第117話 道を外して
私生活が死ぬほど忙しいってわけではないッ!
……あぁ、何でこの一言が言えないのだろうか。
何でこんな簡単な台詞が……
言うチャンスは腐るほどあったはずだ。
それが今となっちゃあ残り僅かしか残されていない。
自分のヘタレっぷりには嫌気がさす。
情けない自分が嫌いになりそうだ。
緊張しているってのか?
そうだ。その通りだ。
恐いんだ。
断られやしないだろうか。
気持ち悪がられやしないか。
何かが壊れてしまうんじゃないだろうか。
そしてそれは一生修復不可能な物なのではないだろうか。
やめろ。
そんなことばっかり考えるのはよせ。
そうやって毎年失敗してきたんじゃあないか。
そしていつも後悔と自己嫌悪に苛まれていたじゃあないか。
学習能力がないのか?
やって後悔よりやらない後悔だ。
昔はこんなんじゃあなかったのになぁ……
当たり前だったことが当たり前でなくなり、これほど実行の困難なことになるなんてな……
あぁ、逃げたくなってきた。
眼の前に立つとどうしても怖じけづいてしまう。
何故だ?
毎日一緒にいるじゃあないか。
何を今更ビビってるんだ。
カッコ悪い。
ドーンと構えろよ。
でも、今回は違うんだ。
見方がまるで違うんだ。
ダメなんだ。
次元の違う状況なんだ。
でも!でもォォォ!
逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ!
おっ?
まだこんな事考えれる余裕があるんだな。
イケるかもしれない。
このテンションを保て。
このまま行くんだ。
今なら言える。
言うんだ。
喉の奥から吐き出すんだ。
聞いてもらうんだ!
今、あなたに言う!
「夏祭り行こうか?」
「何言ってんのお兄ちゃん?」
リビングのソファーに深く座った妹は首だけ俺の方を向けてよくわからないような顔をした。呆れられている?
悪いかな?
いや、間違っていることはよくわかってるんだ。
でもしょうがないだろ?
俺は妹が好きです。
バリバリ異性として見てます。
それが何だってんだ!
そりゃ逆ギレもするよ。
可愛すぎるんだよ。
家系的に浅黒い肌、肩にかからない程のショートカット、活発そうな顔立ち、特にキラキラした大きな瞳…………
いや、妹の魅力はそんなもんじゃない。
容姿がいいだけなら俺は他の女の子を好きになってたはずだ。
単純な話じゃあないんだよ。十数年一緒に住んでてわかる魅力なんだよ。家族だから感じられる魅力なんだ。
「いや、今日って夏祭りだよね?」
「そうだけど、お兄ちゃん友達と行かないの?野田くんとかといつも行ってなかった?」
「あいつは今年は彼女と行くらしい」
まぁ、ホントは誘われたけど断ったんだよね。
「お兄ちゃんに彼女はいないの?」
「いるわけないだろ!」
俺はそんな浮気な男じゃない!
「え〜〜、わたしの友達にもお兄ちゃんのカッコイイって言ってる子いっぱいいるのに〜」
「はいはい。でも残念ながらモテません」
「そうなんだ〜……」
何だ?その微妙な表情は?
「じゃあ一緒に行こうか!」
「マジか!?えりちゃんは誰かと行かないの?」
「わたしも友達はみんな旅行とか行っててヒマなんだよねー」
「へぇ〜〜」
彼氏がいなくてよかった……まぁ、いないことは調査済みなんだがね。
ということで……念願の夏祭りが…………嬉しすぎる。
「よっし!じゃあ準備してくるね」
「おぅ」
妹はリビングから出ていって、自室へ準備に行った。
夏だからといっても流石に部屋着じゃあ出かけらんないよな。
さぁて、何を買ってあげようか。
イカ焼きはどうだ?
やっぱかき氷?
ベビーカステラもおいしいぞ。
あんまり美味しくない筈なのにその場では美味しく感じちゃう焼きそば?
リンゴアメとかチョコバナナも祭っぽくて素敵じゃない?
楽しみだ!楽しみだ!
ピンポぉーーーンっ
……誰だ?
人がウキウキ計画立ててるときにチャイム鳴らすのは?
あ、今日は母さんいないんだった。
俺は玄関に行ってドアを開けた。
「はーぃ、どちさらまでしょうか?」
「あのぉ……武です……」
…………何で武さん?
まさかの武さん!?
それに何だい?その恰好は?
浴衣なんか着ちゃって……まさか?
……ダメだぞ!絶対にダメだ!
「えと……い、一緒に夏祭り行きませんか……っ」
「えぇ!?」
わわわ……やっぱり!
タイミング超絶悪い!
それに武さんってこんなにアグレッシブでしたっけ?
まさか家に押しかけてくるなんて……
「私からもお願いしまーす。どうも、島です」
まさかの島さんも!?
なるほど、島さんに無理矢理後押しされて武さんは来たんだな。でなかったら武さんが誘いに来るわけないもの。
でも、断ろう。武さんがいくら勇気を振り絞ったといっても俺には俺の事情があるんだ。
悪いね、武さん。
「えー、悪いけど…………」
「あぁ!お兄ちゃんその人達は!?」
え、えりちゃん……着替え早かったね……
「やっぱモテるんじゃんか!お兄ちゃん!どうも、妹のえりです」
「「どうもー」」
「もしかして夏祭りのお誘いですか?」
「そうでーす。お兄ちゃん持ってっちゃってよかった?」
「どうぞどうぞ!お兄ちゃんったら祭に行く相手がいなくてしょうがないからわたしと行くつもりだったんですからっ」
そ、それはお前を誘うのが目的で……
「そうなの!?でもそうしたら妹さんが一人ぼっちになっちゃうじゃない!?」
そうだよ島さん!だから引いてくれ!
「わたしはいいですよ〜、お兄ちゃん連れてって下さいよ!」
えぇ!?
「うーん、えりちゃんだっけ?だったら皆で行こうか!?」
え?
「そうしようかっ」
武さんも?あなたはそれでいいの?自分で言うのもなんだが目的は俺なんでしょ?
まぁ、島さんが一緒って時点であんまり関係ないんだろうか。
「いいんですか?じゃあよろしくおねがいしますっ!お兄ちゃんもいいよね!?」
「…………い、いいんじゃない?」
世界が俺の恋路を邪魔する。
やはりダメだというのだろうか…………
増田が1番ヤバイかもしれん……今までで書いてて1番キモかった