胡散臭いセールスみたいな女
「更道、私買い物行ってくるからね?」
あまりの疲労感から、俺は自室に戻りベッドに潜り込んだ。
そんな俺に対して、委員長はドア越しに呼びかける。
「ほんとに病院に行かなくて大丈夫……?」
「……大丈夫だって! 入ってこなくていいから!」
「うん……それじゃ、行ってくるね」
階段を降りる足音が遠ざかっていく。
なんだよ一体……。
どうしちまったんだ委員長の奴。平気で俺んちに上がりこんでくるわ、平気で俺の前で着替えようとするわ。
明らかに常軌を逸した行動を取ってるくせに、挙句の果てには俺に病院に行けだとよ。
うーん、これはまずいかもわからんね。親御さんに連絡したほうが良いよな。
……しかし待てよ。考えてみたら常軌を逸した行動をしてるのは委員長だけじゃねぇよな。いほりだって、水沫だって、今日はする事なす事がぶっ飛んでた。
え!? もしかして……俺じゃね!?
おかしいの俺のほうじゃね!?
コンコン。
控えめにドアをノックする音が聞こえた。
なんだよ、戻ってきたのか? 忘れ物でもしたのかよ。
俺は聞こえないふりをした。
ゴンゴン。
ノックの音が少し強くなる。
開けたくねぇ。俺は寝るんだ。きっと疲れすぎていてヤバい幻でも見てるんだろう今日は。期末テストのストレスで自律神経がオカシクなったんだきっと、全然勉強してねぇけど。
ドンドン!!
「あーもうっ! 頼むから静かにしてくれよっ!」
「わわわっ」
俺が勢いよくドアを開けると、見知らぬ女がドアの前に立っていた。
誰? 今日って不法侵入しても許される日かなんかなの?
「あー、どうも初めまして。わたくし並行時空間監視委員会セキュリティ対策部の天海と言う者ですが」
「要りません」
即答してドアを閉める俺。女は驚異的な反射速度で、閉まる直前のドアの隙間に指を挟み込む。おい危ないな、指を挟んだらどうすんだよ! まぁ不法侵入の犯罪者にかけてやる情けはねぇけどな!
「待ってください〜〜。少しだけ話を聞いてください〜〜」
うわ! 怖ぇ! 何だこいつ!
俺は両手でドアノブを握りしめ、力の限りにドアを閉めようとする。開けられたらヤバい。なんか知らんがヤバい。知らないうちに家に上がりこんでくる奴ってストーカーだよな? そんな奴に何されるか分かったもんじゃねぇ! 死んでも開けねぇぞ!
女は笑顔でグイグイと扉を押し、力の限りにこじ開けようとする。かっぴらいた目が隙間から覗いていてホラーである。
ってかこの女力強いな!
「お願いちょっと待って、話だけでも! 営業の話じゃないんですよ〜!!」
「うるせぇ帰れ! 営業だったほうがまだマシだよ! なに人んちに勝手に上がりこんでんだ頭おかしいんじゃねぇの!?」
「あなたの人生に関わる話です! あなた今悩んでますね! その悩み、もう抱え込まなくていいんですよっ。私がこれからお話することのなかに、答えが全部示されていますから!!」
「うちは仏教の家系なんで帰ってくれ!」
「誤解です、宗教じゃないんです! 最近、あなたの身になにか異変が起きてませんか!? 例えば親しかった友人や恋人が突然別の設定のキャラクターみたいに変わってたりしませんか!?」
「……なんでそれを」
衝撃的な女のひと言に、俺はついドアノブを握る手の力を緩めてしまった。
迂闊にも程がある。こういうヤバい連中の話を、まともに取り合っては駄目なのだ。
こんなときに必要なのは、問答無用でドアを閉め問答無用で警察を呼ぶこと。これが本来するべき、正しい判断だ。
だがまずい、と思った瞬間には手遅れだった。ドアは内側に開かれ、勢いよくスイングした扉が俺の頬骨にクリーンヒットした。
「ぶべっ!」
そして痛みに悶える暇もなく、今度はバランスを崩した女が吹っ飛んできた。俺に覆いかぶさるようにして、女は盛大に俺の顔面にヘッドバットをかました。
「痛ぁ――――っ! いきなり手を離さないで下さい!」
「それは、俺の、セリフだっての…………!」