亜人の姿になった。フードを深めにかぶっているから特徴的な猫耳は見えないし尻尾は服の中に隠しているのでどこからどう見ても人間のようにしか見えないが。
「どうしたの?」
「ほら、この前火炎魔法使えるようになったじゃん?それで杖とかで威力とか安定させたいなと思ってさ。けど俺はそういうのあんまり詳しくないからクロにお願いしたいなって思って。クロって多分魔法得意でしょ?」
するとクロは満足げに何度もうなずいた。
「にゃるほど!そう言うことならまかされたにゃ!魔法なら魔族一と言われる私がしっかりいいものを選ぶよ」
そう言って店の方にどんどん歩いて行った。
「いらっしゃいませ」
と愛想の良さそうな女性が出迎えた。
クロはすでに店の中を歩き回って良さそうな杖がないか探している。
「すみません、あれなんですか?杖のようには見えないんですけど」
ふと気になって店の奥の方に置かれている物が気になって聞いてみると店主はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりにテンションの高い感じで説明してくれた。
「これはですね、魔法式拳銃といってこの国の最先端な魔法技術です。中が筒状になっていましてね、引き金を引くと自動で爆発の魔法を起こしてその圧力で中に入ってる鉄を筒の中から発射するんですよ!」
「な、なるほど」
店主はそこまで一気に捲し立てた。そしてさらに続ける。
「これの凄いところはですね、魔法を使えない人でも魔力さえあれば使えるんですよ!ほんと画期的な技術ですよね!これを見たときはかなり高かったですけど絶対仕入れないといけないなと思ったんです。殺傷力も高いですし射程も長い!すでに幹部クラスの軍の人には支給されたらしいですよ。どうですか?買いませんか?今なら金貨500枚でいいですよ」
「い、いえ。大丈夫です。そもそもそんな大金持ってません!いくよ、クロ!」
俺とクロは店主の押しの強さに驚いて逃げるように店から飛び出した。
「すごい人だったな」
「うん、魔道具に対する熱があれだけで異常だにゃって思った」
場所はさっきの路地裏。今まであまり見たことないタイプの人だったので二人で心を落ち着かせていた。
「けどあの魔法式拳銃て本物だよ。原理はよくわからないけど本当に引き金を引いただけで持ち主の魔力を使って魔法が発動するようになってた」
「本物でもあれは買わないよ。金貨500枚なんて払うのに何十年もかかるよ。それよりなんかいい杖あった?」
本来の目的を聞いてみるとクロは首を振った。
「うーん、私も途中からあの銃のことしか聞いてにゃかったからちゃんとみれてにゃいんだよねぇ」
「そっか。まぁ今すぐって訳じゃないから今度また来よう。ギルド行って適当に依頼でも受けようぜ」
俺が立ち上がって歩き出すとクロは猫の姿に戻ってついてきた。
ギルドに入るといつもとどこか空気が違うように感じて入り口に突っ立ったまま視線を巡らすとカウンターに、いかにも上級と言った感じの綺麗な装備を身に纏って、赤い髪をポニーテールにまとめた俺より少し年上くらいの少女が職員と何やら話していた。
すると俺のことに気づいた職員が俺の方を指してまた何か話している。
話が終わったのか少女は真っ直ぐ俺を見た。見たと言うより睨みつけた。瞬間一気に彼女からの殺気を浴びせられて動けなくなる。
そして一瞬で彼女が腰に吊っていた剣を構えて目の前に立っていた。
「えっ?」
「魔王よ、死ねっ!」
気合と同時に凄まじい勢いで振り下ろされる剣が突然、不可視の刃に弾かれた。
ようやく我に帰って動けるようになり後ろを見るとクロが亜人の姿になり険しい表情で手刀を振り抜いていた。
「スモーク!」
瞬間床に魔法陣が出現してギルドの中が煙に包まれた。
「逃げるよ!」
と言ってクロは俺を肩に担いでギルドから飛び出した。