第89話 バカ
待ち合わせのファミレスに着いたら町田はもういた。
「ようこそっ!」
「ようこそって…自分の家みたいに…」
バレー日本代表のエースアタッカーみたいな彼女は赤黒い変な色したジュースを飲みながら待っていた。
「飲む?」
「いらないよっ」
「そんで今日はどうしたの?」
「いや、デートの邪魔するつもりはなかったんだけどさ〜近くにいたから電話したの。暇だったしさ」
「あぁ〜〜、接骨院行くって言ってたね!ここらへんなの?」
接骨院か…町田、部活頑張ってるもんな。
「そうなんです。そんなことよりあんた達どうなのよ?見た感じラブラブですけど」
「どうって?見た通りですけどっ?」
ラブラブって言われて山崎さん何か嬉しそうだ。
「聞いていい?………もうチューはしたの?」
なんてこと聞くんだ!
うちの母ちゃんかよ!
「手なら繋いでるよ。ねぇ」
「ねぇ」
「恥ずかしがってんじゃないよ!チューはしたの!?チューは!?」
何この人!
チューなんてまだだよ!
「あ、その答えしだいでは私落ち込んじゃうかもしれないからやっぱ言わなくてよろしい!」
何この人!
「でも今のあんた達があるのは誰のおかげ〜?」
「「ありがとうごさいます」」
本当に感謝しております。
町田がいなけりゃこのカタツムリ以下の行動力しかない俺が山崎さんの彼氏になるなんて絶対無理だったと分かっております。
「そんでさ〜そんな私にあんた達は恩を返そうって気はあるのかい?」
…やっぱその話題かい。
「…無いわけではないです。ねぇ山崎さん」
「ねぇ野田くん。いっつもその話ばっかしてるよねっ」
「絶対嘘ッ!」
「ゴメンゴメンっ。でも町田が高橋くんと恋人になれたらホントに嬉しいな〜っていつも思ってるよ私っ」
悪いけど俺には高橋が町田を相手にのろけてるって想像が全くできん。
ラブラブな高橋と町田なんて………
『高橋スキスキーッ!』
『俺も町田大好きィー!』
『ワーイ!』
ブチューッッ!!
………ありえんありえん!
何の冗談だッッ!?
いや、これはさすがに大袈裟な想像だけどね。でも俺にとっちゃこんぐらい劇的な事なんだよね。
「高橋さ、私と同じ自由形じゃん?そのせいで高橋の中で私、なんか良きライバルってポジションにいるような気がするんだけど」
「間違いなく高橋はそう思ってるだろうな」
「やっぱり!?それってダメじゃん!」
「努力が足りないんだよ。もっと好き好きアピールしなきゃならんのだよ!」
あの鈍感男にはキスを迫ったり素っ裸で誘惑したりするぐらいのアピールしないと気付かんぜ?
「露骨なのは恥ずかしくて無理っ。それに千代美の事だってあるから………って、そうよ!千代美!千代美はどうなのか何か聞いてない!?」
武さん?
はて?
………そうだった!
超忘れてた!武さんも高橋が好きだって嘘!
超忘れてた!
でも町田まだ信じてたのかよ!
気付けるとこなんていっぱいあっただろう。さあ、どうしようか。
真実を言うべきか言わざる。
いいたくねー。
「まだ信じてた?あれ嘘だよ」
やっぱかわいそうだしね。
「え?」
「町田さんを煽って入部させる為の嘘です。ゴメンね」
まあ、結果として水泳部創ることできたからよかったと思ってる。
反省などするはずがない。
「バカー!あんたはフツーに勧誘ができんのか!ホントに悩んでたんだからね!」
「甘酸っぱい青春って感じで素敵じゃないか」
「素敵じゃない!バカー!」