第11話 いざ転がしドッヂ
「転がしドッヂ選んで後悔してない?」
「うん、ちょっと」
そりゃそうだ。あれほど白熱したバレーの決勝戦見せられたあとの転がしドッヂやぞ。しょぼすぎるだろ!やりずれーよ!
しかも転がしドッヂ出場者の面子がひでえ。みるからに運動ダメそうな陰気なガリガリとかデブばっか、リアルのび太みたいなのばっか。誰があのクリーチャーを連れてきたんだ。たぶんクラスメイトからバレーのチームを追い出されたんだろうな。俺も同じ境遇だけど親近感は持ちたくない。負けた気がするよね。
「でも山崎さんって運動部に入ってたんでしょ?それなのにそんなに運動音痴なん?」
「水泳は小さい頃からやってたから得意なんだ。でも他のスポーツは何やってもダメなんだよね。体の動かし方がよくわかんないのかな、自分がどんな動きになってるのか全くわかんない」
「そうなんだ。野田もそんな感じやな。あいつ、スポーツテストとかなら平均以上の成績取るんだけど運動神経が全くないんだわ。野田も一応運動部だよ。なあ」
「ああ、うん」
急に俺に話を振るんじゃねーよ。どもりそうになったじゃねえか。
いままでの会話は全部高橋と山崎さんとのあいだでされてた。
高橋は女子と普通にしゃべれるんだな。凄いな。普通か、俺がダメすぎるのか。
「もうすぐはじまるな。頑張れよ、じゃあ」
「おう!頑張るねー」
高橋が行ってしまった。
これからは山崎さんと二人。
「あーーー何か恥ずかしいね〜。どうしよーか」
「とりあえずコートに行こうか」
「そだね」
やっぱ山崎さんも恥ずかしがってる。
転がしドッヂは人数が少ない。一人も参加してないクラスもたくさんいる。だから全チーム一気に行う。ふざけてんだろ。ほんとにバレーのおまけみたいだ。
15分の間大会運営側の生徒が転がしてくるボールから逃げ続ける。当たった人は大会運営側の生徒と一緒に当てる側にまわる。最終的にコート内にのこっているクラスの人数で勝敗が決まる。ルールはこれだけだ。
とりあえず高校生にもなってやるようなゲームではない。
そう思いながら転がしドッヂは始まった。
山崎さんと初めての共同作業だ。
「すっごい狭いね」
山崎さんが半分笑いながら俺に言ってきた。
「だね、俺もびっくりしてる。バカじゃねえのかこれは」
半径2メートルのサークルの中に50人近い生徒が入っているんだ。狭くてたまらない。ほんとにバカだと思う。まあそのおかげて山崎さんとすげえ密着してんだけどね。お肌が・・・!
陰気な50人に囲まれて始まった転がしドッヂだったが序盤その人数の多さからおもしろいように当たり凄い勢いでコート内の人数が減っていった。
俺たちは運が良かったのか他が俺たち以上にダメだったのか残り時間3分を切っても二人ともコートに残っていた。コートに残っている人数ももう数えるほどしかいない。
俺たちは完全に転がしドッヂを甘く見ていた。すっげえ楽しかった。
残り時間も3分となると当てる側の数も半端ないことになる。見たことのない波状攻撃が俺たちを襲うんだ。20をこえるボールが常に俺たちに向かって転がってくるんだ。
超白熱するぞ。
外野の応援も力が入る。
「野田ぁー!頑張れー!山崎さんを守ってやれー!」
「無理だ!」
そんな余裕ねえよ!
「香織ぃー!野田くんを守ってあげてー!」
「頑張るッッ!野田くん頑張ろうねッッ!」
「うん!」
山崎さんが熱くなってる!俺を守る気でいる!
究極の波状攻撃を避け続ける俺たちに生徒達はいつしかバレーの決勝さながらの盛り上がりを見せはじめる。
オォ!とか、すげえ!とかがいろんなところから聞こえてくる。いい気分だ。
誰だあいつ?あんなかわいい子となんであいつが一緒なんだ?死ねよ!とかも聞こえてくる。恐縮です。
そして・・・
プーーーーーーー!
終了の合図が鳴った。
コートに残っているのは俺だけ!
山崎さんは本当に俺を守って当たった!
でも
「いえ〜〜い!」
「いえ〜〜い!」
思いっきりハイタッチした。なんてさわやかなんだろう。
クラスの奴らの方にもどって俺を待っていたのは祝福なんかではなかった。
「ほんとに守ってもらってんじゃねーよ!」
「なさけなさすぎっ」
「野田くんがいなかったら香織が残ってたのに!」
「香織かわいそう」
「おまえひどいな」
すっげえ責められるんだけど、非難の嵐ってのを初めて受けた。
「高橋!もしかして他のやつらもそんなふうに思ってる?」
「当たり前だろ。全校生徒が同じこと思ってるよ」
「だってしょうがないじゃねえか!勝ったんだからいいじゃん!ねえ?」
「ねえ。頑張ったもんね!」
「山崎さんもそう思ってるじゃん!」
山崎さんの同意が得られたんだから皆もう何も言えまい。
「なかよくなってんじゃねえよ!」
男子からいろいろ攻撃を食らった。
おまえらじゃねえか、俺たちを転がしドッヂに追いやったのは・・・