はじめての実習
「春日井、ちゃんと予習して来たんだな」
普段笑顔を見せない教授が、珍しく笑顔で言った。
神田さん達は、ハルヒの堂々とした受け答えが余程気に入らないらしかった。
「だって、准看じゃん。」
「私たちのことバカにしてるのよ。」
「鉄面皮を笑わせたんだから、余程気分いいわよ。」
神田さんは自分が恥ずかしい思いをしただけあって言いたい放題だった。
「ね、あんたもそう思うでしょ?」
私にずいっと顔を乗り出して来た神田さんに何も言うことが出来なかった。
それから、ハルヒへの嫌がらせは始まった。奇しくも初期実習がスタートし、ハルヒは神田さんとペアで病院に配属されていた。私は別の病院に配属されていて、ハルヒとは寮でしか顔を合わせなかった。毎日の行動記録やサマリーに追われ、私もハルヒに目をとめることはなかった。
「今日の患者さんは……っと」
ハルヒも頑張ってるんだ。
私はそう思って、ハルヒのいない机を見ながら、記録用のバインダーを広げた。
そしたら、巴原さんが立っていた。立ったままなにかを放り投げた。
「着替え持って行ってあげない(あげなさい)」
ぴしゃっと部屋中に響く声だった。
「誰に?」
「春日井によ。わかるね、実習先。」
「なんでですか?」
私は訳がわからなかった。
「見ないね(見なさいね)、これ。こんなにされたら帰れんでしょうが。」
白衣と制服が破かれていた。
巴原さんは顔を合わせずに言った。
「こういう時は同期なんだから」
私もその言葉で分かった。