デートの約束
「あ、それとですね。誰が彼女クラスであるかに関係なく、「彼女」に対しては「彼氏」らしく振る舞ってください。もしも彼女に対して冷たくあしらえば、シャッフル後の関係性にまで影響を与えることになります。肝に銘じておいてください、あなたが付き合っているのは「彼女と」ではなく「彼女クラスと」なのだということを。もちろんわたくしはあなたが、本来とても一途な方で心のなかで愛しているのはたったひとりの女性であり本当は他の女とは口も聞きたくもないことは重々承知していますけども」
「なんで最後そんな嫌味っぽい言い方なんだよ」
その時だ、俺はスマホのLINERに通知が届いていることに気がついた。内容は『今日の待ち合わせ、3時だからね!』というもの。送り主は水沫だった。
「やっべぇ……俺、待ち合わせしてんのかよ……。場所がどこかわかんねぇ……」
「あー、これはまずいですね。あと20分しかないですよ。LINERでの過去のやり取りを見たら、履歴が残っていませんか?」
「あるわけねぇだろ、そもそも約束してねぇんだから」
「いえ、それは違います。シャッフル前の世界では約束していなくても、今の世界では更道さんと水沫さんが約束したということが事実として残っているはずです。シャッフルが起きたあとは、世界は整合性を保とうと、都合の悪い事実は改変されますから」
俺はLINERのトーク履歴をさかのぼって確認してみた。
「マジだ……。俺の知らないやり取りが、水沫との間に残ってる。けど今日の約束については何も書いてないみてぇだな……」
「とすると口頭で約束した可能性が高いですね……」
「なぁ、こういう場合どうしたらいいんだ?」
「まあ、本人に直接尋ねるしかないでしょう。それとなくメッセージを送ってみては?」
少し考えてから、俺はこう返信した。
『待ち合わせの場所覚えてるよな?』
『覚えてるよ笑 更道こそ忘れてない?』
やべぇ、墓穴掘っちまった……。
『忘れるわけねーだろ笑 えーと駅前……だよな……???』
頼む! わざとボケてるのだと解釈してくれ!
『違うし笑 柳大の正門! 今ほんとに忘れてたでしょ笑』
やべぇバレてる! 全部見透かされてるのはなんで!? まあでも、結果としてはセーフ……なのか……?
そこで俺は思い至った。なるほど、昨日から柳橋大学の学祭が始まってたんだっけ。その学祭に一緒に行くことになってたんだな……。
「さあ、ぼーっとしてる暇はありませんよ! 柳橋大学なら、タクシーを拾えば五分前には着くでしょう」
「そうだな、行ってくる! やべ、そういや俺、財布に金が全然入ってないわ……。デート代足りねぇよな……」
「えぇー。もう、しょうのない人ですね。これ、あげますから使ってください」
ライトはそう言って、俺に壱万円もの大金を握らせた。
「他の女とのデート代を貢がされるなんて複雑な気分ですよ……」
「す、すまん。後で必ず返すから」
ちくしょう、なんか隣の席の女子大生っぽい二人が俺のこと軽蔑した目で見てるんだが!