最終話 ギャップ萌え
「正直に言うね。俺は君の事がとても大好きなわけ。だから絶対に嫌われたくないんだ。もう君の存在は俺のほとんど『すべて』になりつつあるんだ。でもそれって凄く危ない事だと思うんだ」
結局、昨日は電話しなかった。
昨日はとことん山崎さんと俺の関係について考えた。俺にしてはかなり真面目に考えたはずだ。
そして、次の日の今日。俺は山崎さんを家に呼んだ。
「『俺には山崎さんがいる』って思うだけでどんな嫌な事からだって簡単に抜け出せるんです。ホントに何からだって。…………でもそんなのってダメだろ」
山崎さん、俺の正面を向いておとなしく聞いてくれている。
これってホントに言うべき事なんだろうか?いや、言い始めたんだから最後まで言ってやる。
「一見素敵な言葉に思えるけど俺の場合違うんだ……山崎さんという理由で逃げ道を作ってるだけだと気付いたんだよ。俺は山崎さんを便利に使ってるだけなんだよ」
おい、俺!止めるなら今だぞ!
山崎さんめっちゃ不安そうな顔してるだろ!
「……そしてもう一つ。はっきり言って死活問題です。山崎さんが俺の前からいなくなってしまったとしたら、俺はどうなってしまうのか。恐ろし過ぎて想像もできない。ゾッとする。すでに山崎さん無しじゃ俺は生きられないのではなかろうかと」
もう目を見て話せない。
昨日一晩中考えたんだ。自分でもびっくりするぐらい冷静に。
俺は想像を絶するぐらい、山崎さんのことが大好きなんだ。
大変な事になっていると知った。怖くなった。
「で、でも心配しないで!ストーカーとかには絶対ならないから!」
よし、言うか。言っていいのか?
決めたことじゃないか。
あんないい加減なのが決めたうちに入るのか?
後悔は?後悔するのは当たり前だろ!
でも今なんだ。恐ろしいくらい冷静な今なんだ。
山崎さんのためなんだ。
一時的には君を傷付ける事になるだろうけど、それは一時的だから。
でも、ごめん。
「山崎さん、俺と」
「それって別れ話ですか?」
山崎さんが俺の言葉を遮った。
目には涙が浮かんでいる。そして怒っているようだった。
「馬鹿じゃないの野田くん!?それ以上言うと私、本気で怒るよ!」
ごめん。でも……
「何でどっちも好きなのに別れないといけなくなるのよ。野田くんの頭はどうなってるの!?ありえないよ!」
顔がマジだ。
俺だって別れるのはおかしなことだと思ってるよ。
でも俺が山崎さんに対してやってあげれることがどうしても見つからない。
だから今、幸せでラブラブでも今後こんな状態が続くかわからんのだ。しかもこれ以上山崎さんにのめり込んでしまう自分が怖い。
「不安なんだよ!」
「私だって不安だよ!」
俺は山崎さんに向かって初めて怒鳴った。
でもそれは山崎さんに返された。涙を流しながら叫ぶ山崎さんによって。
「でもそんな事考えたってしょうがないじゃん!私は嫌だ、絶対別れたくない。聞くけど野田くん、君は私と別れること辛くないの?耐えれるの!?」
「絶対耐えられないです」
「じゃあなんでそんな話切り出すの!?本物の馬鹿なの!?」
「……はい」
「私、君の想像を超えるぐらいに君の事が大好きなんだよ!?別れる!?そんなのあるわけねーよ!別れねーよ!ありえねーよー!」
「……」
「馬鹿な君にも分かるように分かりやすく言うからね。普通は好きだったら別れ話なんてしないの!」
「……」
「不安になるのはしょうがないけど考えすぎないの!野田くんのことは私が幸せにするからぁ!だから問題無いのぉ!」
「……」
「野田くんがいないのは嫌なのでこれからも仲良くしてやってくださいぃぃぃ!」
「……はい」
「じゃあこの話はオシマイ!全然楽しくない!……私、昨日の夜こっそりと野田くんとの結婚とか楽しい想像してたんだよ?」
「ごめんなさい」
何だ……俺ってもうすでに山崎さんに飼い馴らされているじゃねぇか……。
俺は何を血迷った事をしていたんだろうか。
山崎さんが好きなら何故続けない?
山崎さんを無駄に心配させただけじゃねぇかよ。あんなに顔真っ赤にして涙流して鼻水垂らして…………
彼氏を続ける度胸がないのか?
いや、こんなもん度胸なんていらないだろうが。ホントに馬鹿なんだな。
二度と冷静になるのはやめよう。
冷静になればなるほど自分が嫌いになるから。
自分を必要以上に卑下してしまうから。
完璧に目覚めた!
好きならそれでいいじゃないか!
頑張ってそれを続ければいいだけじゃないか!
そして君にとって俺がしてあげれることを絶対作る!最低でも三つ!いや、五つ!
超愛してる!
「山崎さん抱き合おう!おもいっきり体中の骨が軋んでしまうほどに!」
なんか逆に元気出たっぽい。
単純だけど別にいいだろ?
やっぱ山崎さんとだったら俺も大丈夫な気がする。
超愛してる!
「えっ!?裸で?」
「ええ!?いやっ……でも山崎さんがいいというなら」
「…………コンドーム」
「え?…………あり、ます……。とりあえず鼻水拭こうか?」
家族は全員、出掛けてるぜェェェェェェッッ!
「あ、おっぱい」
「指ささないでよ」
「ちょっと待って今、剥くから」
「あれ?そんなに大きかった?」
「何て?」
「おっぱい揉んでいいっすか」
「……どうぞ」
「山崎さんのアンダーヘアーが……」
「野田くんは……」
「やっぱ、おっぱいがね……」
「恥ずかしいよ」
「痛くない?……あれ?血が出ない?」
「それは体育のハードルで……」
「……えい」
「いやん」
「……香織」
「……マサル〜」
………………
……………
…………
………
……
…
「やっべえ!寝過ごした!」
二度寝なんてするんじゃなかった。
まあ、何歳になってもやめられるもんじゃないけどねっ。
それにしても何だか物凄い夢を見ていたような気がする。
ぼんやりとしか覚えてないのが残念だけど。
あっと、そんなにゆっくりしてる時間無かった!
早く学校行かなくてわ!
そーいや今日は学校に転校生が来る日だったな!
年甲斐もなくテンション上がるぜェェェェ!
「じゃあ行ってきまーす!」
どうか全ての彼女いない男子高校生に幸あれ。
彼女持ちの男子高校生にちょっぴり不幸あれ。
ギャップに苦しめ、少年達よ。それが快感に変わるまで。
ギャップ萌え
完