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霙時  作者: 翠夢 隷璃
6/6

霙時 6

私は公園へと歩いていた。

学校の。帰り道の。さびれた。公園。

いや、そうだった筈だ。

そこに行けば誰もいなくて、いや、彼がいる。彼とは何回も、何回も、話している。名前も学年も知らない、彼。

今、行かなきゃ。そうわかっていた。今日は、雪…いや、霙。足も手も頬も冷たいのに、肺だけがまるで走っているように熱い。苦しい。頭が、いたい。でも、止まれなかった。足は、勝手に進む。霙が髪や肩に落ちる。すぐに溶けていく。

ついた。

ここのベンチに。

彼が。

「やぁ」

彼は微笑んでいた。黒い髪が、黒い制服が、濡れて更に黒い。でも、彼の抱えるモノだけは純白に光っていた。

「こちょうらん…」

「うん。今日は、お別れだから。あげる。もう、会えないよ」

「どうして!?そんな、お別れなんて…」

「もう、時間がないんだ。ほら」

「何のこと…」

あぁ、頭が痛い。肺が、苦しい。あしが。続ける筈の言葉が霙と共に溶けていく。

「じゃあね」

鳴り響くような頭痛の中、私は気を失った。

「○○○○」

最後、きみは、なんて言ったの?




目が覚めると、霙みたいな灰色の天井が見えた。

病院、か。

「あぁ!起きたのね!良かった…良かった…」

ひどい金切り声をあげて、お母さんが私に抱きつく。

「わかる?覚えてる?ママよ!」

うるさい…言われなくとも、わかる。

「あなた、気を失って…」

彼女は泣きながら話す。

私は遮り、一言こう言った。

「彼は?」

「?誰の事?あなたの周りには誰も…夢じゃない?」

そんな…そんなわけない!!彼は、居る。絶対…

ほんとに?

というか…彼って、誰?

「あ…うそ…」

じゃあ。あの素晴らしい世界は、夢…?

何日も、夢を見ていたの?一つの夢だったの?

私の目から涙が溢れた。

どんどんと記憶がなくなる。

わからない。

どんな夢だったっけ。待って。忘れたく、ない。

嫌だ…

素晴らしい、夢だった気がするから。…

私は泣き崩れた。

何か、何か思い出すものは、ないか。見回すと、純白の花がいけられていた。

「胡蝶…蘭…」

「それ、知らない人からのなのよ。あまりに似ているから、兄弟と思われたらしくて…確か、鏡とかなんとか…」

胡蝶の夢。一人の一生が、実は小さな蝶の夢だった。皮肉みたい。変な人に違いない。そう思うと、私の胸に、痛みが走った。

その人は、きっと、私と本の趣味は合わない。

突然そう思って、また私は泣いてしまった。

「これで、全部…。あなたにももう会えないわね。今話したこと、あなたは忘れるでしょうけど。夢かどうかなんて、考える事が無駄よ。だって、私はあなたの鏡…いえ、鏡程完璧じゃないわね。…『ひびわれた鏡』…なのには変わらないんだもの。覚えていてなんて、言わないわ。…じゃあね」

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