1話「プロローグ」
桜の花びらがひらひらと舞い散る校庭。新しい匂いがする高校の教室、新入生たちが自己紹介をしている中、俺の番になった。
席に立った俺は目立ちたくないってのもあり、無難な自己紹介をしたのち、早々に席に座った。何も印象に残らないかもしれない。ただ、最初から変な印象を与えることもなくなった。それだけで俺はホッと気持ちを落ち着かせることが出来た。第一印象でリスクを背負うこともない。ここは慎重になるべきだろう。
なんせ俺が恐れているのは変に目立ちすぎることだ。いわゆる少年期、小学校の頃だった。
とある小説の主人公の『人間強度が下がるから友達は作らない』、という台詞に憧れ、今まで座右の銘にまでにし、同級生、ましてや上級生、下級生、担任までも関わりを持とうとはしなかった。
我ながらどうしてこうなった。後悔しても後先絶たず。座っている椅子、ふくらはぎを含む下半身を貧乏ゆすりをする。手を組み、顔をうつむいて、周りの自己紹介を聞き流しながら、俺は心の中で叫んでいた。
『友達ってどう作るんだっけ?分からん、どうやって話しかけるの?どう接するの?俺ってきょどってない?ああ、友達欲しいいいいいいいいい』
周囲を見渡すと、みんな同じような顔をしている気がする。落ち着け俺、みんなジャガイモだ。そうだ。緊張するだけ無駄だ。普通通りに接することが出来たのならば……、出来たのならば……、って普通に接するってどうすれば良いの?
あの作品の主人公に憧れを抱いたのがいけなかったのか。いやしかし、過ぎた過去を今更どうこうなどと言えない。実際にキャラを真似ていた黒歴史なのだから。
ただ、俺がそれ以前に恐れているのは今までのキャラがバレる事だ。周りは俺の過去を知らない。そのためにこの高校を選んだのだ(電車で二時間ほど)。
すなわちイーブンだ。少しでもバレてしまえば、友達なんてもってのほか、いじめ問題すら発展するかもしれない。ああ、みんなリア充、不良グループ、ヤンキーばかりに見えてきた。
俺はごくりと喉を鳴らし、額から脂汗を流す。絶対にバレてはいけない。この高校で俺は生まれ変わるのだ。高校デビューする。友人を作れるのならばなんだっていらない。
拳をギュッと握り、思いっきり立ち上がる。
「俺はやるぞ!俺は……」
思いっきり周りから俺への目線が痛い。教壇に立っている担任のため息が聞こえてくる。
「……、おい才川。入学して興奮しているのは分かるが、少しは落ち着け」
周りからの笑われている感が妙に、心に響く。俺は「すいません」とだけつぶやき、席に座った。
やってしまった!なんで俺は声を出してしまったのだろうか。もしや俺の心の声が出ていたのか。
頭を抱えながら、机にうつむき、嘆き声を出したくもなる。いや、まだ大丈夫だ。焦る時間じゃない。まだ自己紹介が終わっただけだ。ただ、なにもないところで奇声を発しただけ……。
普通に変な奴じゃない?自己紹介の時に奇声を発するなんておかしな奴でしかないじゃん。
急に冷静になった僕は顔を真っ赤にして、さっきまでの行動を悔やんでいた。
悔やんでいるうちにクラス同士の自己紹介が終わったみたいだ。担任が体育館に案内する。
早々に入学式を終えると、再び教室に戻り、明日からの連絡を受けたのち、今日の学校の日程は終了した。がやがやと周囲は話し込む奴らでいっぱいだ。早々に帰る奴も居た。俺は話す相手もいないので誰かれ話しかけてもな。何も出来ない屈辱感を歯で食いしばり、ゴクンと飲み込みながら、通学バックを持つ。
「さて、帰るか」
「あ、あの才川くん……」
僕は席から立ち上がると、同時に右隣から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。