第45話 熱血熱弁
学校の行事で9キロマラソンをしました。すごく頑張ったのに誰も誉めてくれない。100位内入ったのに・・・全200人だけど。
「『何で人は人を殺してはいけないの?』って聞いてくれ、田中」
スガさん?
どうしたんだ急に?
今はホームルームの時間。担任のスガさんがよくわからんことを田中くんに言ってきた。
何言ってんだ?
「何で人は人を殺してはいけないの?」
あ、田中くんちゃんと言ってあげるんだ。
「何で人は人を殺してはいけないの?」
また言った。淡々と言うな〜。
「何で人は人を殺してはいけないの?」
なんかこえーよ田中くん!ヨハン・リーベルトかよ!
何回も言うなよ。てかスガさんも言ってくれてるんだから早く答えてやれよ。
「何故かって?・・・・それは悪いことだからだ。でも何でそんなことを聞くんだ?殺したい相手でもいるのか?」
「・・・・」
おぉ、見事なシカトだ。
「だんまりか。そうだよな、答えずらいよな。・・・今のこの世の中、田中が殺したいと思うようなクソ人間なんていっぱいいるもんな。先生にだってムカつく奴はいるぞ」
「・・・・」
もう田中くん、ほかごと始めたよ。英語の予習か、やっぱ真面目だな〜田中くんは。
「でもな、やっぱ人殺しは悪いことだ。田中のような良い子はそんなことをやっちゃいけない。我慢してみんか?僕は田中に犯罪者にはなってほしくないんだ。僕の立派な生徒の一人として立派に社会人になってほしい。そして、社会人になって自分で稼いだ金で僕にメシでも奢って欲しいんだ。どうだ?これが僕の、田中の先生としての夢なんだよ。
・・・田中のことを想ってる奴は僕だけじゃない!クラスの奴らだって田中が自ら不幸の道に進むことなんて誰一人望んじゃいない!今がどんなに辛くても絶対笑って暮らせる日が来るんだ。そんな日が来るまで僕が田中を守る!・・・なあ、一緒に幸せになろうや?だから人殺しなんて考えるのはよせ、もし殺したくて殺したくて堪らなくなったら僕が田中の代わりにソイツを殺す。田中は汚れてはいけない。僕は僕の生徒の未来は輝きに満ちたものにすると決めたから、そのためなら何だってやるから。・・・・・僕は田中の先生だから・・・」
「・・・・・」
マジでこのオッサン、何言ってんだ?
田中くんだけじゃなくてクラス全員が静まり返ったぞ。
・・・でも超カオスやけどなんか格好いいぞ!なんか熱かったぞ!どことなく気持ち悪かったぞ!
「・・・どうだ?」
スガさんが皆に反応を求めた・・・その瞬間!
割れんばかりの拍手が教室内を包み込んだ!
すげーぜスガさん!
超意味わかんねえけど素敵だった!きめぇぜ!
「・・・ありがとう・・・・急にこういう熱血な教師をやってみたくなったんです・・・ありがとう」
なんで急にやりたくなるんだよ!
「でもやってみてわかったことは、実際にこんな教師いたらキモイってことですね、イタいですね」
やっぱ気持ち悪いってわかってるじゃん!
「でもなかなかに楽しいので今度はもうちょっと規模の大きいのをやりたいですね。田中、不良少年役を任せた」
ハマったのかよ!
「・・・・・」
田中くんすっげえ無視してる!
「では話の流れとしては・・・『命の大切さを知ろうという内容の授業でクラスの皆で子豚を育て、大きくなったら食べよう』ってのをやる。そして豚が成長し食べ頃になったのだが可哀相だから殺しちゃダメだという生徒がたくさん出てくる。このまま生徒達の意見を尊重するべきか?しかしこの授業の目的は“私たちは他の生物の命を貰って生きている”ということを理解させるためのものだ。はたしてどうするべきか・・・・というのをやりたい」
不良少年まったく関係ねえじゃん!
「豚役は大木に頼む。演じれない豚はただの豚だ、よろしくたのむ」
肉木!?
スガさんひでえ!
・・・ホームルームってこんなことする時間じゃないだろ!
まあ、何やる時間か知らんけども。
「あ、修学旅行について話さなきゃ・・・・やっぱまだいいか」
「話せよ!」
修学旅行にドコ行かせようか