第101話 あくまでメインは夜
作者、修学旅行ってシチュエーションに飽きてきてるのである
「加藤、お前今から何処に行く気だ?」
夜、旅館の部屋で休んでいると加藤がこっそり外に出ようとしていた。
俺は布団で寝てる恰好から顔だけ上げて声をかけた。
「クソッ、起きてたのかよ」
加藤は小さな声で悪態をついた。
「この時間帯に俺が寝るとでも?」
今日は修学旅行三日目。このやり取りは二日目だ。
一日目の大部屋と違い、昨日と今日は加藤との二人部屋だ。
「それもそうだな、野田はそんなに愚かな男ではないか」
「今日はどうする?昨日は結局覗き出来なかったから今日は必死だろ?」
加藤は一日目から学んだのか、暴力で突破することはしなくなった。
そのかわり条件を出してきた。
昨日は
『今から5分以内にお前に催眠術をかける。失敗したら今日のところはおとなしく引き下がってやる』
というものだ。
もう一度殴り合っても加藤に勝てる自信がなかった俺はこの条件を飲んだ。
そして勝った。俺の精神力が強いのか、加藤の催眠術が偽物だったのかはわからないがとにかく勝った。
そして加藤は条件通り女湯覗きを諦めた。
「まぁ、今日も暴力的なことはやめておこうや」
俺は提案した。
「また催眠術でもいいぞ?今日は10分に延長してやっても構わんが?」
昨日勝ったから俺には余裕があった。
でも油断はしていない。
現在の時刻は9時。女子が風呂を出る10時までなんとしても時間を稼がねばならない。
山崎さんとは10時に俺の部屋に来るように約束している。だから10時を過ぎる事はないだろう。
勝負は1時間!
山崎さんに加藤の犯行を教えればいい?そして部屋に付いてる風呂を使ってもらえばいい?
そんなことは愚の骨頂。確かにそうすれば加藤の魔の手からは簡単に逃げられるだろう。だが!何故山崎さんが覗き魔にビビって部屋の風呂に入らなくちゃならんのだ!
せっかくの旅行で何で大浴場に入れないんだ!
山崎さんにはそんな思いはさせない!
山崎さんは何も知らなくていい!不安は全て俺が取り除く!
そのほうがカッコイイ!
「催眠術はやめておく。やっぱフェアじゃないしな」
断ったか、加藤。
やはり昨日の催眠術は偽物だったんだ。自分が不利だと気付いたんだな。
きっと昨日は自分からは不思議なパワーが出るとでも勘違いしたんだろうな。
「今日はコレにしよう」
加藤はそう言って、鞄から四角い物を出した。
長方形の木で出来た…………そう、ジェンガだ。
「修学旅行にジェンガ持って来る奴なんて初めて見たぞ」
「初めての修学旅行なんだから当たり前だろ」
「揚げ足を取るな。珍しいってことだろ」
ジェンガ……長方形の小さなパーツを三本ずつ縦横に組み上げたタワー。そのタワーを崩さないようにパーツを抜き取って重ねていくゲーム。
まぁ、こんな説明いらんだろう。誰もが一度はやってるはずだ。
「確かにコレならフェアだな。よしっやろう!」
俺は条件を飲んだ。
……………
「うわっ香織、おっぱいでかっ!」
「また?もう三日目だよ!?もうそろそろ慣れてよ、町田」
「いや、コレは慣れるもんじゃないね〜、だっておっぱいだけ湯舟に浮かんでるじゃん!」
「米ちゃんまで!」
どうも、町田です。米子と一緒に香織のおっぱいに舌鼓を打っております。
米子ってのは島さんの下の名前ねっ。
「男子は堪んないだろうね〜こんなおっぱい」
「やめてよー町田っ。結構恥ずかしいんだからね!」
「私とはホントに真逆ね、栄養が全部おっぱいに向かってるっていう……私は全部身長に使われちゃったみたいだけど」
私なんて遠くから見たら棒よ!シルエットなんて間違いなく棒!あーぁ。
「いつ野田くんに見せるの?てか見せた?」
「米ちゃん!」
米子、オッサンだ!それかゲスなおばちゃんだ!
香織めっちゃ顔真っ赤にしてるね〜カワイイね〜。
「あんただって野田くんの見てるでしょ!?見せてあげないと不平等ってもんだよ!」
「だったら米ちゃんだって田中くんに……」
「アタシはいいの!」
理不尽だ!
面白いからいいけどね。
「そういえば私、増田くんに何もしてない…出来なかった…」
「悔いてるの!?千代美?」
やっぱ何かしたかったんだ。まぁ私も高橋に何もしてないけどね。する気も起きなかったんだけど〜。
「とりあえず野田くんとの初めての事があったらそんときはアタシに連絡ね!」
そう言って米子は風呂から出た。
前くらい隠しなさい!
米子はマジでオッサンだよ。
「香織ももう出たら?」
「想像したら恥ずかしくなっちゃった……」
やれやれだぜ。
……………
「なぁ。コレって……?」
小さな奇跡が起きて、俺は加藤に尋ねた。
「あぁ、詰みだよな?」
そうだ!
「スゲー!何、この奇跡!?もう抜くとこ残ってねぇじゃん!」
どーでもいいことに超テンション上がる俺!
「この場合どうなるんだ?」
「そんなことどーでもいいだろ!写真だ!記念に残そう!」
「だよな!この時間を大事にしないとな!」
「ちょっと高橋達呼んでくる!自慢しようぜ!」
俺はジェンガが倒れないように静かに部屋を出た!
……………
「馬鹿だな、野田は」
部屋に一人残されて俺はそう呟いた。
あんなに浮かれやがって…この間に俺は部屋を出て、女湯覗きに行くかも知れないのにな。
まぁ、しないけどね。
覗きなら昨日したからな。
やっぱ一対一じゃ俺は最強だよ。野田は失敗したと思ってたけど、実は大成功してたんだよ。俺はホントに催眠術が使えるんだよ。
でも成功するには条件がある。
第一に二人きりであること。
第二に相手の精神状態が穏やかであること。
第三に一定時間俺の目を見ること。
この条件があるから一日目は使えなかったんだ。
しかし条件を満たせばどんな精神力を持つ者にでも強力な催眠をかけることが可能だ。
昨日の野田には、俺が催眠術に失敗して野田が勝つという夢を見せてやっただけだ。
残念だったな。
でも安心しろ、山崎さんは見ていない。…前言撤回、山崎さんで勃ってない。
お前に免じて俺も頑張ってみたぜ。
ということで今日はもう満足している。
めちゃくちゃにすっきりとしたすがすがしい気分なんだ。
やっぱリアルは最強だな、どんな貧相な肉体でも液晶画面の100倍は魅力的だ。
さて、俺もジェンガの写真を撮ろうかな。
昨日の余韻に浸りつつ…
100話越えということで心機一転………あぁ、特に何も変わりませんね。島のフルネームは島米子です。今、海賊に捕らえられてるかもしれないオッサンの名字から取ったのはここだけの話。