第74話 マーキングキング
朝、トイレで書き上げました。是非読んでください!
山崎さんの部屋は素晴らしい。
素晴らしい空間だ。
山崎さんらしいこじんまりした部屋で、山崎さんらしいピンクで統一された部屋で、山崎さんらしいかわいらしいぬいぐるみや小物がちりばめられた部屋で………至る所に山崎さんを感じることができる。
深呼吸しておこう。
すぅ〜〜〜〜〜
極上のエアーぁあああぁあああ!
この空気が全身を駆け巡る。血管に流れ込む。俺に生気を与える。
あぁ、部屋と一体になった感じだ。
たまらん。
「山崎さん!パズル完成させよう!」
「早速だね、うん!」
………話では聞いていたが想像以上だ。
“夜の海”のパズル…暗い!黒い!
しかもほとんどのピースが黒くて難しい!
「何でこれを買おうとしたの?」
思わず聞いてしまった。
「自分に厳しくなろうと思ったらこれ選んじゃったの。中三のとき」
何だよそのストイックな生き様!中三のとき何があったんだよ!
意味不明だ…いや、ミステリアスだ。惚れ直したぜ。
いや、“好き”の度合いが下がったことなんてないから『惚れ直した』はおかしいな。
3000ピースのパズル…デカすぎる!多すぎる!
山崎さんが朝から俺を呼んだ理由がわかったぜ。
一日仕事になるぜ。
腕が鳴るぜ。
俺の集中力の無さを嘗めんな!
作業開始から30分。
飽きた!激しく飽きた!
山崎さんの中学の時の卒業アルバムとか見たい!
その山崎さんはというと………超集中してる。
無数にあるピースをチマチマと探してる。
チクショウッッたまらなくかわええな〜。
「どうかした?」
ジィーーっと見てたら気付かれた。ハズい。
俺の目線を感じたのか?
愛を感じたのか?
そんなことどーでもいい!
「いや、なんでもないです………香織……」
小声で香織と呼んでみた。
「そう?喉渇いたね、何か飲む?………マサル……」
小声でマサルと聞こえた。
山崎さんは俺のが聞こえていたみたいだ。
なんか恥ずかしいな。
「ジュース持ってくるねっ」
どこと無く顔が赤くなった山崎さんは部屋を出ていった。
………やべぇ。部屋に一人ぼっち。
何かやらないといけないですね。わかります。
床に寝そべってみた。
仰向けに、うつぶせに。
ベッドがある。
寝そべってみた。
仰向けに、うつぶせに。
たまらん!
いかん!俺には刺激が強すぎた!鼻血出そう!
すぐに離れた。
どうする?
山崎さんが戻ってくるまでに何ができる?
俺が来た証を残すマーキング的なことをしたほうがいいかな?したいな。
だったらどうやって?
部屋のどこかに俺の一部を隠す。何を?
髪の毛?
爪?
ハナクソ?そんなもんダメに決まってるだろ!馬鹿か俺は!
俺が使ってる本の栞を部屋にある本に挟んでおいた。
灰谷健次郎の『兎の眼』に挟んでおいた。俺も読んだ本。
さすが山崎さん、いい趣味をしている。
「リンゴジュースとオレンジジュースどっちがいいかい?」
俺が一仕事終えた頃、山崎さんは戻ってきた。
「山崎さんは?」
「私はリンゴ」
「じゃあ俺はオレンジで」
ストローを付けて渡してくれた。
育ちの良さが伺えます!
そんでまたパズル作り再開。
超集中…
超集中…
超集中…
飽きた!
山崎さんは
超集中…
超集中…
超集中…
超集中…
こっそり床に置いてある山崎さんのリンゴジュースと俺のオレンジジュースを交換しておいた。
オレンジジュースに手を伸ばす山崎さん。
気付かない。
ストローを口にくわえる山崎さん。
気付かない。
そんな鈍感なとこが好きな俺。
吸う山崎さん。
「ッッ!わっリンゴジュースじゃない!」
気付いた!
「びっくりしたー」
驚く山崎さん。
「間接キスなんだけど………どうですか?」
スッゴい恥ずかしい俺。
「………早くパズル完成させよっ」
顔真っ赤にした山崎さん。話を逸らす。
「山崎さん?」
「頭の中でこうだと思い込んでるものが口に入って違うと凄いびっくりするよねっ一瞬めちゃくちゃまずい味に感じるよね」
話を逸らす山崎さん。
「山崎さーん?」
嫌だったのか?
不安になる俺。
「………急過ぎます。でも段階を踏む手段としてはいいと思います!」
「ありがとうございます!」
「じゃあ私のも飲んでください」
リンゴジュースを渡される俺。
改まって目の前で間接キスすんのってめちゃくちゃ恥ずかしい!
………勢い付けて口にくわえて一気に飲み干した!
「はい!」
空のコップを山崎さんに返した。
「ありがとうございます!」
「………マサル」
「………香織」
「マサル」
「香織」
「マサルマサルマサルマサルマサル!」
「香織香織香織香織香織!」
何だよこれ。
幸せに絞め殺される!
書いた作者が恥ずかしい。もっと徹底的にマーキングする話にすりゃよかった!