第54話 少年の日の思い出
最近、作者の執筆を邪魔するように世の中が動いてるような気がする。たぶんこれは間違いないと思う。
ただ今の状況。
ダブルスはウチが勝ち、シングル1は負けて、一対一。
次のシングル2で勝利校が決まる。
絶対に勝たないといけない加藤。
緊迫とした状況。
加藤の勝利を皆、強く願っている。
加藤ならやってくれる、加藤なら俺たちに勝利をプレゼントしてくれる。
皆、加藤を信じている。
強い加藤を信じている。
だからこそ一番大事なシングル2を任せた。
いつもはどーしようもないゲス野郎だがここぞというときには誰よりも信頼できる。
昔の話だが、小学生の時、クラスの給食費が無くなる事件があった。そして当時貧乏だった俺が真っ先にクラスメイトに疑われた。
俺はやってないと言ったが皆、信じちゃくれなかった。
辛かった。本当に辛かった。
クラスメイトは俺の事を容赦なく責めた。小学生というのは純粋でとても残酷な生物だとわかった。
そしてその日のうちに先生が臨時のクラス会を開いた。
クラスのリーダー的な男子が俺が犯人だと言いやがった。
それが先駆けとなってクラス中が俺が犯人だと騒ぎだした。
本当なのかと先生は聞いてきたが俺は違うと言った。
しかしクラスメイトの野田犯人説はまったく止む気配は無かった。それどころかもっと激化していった。
彼らに他の可能性はありえなかったのだろう。ストイックなまでに野田犯人説を提唱しまくっていた。
次に先生は疑うように聞いてきた。
ひどいと思った。
でももうこの非難から避難するためには俺がやったと言うしかなかった。
小学生の俺にはもう耐えることが出来なかった。
『俺がやりました。ごめんなさい』
先生の驚いたような呆れたような顔、リーダー格の男子の勝ち誇ったような顔が目に入った。
俺に向けての罵倒が激しくなった。
メチャクチャに言われていた。
明日からいじめが始まるんだろうな、と思った。
そんな中で、
『野田は犯人じゃない!』
そう叫んだやつがいた。
教室が一瞬で静まり返った。
加藤だった。
加藤のあんな大きな声は初めてだった。
『証拠はあるのかよ!なんで野田なんだよ!貧乏だからか?そんなもん証拠になるかよ!お前らはバカかよ!』
すげー怒ってた。
『サイテーだなお前ら!ただ誰かいじめたい相手をつくりたかっただけじゃないのかよ!そうだとしたら野田はやめろ!野田をいじめたらタダじゃすませねえからな!標的だったら俺にしろ!でも俺をいじめたかったか覚悟しろ!』
なんかすげー怒ってた。
ごめん、俺のために怒ってるって分かってるのに若干引いた。
『それに先生もなんでガキが勝手に騒いでるだけなのに信じそうになるんだよ!理由が無いことぐらいわかってるだろ!ただめんどくさくてこのトラブルを早く終わらせたかっただけだろ!無実の野田が犯人にされそうだったんだぞ!もしそうなったら野田は間違いなくいじめられるようになったわ!それでどうせ先生はめんどくさくていじめだって見てみぬフリするに決まってる!先生はそーゆー人間だ!サイテーだ!』
先生にも怒ってた。
その後、俺はクラスメイトと先生から謝ってもらった。
クラスで一人だけ俺のことを信じてくれた。
加藤は俺のために他人に対してこれほどキレる。
加藤はそれほど俺のことを信頼してくれている。
それは、辛かった。
だって給食費盗んだの俺なんだもん。
加藤には本当にすまないと思っている。
その金でゲーム買いまくった時は自分の心の醜さで死にたくなった。
でもその罪悪感は大人になるにつれて薄らいでいった。
今ではいい思い出だ。
「なんか考え事か?」
加藤の声で現実に戻った。
「おう、トリップしてた」
「何それ?」
「まあ、とりあえず加藤の友達やってるのは人生の汚点だな、って分かった」
「なんで!?ひでえ!」
「まあまあ。試合頑張ってこいよ!最後の砦なんだぞ!リーサルウェポンだぞ!」
「では俺のことは最終兵器彼女と呼んでくれ!」
「はよ行け淫獣」
加藤を送り出した。
本当にこの試合は勝ってもらわないといかんぞ。
実はまだ一回戦だぞ!
終われるわけねーだろ!
あ、それと給食費盗んだって小学生時代の話は嘘だからな。
あんなドラマチックな出来事ねーよ!
なめんな!
大会編がグダグダと終わんねえ。加藤と野田しか出せねえ