霙時 1
「ねぇ、私の不思議なお話を聞いてくれない?退屈はさせないから。今じゃなきゃダメなの。今話しておきたいの。お願い。…えぇ、それじゃあ始めるわ」
…ホームルームが終わる時の音。
昨日も今日も変わらない。きっと、明日も明後日もこの音を聞く。ずっと、ずっと、ずっと。
昨日も今日も変わらない。
何も。
「はぁ…」
重い溜息が曇天に染まっていく。雪の降りそうな、重厚な灰色の空が、私の肺に溜まっていく。
強い風が吹く。私の首を掠めて去っていく。
ぎゅっと締めてよ。お願い、私の首をそのまま。
そんな強い願望は風と一緒に去って行った。
まだ、逝けないみたいだ。
「はぁ…」
そう思うと、また溜息が出た。「溜息の数だけ幸せが逃げていく」、なら私にはもう幸せなんて少ししか残ってない。こつこつと革靴の音をコンクリートに響かせ、帰り道を歩いて行く。向かう先は、秘密の場所。私の少ししか残ってない幸せの、100%。
公園。ベンチと、ブランコ。それぐらいしかない場所。もう誰も遊びに来ない…可哀想な、私みたいな場所。
教材なんて一つも無いバッグから本を取り出す。
冬の公園、曇り空。ベンチに腰掛けるは、艶やかな黒髪の女学生。なかなかに良い気なものだ。
私は速読だし、今日はまだ早い。
「3冊は…いけるかな」
私は寒さも気にせずに夢中で本の世界に浸った。