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3話「意外と素直な奴なのか?」

「え?なんでハンカチ?」

 そう言いつつも、俺はズボンに入っているハンカチを取り出し、アライの目の前に見せる。するとアライは手にあるハンカチを奪い取る。いきなりだったから俺自身も聞いたことのない変な声が出る。

「ぎゃあー」

「はあはあ、ようやく手に入れたわ。このシミを消したくて消したくて、入学式集中できなかったんだから。これはこの洗剤を使って、自作のアルコールを……」

 同級生アライはすぐさま、俺に背を向けると女子トイレの方に走り去っていった。

「な、な、これって新手のいじめ?」

 俺は驚いた衝撃で、床に尻もちをついていた。周りをきょろきょろと見るが、他の人は俺たちには関心が無いようだった。っていうか、皆居なくなるの早すぎるだろう。教室には数人ぐらいしか居なかった。

 まさかの初対面の同級生あらいにモノを取られるとは思わなかった。軽く人間不信になりそう。

 小鹿のように足を震えながら、立ち上がる。深いため息を吐きたくもなってくる。俺はただ友達を作りたいだけなのだ。なぜ話しかけられて、いきなりモノを奪われないといけないのだ。

「俺も帰るか……。御手洗あらいだっけ、あいつ覚えてろよ」


 次の日の朝、教室に向かうと、机に俺のピカピカになったハンカチと一枚の紙きれが置いてあった。

 机の上にあった紙を手に取ると、そこには……。

『ごめん、本能でつい。御手洗あらい』

 返ってきたハンカチを手に取るとまるで新品のように綺麗だった。まるで真っ白なハンカチに……。シミと一緒に青色の柄まで落ちてやがる、どれだけ洗ったんだよ。


「……まあ、案外悪い奴でもないかもしれないな。今日にでも会ったら何か話せたらいいかな」

 スッと自分の椅子に座る。ほどなくしてから、御手洗あらいが教室に入ってくる。

 すぐさま近寄ってくるかと思ったら、隣の席に座った。

 教室からがやがやと同級生の声が聞こえてくる中、沈黙が流れてくる。どうしよう。話しかけたほうがいいのかな?うう、どう対応したほうがいいのか?経験がないから分からない。

 だけどハンカチの事もあるし、話しかけてみるか。ドキドキしている俺。勇気を出せ。良し、やるぞ。やったる。

「「あ、あの!」」

 被った!まさかの!俺の顔は真っ赤になりながら、身体中が熱くなってくる。チラリと同級生あらいの方を見ると、うつむきお互いに真っ赤になっていた。

「いい、いや、何かな?」

「才川君こそ、なに?何か用?」

「い、いや、昨日のハンカチの件なんだけど……、綺麗にしてくれてありがとう。青い柄落ちてたけど」

 俺はそう同級生あらいに言うと、すぐさま立ち上がり、あらいは頭を下げた。

「ごめんなさい。本能で。昨日才川君がトイレから出てくる時に見てしまったの、あのシミ汚れを。柄まで落としてしまったのも申し訳なく思ってるの」

 俺は首を傾げながらふと思う。そんなに汚れてたかな?ちょっと恥ずかしくなってくる。初対面の人に汚れを見られて洗われる感覚、そんな性癖があるのならば喜んでいたかもしれないけれど、俺にはそんな属性はない。

「ごめんね。洗うのに夢中で才川君のハンカチ綺麗にしすぎちゃった。でも喜んで、ふわふわのハンカチで、汚れはもちろん、細菌すら存在していないはずよ」

 そんな右隣で立っている御手洗あらいは仁王立ちをしながら、「ふふん」とドヤ顔していた。

 こいつは潔癖症なのだろうか。名前だけじゃなくて性格までもアライグマに似ているのだろうか。心なしか髪色が似ている気がする。


「だけど今度から気を付けてくれよ。急に取られたらびっくりしちゃうよ」

「ああ、気を付けるね。ただ洗いたい衝動が私を駆り立てる。埃やシミとか見たら綺麗にしたいのよ」

 隣にいる同級生あらいはギュッと手を握り、熱い思いを俺の目の前でぶちまけていた。

 正直、何を言っているんだろうと思ってもいたが、性格なのだろうと息を吐くしかなかった。

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