第98話 石原裕次郎ゆかりの町
前話に比べて勢いがなさすぎる……
「あのあとどうなったか知ってるか?」
俺は高橋に尋ねた。あぁ、体中が痛い。
「知らん。気付いたら朝だった」
頭を摩りながら高橋は答えた。
昨日、俺は加藤に倒されたんだ……大事な人を守りきって。
その大事な人が俺の元に駆け付けた瞬間、気絶しちまったんだよな。
でも起きたら布団で寝かされてたんだよな。ちゃんと寝間着まで着させられて。
「加藤がやってくれたのか?」
「多分そうだろうな。あいつ、意外と面倒見いいとこあるし」
あの時、最後まで立っていたのは加藤だったからな。
それに高橋の言う通り加藤が面倒見いいっていうのは本当だ。
部活の指導係は大体加藤だったし。まぁ理由は『後輩の女の子と触れ合える』だったけど。
それに料理・洗濯・掃除、家事全般はなんでも出来るからな、加藤。まぁ、出来るようになった理由は『ひょんなことから可愛い義妹(もしくは同居人)と二人暮らしすることになったときの為』だったけど。
「俺がホモじゃないって訴えるチャンス失っちまったんだな」
「ドンマイ。誰彼構わず出合い頭におもいっきり乳揉んでやればいいんじゃない?チャンスなんてごろごろ転がってるだろ。やるかやらないかは全てお前自身だろ?」
「うっせぇよ!そんなことできるかっ」
「いいじゃねぇか。おいしいキャラじゃねぇか」
「おい野田、人の気も知らないで」
「しょうがねぇだろ、他人事だもん」
「おいコラ」
高橋は結局、自分の中の問題を解決出来てないが俺に負けた事でなんかもう吹っ切れたようだ。
後腐れが無いっていいね。
最初からそんな心配してなかったけどね。じゃないと最初からあんな悪ふざけなんてしないよ。
「何二人だけで喋ってるんだい?話聞いてた?」
「なんも聞いてなかったです。ごめんね、山崎さん」
「どこから行く?って話だよ!」
修学旅行二日目、最初は小樽観光から始まる。
班に分かれて小樽の観光地化した所を見て回ろう。って訳です。
うちの班は俺・高橋・山崎さん・町田の四人。
いつもなら加藤・増田・武さんも一緒なんだが、今回は諸事情により一緒じゃありません。
加藤は俺と山崎さんを見てると悔しくて悲しくてムカついて来ると言って別れた。
増田は一部の女子による熱烈な引き抜きにより別れた。
武さんは増田についていった。
「町田が全部決めていいよ」
高橋が言った。
この言葉は決して女性を敬ったレディーファーストの言葉ではない。めんどくさいから班長の町田に全部任せよう。って意なんだろう。
「正直、やることなんて無いからゆっくりテキトーに歩いてお土産買えばいいよね?」
小樽に失礼だろ、町田。
「よろしい」
「何で上から目線なのよ、高橋」
その後は女子二人がお土産を買うのをずっとついていった。
俺と高橋はお土産なんて旅館の売店で済ませればいいと思い、殆ど何も買わなかった。
女子ってのはどうしてこんなに買い物が好きなんだろう?
本当にそれは欲しい物なのか?『買う』という行為が好きなだけなんじゃあないか?
そんなことをすっげえデカい(長い&カラフル)ソフトクリーム食べながら思った。
「京都とか奈良行きたかったな、高橋」
「だな、寺とかゆっくり見て回りたいな」
「金閣寺を一度生で見てみたいんだよな」
「天気が良いと金閣寺が水面に映ってめちゃくちゃ綺麗だぞ」
「見たことあるのか?」
「うん。小六のとき」
「いいな〜。大仏は?東大寺の。やっぱ超デカイ?」
「想像してたより小さかった。いや、間違いなくデカかったんだけどな、もっと圧倒的な迫力があると思ってたんだ」
「いいな〜見てみたいな〜」
……山崎さん、またご当地キティ買うんですか?
「ねぇ、寿司食べない?」
俺は皆に提案した。
「小樽が美味しい魚で有名な町であるかどうかは知らんけど、せっかくの北海道なんだから食べないかい?」
「だな、せっかくだからバカ高い寿司を一貫だけ食べるか!」
と、高橋から。
「まだ北海道らしい食べ物食べてないからねー」
と、町田から。
「なんか高校生っぽいお金の使い方だねっ」
と、山崎さんから。
俺達はテキトーに近くにあった寿司屋に入った。
……スゲー!回転してねーよ!
しかも壁に『時価』って書いてあるよ!
高級だよ!
場違いだよ!
気後れしそうになるのをテンションで押さえ、その勢いのまま一人一貫注文した。
俺は大トロ!高橋は中トロ!山崎さんはイクラ!町田はウニ!
高ぇ!ウメェ!
でも高ぇ!それ以上にウメェ!
すくねぇ!ウメェけどすくねぇ!もっと食いてぇ!金がねぇ!
お前なんか握ってやる!
チクショウ高ぇ!ウメェ!
腹一杯食べれる大人になろうと思った日。
小樽はお土産買うつもりがないとちょっぴり退屈な町です。石原裕次郎ナントカ館に行こう!……お前なんか握ってやる!