表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/23

プロローグ

不定期更新

 おかしい、絶対におかしい。

 俺の周りで異変が起こっている。

 いや、異変なんてそんな生温いもんじゃない。この世界が、決定的に狂ってしまった。

狂ってしまったのは俺のほうか?

 そうだったらまだ救いもあったろう。でも違う。これは歴とした現実だ。この世界の歯車が、今日、どこかの時点でかけ違ってしまったんだ。いつ? おそらく、俺がベッドで熟睡してるあいだに……。



 世界っていうシステムは、もっとうまく出来てるもんだと思っていた。

いや、そう言うと語弊があるな。

 この世界にはたくさんの不条理が溢れているし、世界はちっとも完璧なんかじゃなくて、たくさんのどうしようもないトラブルや病巣を抱えている。そんなことは俺でも知っている。

 だけどなんというか……そういうのって、あくまで世界っていうルールの上に成り立ってるものだろ? この世の中に完璧なゲームが存在しないのと一緒で、それは言わば世界っていうゲームの中で構築されたルールに、たくさんの不備があるみたいなものだと言える。

 だけど、今回の出来事はそういうルール上の瑕疵とはまったく別次元の問題だ。

 もしも世界っていう名前のゲームがあるとするなら、そのゲームのシステムそのもの(・・・・・・・・)に潜んでいた、もっと根本的で致命的なバグが、俺の人生の上に、いとも簡単に降りかかってしまったんだ。

 そんなことが起き得るだなんて、俺はこれっぽっちも考えたことが無かった。

 なんか自分でもわけのわかんねぇ難しいことを言っていると思うが、要はこういうことだ。



 彼女は明日も彼女だし、親友は明日も親友で、委員長は明日も委員長なんだと、俺は思っていた。



 でもそうじゃなかった。いつまでもそのまんまじゃなかったんだ。

 クソッ、自分の語彙力の無さが恨めしい。俺が言いたいのは決して、すべての物事は移ろいゆくものだ、とかそんなありきたりのことじゃない。ましてや俺が彼女に振られたとか、親友と絶交したとか、委員長が役割を放棄したとか、そんなどうでもいいことを嘆いているわけじゃない。

 ははは、笑うしかねぇ。昨日までは、なんの変哲もない幸せな日々だったのにな。



 頼むから、俺の人生返してくれよ……。



 いや待て、とにかく今日1日のことを振り返ってみよう。嘆くばかりでは、何ひとつ好転なんてしない。まず現状をしっかりと受け止め……ることはさすがにできないかもしれないが、自分の立っている状況を整理してみれば、見えてくるものがあるかもしれない。そうすれば明日から何をすればいいか、おのずと明確になってくるはずだ。



 俺が最初に異変を感じたのは、校門に着いたときだ。

 そしてその少し前、校門にたどり着く直前に、俺はクラスメイトの山本と永野に会ったんだ。あいつらは野球部で、朝練のメニューの走り込みをしている途中だったのだが、俺の姿を見つけてわざわざ足をとめたのである。持つべきものは友だな。いつもどおり、バカな事を言い合ったりして。

 今朝はとてもいい気分で、こんな何気ない日常のひとコマが青春なんだろうな、とかなんとか、そんなことを考えていた。そう、あらゆるものが美しく見え、見慣れたはずのいつもの風景がやたらとキラキラ輝きまくっていた。



 なぜか?



 そのときの俺には、ただ一ついつもと違った出来事が起きていたからだ。



 そう。くだらない日常が異常にキラキラしてみえる、そんな出来事なんてひとつしかないよな。



 俺に彼女ができたのである!!



「いいよな〜お前もついに彼女持ちかよ……」

「あんなかわいい彼女俺も欲しいわ」

 山本と永野は、俺の脇腹を小突いたり首に腕を回したり……おいやめろ汗が染みてくるだろうが。

 すると山本が、柄にもなく真剣な眼差しで俺に問いかける。

「もうおっぱい触ったのか?」

「マジで!? やるなぁお前……。この変態ムッツリヤローめ」

 二人は大笑いし、「いいなぁおっぱい触れて!」「俺も触りてぇなぁ!」と喚き散らしながら走り去っていく。おい、てめぇらデカい声で根も葉もない事を言うのやめろ!

「んなわけねぇだろ! 昨日付き合い始めたばかりだぞ!!」

 走り去る背中に俺が叫ぶと、二人はケラケラと笑いながら去って行った。

 ったく、部活に精を出すのはいいが、ちゃんと前見て走れよ。ただでさえこの辺りは交通事故が多いんだからな。



 そう、こんなありきたりなバカ話をしながら通学路を歩いていたこのとき。この時にはまだ、俺は露ほどの異変も感じてはいなかった。

 実のところすでに異変は起こっていたのだが、野球部のバカふたりと俺との会話に大きな齟齬があったことなんて、俺はまだこれっぽっちも気づいてはいなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ