第90話 ターミナル
「いいことを教えてあげよう。
昔な、こんなことがあったんだ………
………ある年の修学旅行で飛行機を使ったんだ。
そしたらな、旅行会社側の不手際で生徒一人分の切符が足りなかったんだよね。
飛行機ってのはなかなか規則とかが厳しくてね、教師の切符を学生が使うことはできなくて一人は空港に残らないといけなくなったんだよ。
それである女の子が先生と空港に残される事になったんだ。
その女の子は暗くて地味でいつも一人でいたような子だったから切符をもらいそこねたんだろうな。
そんな子だったクラスの奴らもあんまり気にしてなかったんだけど………やっぱ彼女、ちょっと悲しそうな顔してたよ。
『僕のを使ってよ』
ある男子がこう言ったんだよ。
彼だけは彼女が悲しそうにしているのに気付いたんだろうな。
彼は野球部エースでクラスでも人気のある活発な少年だったからクラスの皆も彼女も驚いてたよ。
何で私なんかに?友達の一人もいない私に?
彼女は最初、遠慮して断ってたんだけど彼は無理矢理渡して彼女を送り出したんだよ。
彼女は何度も何度もありがとうって言ってたな。少し泣いてたかもしれない。
彼の行為が堪らなく嬉しかったんだろうな。
そんで、後から合流した彼と彼女が修学旅行でカップルになった事は言うまでもないな。
一人ぼっちの彼女にとって苦痛でしかなかったはずの修学旅行が人生最大最高の思い出になったんだよ。
………という話だ」
ステキな話だな、スガさん。
「ちなみに今、その女の子は僕の妻をしています」
自分の話だったんかい!
超ドラマチック!超ロマンチック!
スゲェ!いい話!
「ということで誰か一人空港に残ってくれ」
はい?
「何故か切符一枚足りないんだよね」
まあ………そんな気はしてたけどね。
「誰が持ってないんですか?」
俺は持ってる。でも絶対に持ってない奴に譲ってやる気はない。
俺には山崎さんと共に空の旅を楽しむプチハネムーンごっこすると決めたからな。
これだけはやらなきゃならねぇよ。
「高橋だ」
論外だ。
高橋かよ。だったらスガさんの話なんて何の参考にもなんねぇじゃねえか。
「ドンマイ。後から来てくれ」
「やっぱ俺を助ける気は全くないか…」
「テメェの居場所は俺達と同じ所に無かったって事だ!」
「町田さん、チャンスじゃない?」
俺はひとまず高橋から離れ町田に話しかけた。
町田は高橋の不幸を爆笑していた。
「好きな高橋にスキスキアピールするこの上ない機会じゃないかい?」
「アハハハ、無理。好きな人だと言っても高橋ごときの為に私が損するのは無理」
だそうだ。
高橋って何なんだろう。切ねぇ。
「高橋なら大丈夫でしょ」
だそうだ。
この恋は町田にも問題があることがわかった。
「ということで、約束の地でまた会おう!」
「なんでだ!不公平感バリバリなんだけど!公平に決めようぜ!」
「ジャンケンとか?誰も参加してくれないと思うよ?みんな、お前の不幸を面白がってるもんっ」
「チクショウ!」
「ドンマイ!では行ってくる!」
男子一同。
「じゃあね!高橋くん!」
女子一同。
みんな実にいい顔をしている。これからの旅行に心からワクワクしているようだ。
「チクショォォォウゥゥウウウウ!」
一人を除いて。
いざ北海道の地へ!