第114話 部長と顧問
ひねくれ者同士の会話です。
「あぢぃ〜〜〜」
プールサイドのベンチに座る俺。今日は部活です。
夏休みが始まり一年生も入ったということで練習にも熱が入ります。
山崎さんは今日も素敵だ。
先日のホットパンツちゃんなど霞んで見える。
夏休みはいっぱい遊びに行きたいねぇ。
「それにしても暑い!」
「だったら泳げばいいじゃないの」
「土屋先生?言わせていただきますけど、俺には選手達のタイム測ったりスポーツドリンク作ったりしなきゃならんのです。そんな余裕はありません!」
「いつから野田くんはマネジャーになったのよ!部長でしょうが!泳ぎなさい!練習しなさい!」
「努力はいつも俺を裏切る……そんな事がわかってるのに頑張れますか?」
「まだ君は頑張ってません!ここからでしょうが!」
「俺の潜在能力はもうマックスまで高められました。これ以上のレベルアップは見込めません。経験値の無駄となります」
ナメック星の長老でもいないかぎり俺は強くなれん。
十七年生きててよくわかっている。
俺は頑張ってはいけない
と。
悲しみを背負い込むだけだ。
運動神経なんていらないんだ。
「というわけで溺れない程度に泳げるようになったのでもう満足なんです」
「意味のわからない事ばっか言ってるんじゃないよ。速い人達と泳ぐのがそんなに恥ずかしい?……フッ、今更何を恥じる事があるのよ。意味がわからない。野田くんは今までそのクソみたいな運動神経で生き恥晒してきたんじゃないの?まだ耐性が付かないの?……ひじょ〜〜に愚か!運動神経がない上に学習能力も無いの?」
え??
「卑屈になってないで練習しなさいよ。多分報われないと思うけど……部長でしょ!?ある程度のやる気は見せなさいよ。……全く、何で山崎さんが野田くんの事を好きなのか謎だわ」
この人は言ってはいけないことを言った!
許されないこと!
何故山崎さんは俺が好き?
正直俺自身でも全くわかんねぇんだよ!
だから言っちゃあいけねえんだ!
それを言われると不安で堪らなくなるんだよ!
一種の自己嫌悪が湧くんだよ!
気にしないようにしてんだよ!
「そんなこと言うならやる気を起こさせるような言葉でも投げ掛けてくださいよ!」
せめてもの反論だ。
「がんば」
「一言だけ!?いくらなんでも酷すぎるでしょ!」
「野田くん?そうは言うけどこの私が、というか他の誰でもだけど、熱血語っても気味が悪いだけじゃない?寒いし痛いし辛いよね?誰が心から聞いてくれる?ネタにしかなんないわよね。だから『がんば』の一言にしたのよ。これで奮起してくれなきゃダメってことよ。シンプルなのが最も偉大なのよ」
…………何なのこの人?
でも略すなよ。せめて『がんばれ』にしろよ。
「先生はなんで先生になったんですか?」
この人は教育者になってはいけなかったと思う。
「聞きたい?……子供のころ私ね、体が弱くていつも入退院繰り返してたのよ。そこでいつも優しかった看護婦さんを見てね……」
「関係ない!だったらナースになってるでしょ!」
ん〜〜でも、この人はナースもやっちゃいけないと思う。
白衣の天使はアリエナイ!
「ホントは子供が好きだからよ」
本当かよ?一番ベターで一番有り得ない理由だよ。
「だったら小学校でいいじゃないですか」
「無理無理、だってピアノ弾けないし。それに足し算とかいちいち教えるのってイライラしそうじゃない?」
やっぱこの人全然子供好きじゃねえよ!
野田は水泳に対する思い入れはもうないようです。