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クロ

 目が覚めてベットから窓を見てみるとすでに太陽がかなり高い位置まで昇っていた。

 この時間になっても起こされなかったということはまだクロも寝ているのだろうか?

 まだ疲れが取れていないのかうとうとしながらベットから出て立ち上がって周りを見回してクロを探してみるが見当たらない。

 いなくなっていることに焦りかけてベットを見落としていたことに気づいて振り返ってベットを見てみる。


「うおわぁぁぁあ!」

 そこにクロはいなかった。しかし、俺は情けない悲鳴を上げて部屋の隅まで後ずさった。

 ベットには、俺が寝ていたすぐ横で女の子が眠っていた。しかも裸で。

「どうかなさいましたか?お客様?」

「いや、大丈夫です。すみません!」

 俺の悲鳴ですぐに駆けつけた従業員が扉をノックして聞いてきたがすぐに返事すると戻っていった。


 さっきの悲鳴や短い従業員のやりとりで目が覚めたのか女の子はゆっくり起き上がった。肩に毛布がかかっているおかげで辛うじて局部が隠れているのが幸いだった。

 ぱっと見、体は細身で身長は高くもなく低くもないが明らかに普通の人間ではなかった。

 本来耳があるよりも高い位置に耳があり、その耳が猫耳なのだ。さらに腰のあたりから尻尾が生えていた。

 パニックになりながらもなんとなく頭の中では結論が出始めていたが、その結論はどこか現実味がないように感じた。気づいた時には質問していた。

「君はだれ?」

 ベッドの上の猫耳の少女は首を傾げて少し考えてなにか閃いたのか、ぱっと顔を輝かせて答えた。

「吾輩は猫である!名前はクロにゃ!」

 一部どこからかとってきたようなセリフに聞こえたのは気のせいだろう。

 俺が状況を整理しようとしていると頭を抱えているとクロがよろよろと立ち上がろうとした。

「待った!動かな!そこにいろよ!」

 立ち上がろうとしたことで肩に掛かっていた毛布が落ちそうになり慌てて止める。慌てすぎてほとんど同じ意味の言葉を三回言っていた。

 急いで身支度を済ませてテーブルに置いておいた金の入っている袋をポケットに入れる。

「とりあえず服買ってくるからそこで待っといて!

あと誰か来ても絶対あけないでね!」

 俺の必死さが伝わったのかクロはこくこく頷いた。


 三十分くらいで服を買って戻ってくるとクロはまた眠っていた。寝息を立てて熟睡だった。

「おーい、クロ。服買ってきたから起きてくれ」

 声をかけるとすぐに目を覚ました。

「服買ってきたらこれ着てくれ。外で待ってるから終わったら呼んで」

 そう言って早々に部屋から出てドアのそばで待っていると意外と早くドアが空いた。

「着替えたよ」

 見てみるとフード付きのコートでその下にシャツ、ショートパンツ、ニーソを履いている。ちなみに色は黒だ。悩んだ結果最終的に黒なら似合うだろうと思って選んだが予想以上に似合っていた。思わず見惚れて突っ立っているとクロが首を傾げた。

「入らにゃいの?」

「ぶはっ!」

 思わず吹き出してしまった。多分噛んだのか舌足らずなのだろう。俺が笑ったのでクロ自身も気がついたようで、白い肌がみるみる顔が赤くなっていく。

「あっ、今のは違くて、猫でいたのがにゃがかったからで!」

 そう言って一気に捲し立てたがまたなっていて俺はさらに笑ってクロはさらに赤くなった。多分ながにゃになってしまうのだろう。

 気になることを言っていたけど笑いすぎてすぐに聞けなかった。


 部屋に入ってしばらくしてやっと笑いが収まりはじめてやっと喋ることができた。

「ふー、ごめんごめん。その見た目だといかにもって感じで」

 そう言うとまた赤くなって顔を背けた。

「さっき猫でいたのが長いって言ってたけど、もともとは猫じゃなかったの?」

 ようやく本題に入るとクロもまだ顔が少し赤いながらも真剣な顔になって話始めた。

「そう。もともとは魔族だったんだ」

「やっぱりかー、最初見たときに思ったんだ。人間に近い姿だけど動物の特徴を持つ魔族がいるって本で読んだことがあるから」

「正確には亜人ていうんだよ。ちなみに魔族は人間以外の知性を持つ種族の総称だから他にもたくさんいるよ」

 クロの説明になるほどと頷いてから質問を続ける。

「じゃあ何で猫になってたんだ?」

「猫ににゃってたじゃなくて今も猫だよ。昨日使えるようになった変化の魔法でこの姿になっているだけで。そして猫になった理由は短くまとめると勇者のせいなんだ」

 短くまとまりすぎてて全くわからなかった。俺が首を傾げると流石に短すぎたことに気づいたのだろう。補足してくれた。

「実は猫になる前、私魔王だったんだよね」

 得意げに胸を張ってそう言った。魔王と。

「えぇぇ!·····ホントすみません!大丈夫です。ごめんなさお!」

 本日二度目の絶叫だった。そしてその絶叫で再び駆けつけてきた従業員に全力で謝った。

「ざっくり話すと勇者と軍が奇襲してきて、私が勇者を足止めしてる間に他のみんなを逃していたの。けど避難が思ったより時間かかっちゃて町はほぼ壊滅して私は勇者に追い詰められて」

「どうなったの!?」

 俺が食い入るように聞くとクロはさらに得意げになり熱が入ってきた。

「その時、勇者に変わった魔法がかかってたことに気づいたのよ!その魔法は洗脳の魔法で簡単にゃ仕組みだったから一か八か賭けに出て残ってた魔力全部使ってその魔法を解除したの」

「その後は?」

「洗脳が解けたと言っても勇者の仕事は魔王を倒すことだから私を殺そうとしたんだ。私は全力で抵抗して命乞いしたんだけど勇者は容赦にゃく聖剣を振り下ろしたんだ」

 後半はクロが声を低くして言ったので一気に緊張感が増して唾を飲み込む。

「そして気がついたら猫になってたの」

「·····は?」

 あまりにも突拍子のない結末に俺は目が点になった。

「だから猫ににゃってたのよ。存在自体が亜人から猫に変わってたから多分聖剣の力にゃんだと思う。勇者は私の命乞いを聞き届けてくれたのよ」

「なるほど?」

 まだ少し釈然としない気がしたが納得することにした。

「じゃあ勇者が魔王を討伐したってのは誤報だったのか。もしかして殺したことにするためにネコにしたのかな?」

「多分そうなんだと思うよ。そのあとは放浪を続けてレイジに出会ったの」


「ちなみに次の魔王が誰かももう決まってるんだよ」

 その後もいろいろな話をしてしばらく時間がたってクロが突然言った。

「へー、けどそれはいいかな?俺にはほとんど関係ないだろうし」

「いやいや、関係大ありだよ、それレイジにゃんだから」

 再び絶叫しそうになったが三回目にしてなんとか自制する事ができた。できなかったら今度は土下座してたかもしれない。

「いや何でだよ⁉︎俺人間だよ」

「一番というか最大の理由はそのテイムの能力にゃんだよね。初代の魔王が持ってたのと全く同じ能力」

 クロは何食わぬ顔で説明した。

「モンスターが出現しはじめた時、人間は魔族が原因だって魔族を迫害したの。それに魔族代表で立ち上がったのが初代の魔王で、魔族の国を作って魔族の王ににゃって人間と対立したの。そのときに戦力が足りなくてモンスターをテイムで従わせて人間と戦ったんだ」

 それで魔族が原因の説に拍車がかかったって言うのは言うまでもないけどね、と付け足した。

「それでこの能力の情報が少なかったのか。持っていたのが一人だけなんだもんな」

「もっと言うと初代魔王の転生はずっと昔からわかっていて初代以降の魔王は転生した魔王を支えるために生まれたんだよ。ちにゃみに私は五代目」

 一瞬納得しかけたがすぐに否定する。

「いや、けど偶然同じ能力を持って生まれてきただけかもしれないじゃん?」

 その問いかけをクロはあっさり肯定した。

「その可能性は十分あったよ?けどこうして話してるうちに薄くなったけど。だって普通の人は魔族が現れたらすぐ逃げるか何かするもん。レイジは無意識のうちに魔族を信用してるんじゃにゃい?」

 それを言われてはっとした。確かにそうだ。ほんとにそうなのかとひたすら悩んでいると突然扉がノックされた。


「レイジ様、チェックアウトのかなり時間を過ぎているのですが」

 外を見ると火が沈みはじめていた。だいぶ長い間話していたらしい。そしてチェックアウトの時間は一時間以上前だった。

「すみません!あと一泊させてください!」

 扉を開けながら土下座してお金を差し出した。従業員はお金を受け取って満足そうに降りていった。

「このあと魔王になる人があんまり簡単に土下座しにゃいでほしいにゃ」

 クロは後ろで呆れ気味にそう言った。

「·····ま、まぁご飯でも食べに行こうよ!その姿なら人間の食べ物も食べれるだろ!」

「え、いいの!行く行く!」

 まだ魔王になると認めたわけじゃないが苦し紛れにそう言うとクロはあっさりそう言った。

「あ、けど宿泊費1人分しか払ってないな。このまま降りるとクロのまで払わないといけないのかな。流石に金がなくなるんだけど」

 俺が一人焦っているとクロが

「私が猫に戻れば問題にゃいでしょ?」

 と言って一瞬で猫の姿になった。ちなみに買ってきた服は消えていた。

 俺が焦っているとクロが再び亜人の姿になると服も一緒に出てきていた。

「原理はよくわかんにゃいけど大丈夫みたい」

「それは、よかったぁ。じゃあ行くか。外でその姿なる時はフードかぶっといてよ」

「もちろん」

 そして俺とクロは夜ご飯を食べに夕暮れの町に繰り出した。

 いろいろあったけどこの町にきて初めてゆったりとした一日を過ごせた気がした。

 


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