第10話 スポーツは見るにかぎるよね
今俺はバレーの応援をしている。
参加人数が圧倒的に多いバレーは時間がかかるのでバレーがおわってから転がしドッヂをやるらしい。なんだか転がしドッヂが凄くおまけのように感じてならない。
バレーは1クラス男女2チームずつ出場し、まずくじ引きで分けられた4チームでリーグ戦をする。そしてそのリーグの1位が決勝トーナメントに進めるというシステムだ。
そして今はリーグ戦の初戦、相手は三年生。
さすが上級生、ウチがわずかに押されている。初戦からピンチじゃないか。でも俺は平気で野次を飛ばすぜ。俺はコートの外じゃ無敵なんだ。
「大木!敵にもデブがいるぞ!格の違いを見せてやれ!」
「うるさい!」
「大木!どうしたんだ?動きが鈍ったぞ!わかった!持病の痛風が痛むのか!」
「違うわ!」
「大木!お腹がすいたらすぐ言ってくれ!マヨネーズとご飯の準備はできている!」
「・・・あとでもらおう」
「大木!喉が渇いたらすぐ言ってくれ!水筒にカレーを入れてきた!」
「喉うるおす気ないじゃん!・・・あとでもらおうッッ!」
大木が鬼神と化した。
重い修業服を脱いだ後の悟空ぐらい動きが変わった。
大木が決める大木が決める大木が決める大木が決める大木が決めるッッ!!!
プーーーーーー!
試合終了のラッパが鳴った。
勝った!圧勝じゃないか。
「おまえ応援する気ないだろ」
「しょうがないだろ高橋、みんな試合出てるから暇なんだもん」
「勝ったからいいか。次の試合まで女子の応援に行くか」
もう一つの男子チームは増田がいるから勝つだろうし女子の応援に向かった。
「一応言っとくけどもちろんマヨネーズもカレーもないからな」
「わかってたけど凄いくやしいな」
「でも大木凄かったな、ただの肉の塊にしかみえなかったよ。速すぎて」
「僕のことバカにしてんだろ!」
「やっぱ肉木はやるときはやる男だと思ったよ」
「肉木ってなんだよ!みんなひでえ!」
そんな雑談交わしながら女子を発見した。町田達のチームだ。山崎さんもひとりで応援してる。
状況は、と言うと・・・勝ってるじゃないっすか。一年生相手だけどね。
応援も必要なさそうだし意味なく煽ってみようか。
みんなで手拍子と一緒に
「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイ!」
「うるさい!」
町田に怒られた。でも
「ハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイハイ!」
「邪魔!」
怒られた。本気っぽい。
そのあとは静かに見てました。結果は勝利です。
その後のリーグ戦は女子のパッとしないチーム以外一位で決勝トーナメントに進んだ。
男子チームから野田がいなくてよかったの声が聞こえてきてつらい。
そんなやつらは早く負ければいいんだ。
決勝トーナメントは午後から始まる。
今は昼ご飯の時間。
「やっぱ増田が凄いな、意外とみんなも頑張ってるしな」
「こっちも大木が大活躍やったぞ。“コートの豚・肉木”の異名がついたし」
「かっこいいな異名って」「加藤も欲しいのか?俺がつけてやるよ“クラスの癌”ってどうだ?」
「野田、それはいやだ。かっこいいやつがいい」
「淫獣ってどうだ?おまえをよく表してると思うんだが」
「それはかっこいいな!さすが高橋だ!みんな俺をそう呼んでくれや!」
バカがバカだと分かったところで昼休みは終わり決勝トーナメントが始まった。
高橋達の一回戦は同じ二年生。悲しいが俺のいないこのチームの敵ではなかった。
敵チームから野田さえいればとの声が聞こえてきた気がした。
増田達はまさかの一回戦負け。バレー部が三人もいる優勝候補の三年生が相手だった。でも凄い拮抗した良い試合だった。さすがの俺でも茶化すことができなかった。普通にナイス、とかドンマイとか言って応援してしまった。俺としたことがなんてこった。
気をとりなおして高橋達の二回戦は三年生。
俺の野次のおかげだろうか、無難に勝った。大木を鬼神化させる必要もなかった。
次は三回戦。これに勝てばベスト4だ。
相手はなんと一回戦で増田達が負けた優勝候補。
「マジ頑張るしかないな」
「勝ちたいな!」
「絶対勝とう!」
「頑張ろう!」
「僕もミスしない!」
やべえ、みんな真剣だ。ふざけれねえ。まじめに応援するか。
いつのまにか町田達もいる。二回戦で普通に負けたらしい。
クラス全員で応援だ。
開始早々三点連続はウチが取った。
「高橋いいねー!幸先いいよぉー!」
「おうッッ」
そのときはいけるんじゃないか!?
って思ったんだがやっぱ強かった。
結果的にダブルスコアで負けた。
みんなボロ負けすぎてあまりくやしくないらしい。
敗因は大木が鬼神化しなかったからということになった。
優勝はウチが負けたチームだった。
決勝戦はレベルが違った。凄すぎる。全校生徒が盛り上がった試合だった。
そしてその興奮冷め止まぬ前に転がしドッヂが始まった。
温度差が違いすぎるわ!やりずれぇよ!
そういや山崎さんと二人じゃん!やべーよ!
血がたぎってきたー!