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霙時 3
私も彼もお互いが同じ学校だというのは知っていた。制服だったし。探そうと思えば探せた。でも、お互い探さなかった。
だって、そのほうがいい。全部が謎で、名前すらもわからないまま。なんだか神秘的じゃないか。
だから名前を呼ぶときは、「ねぇ」だとか、「あの」と代わりに呼ぶ。それで、良かった。
仲良くなりたいとか、そういうもの以前に、違う何かが、しかも確実な何かが、繋がっていた。名前なんて邪魔だったんだ。
この素晴らしい日々に必要なのは、このベンチと本だけ。ただ二人で本を読むだけ。そう、それだけ。
彼は暗い話を好んでいた。バッドエンドとかそういうのから、最後まで謎の残る不可解なもの。そういうのを好んで読んでいた。
そして読み終わると、目を合わせて、「じゃあ」と言って帰る。
次の約束なんてしない。いつ会えるかなんて気にしたくない。また、会えるかな、そう考えて学校に行く。
素晴らしい、日々。私はそれを壊したくなかった。
…だから、聞けなかった。
あなたの服やバッグが異常に破けているのも、あなた自身もぼろぼろなのは、なんで?
なんて。