第9話 運動なんてできなくたって
五月半ば。夏に向かって日に日に暑くなっていく。
明日は球技大会。
俺が体育祭とならんで最も役に立たなくなる日。
うちの高校の球技大会はクラス対抗で争う。
種目はバレーボールと転がしドッヂのみ。
・・・転がしドッヂ!?
去年はそんなの無かったぞ!俺の祈りが通じたのか?
去年の球技大会はひどかった。もちろん俺が。
去年はバレーボールだけだったのだが俺はとことんメンバーの足を引っ張った。相手チームは俺が穴だと分かると俺ばかり狙ってサーブを打ってきた。あんなもんどうやったら打ち返せるんだよ!
最後の方は俺、涙目だったと思う。
だから今年は
「俺は転がしドッヂやる!」
この球技は最高だろ。運動神経の高さに関係なく全ての人が楽しめる。しかもルールも円の中にいる敵をボールを転がして当てるだけと実に単純だ。円の中の人も、転がってくるボールなんてたいしたスピードはないので簡単によけることができる。
完璧すぎるほど完璧な球技なのだが一つ欠点があるとすればつまんねぇってことだろう。
「野田!よく言ってくれた!ぜひ転がしドッヂをやってくれ!」
「おまえほどの男なら転がしドッヂでも戦っていけるはずだ!」
「感謝する」
「てかおまえとはバレーボールのメンバーにはなりたくねえ」
「よっしゃ!今年は野田がいないから勝てるぞ!」
この学校は三年間クラスが変えないと言うシステムをとっている。だからみんな俺の運動神経がウンコだということをよくわかっている。
だから最後のほうにひどいこと言われたけどみんなココロが痛くなるほど快く転がしドッヂ参戦を承諾してくれた。
「俺はバレーがいい」
「俺も」
「もちろんバレーやろ」
「俺も」
「俺も」
「俺も」
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「俺以外男子全員バレーかよ!だったら俺だってバレーがいい!」
「絶対だめ。野田はもう決まった。これだけはくつがえらない。野田の移動だけは許されない。みんなバレーに勝ちたいんだ。わかるよな?野田が出たらどうなるか」
絶対だめらしい。担任にこんなこと言われたのは初めてだ。スガさんひどすぎるぜ。
「でも転がしドッヂって一人でもいいの?」
当然の質問をスガさんにしてみる。
「だめに決まってるだろ。最低でも二人だ」
「だったらだめじゃないですか!」
「女子と組めばいいじゃないか」
「無理無理無理無理!」
あたりまえだ。女子にまじって転がしドッヂなんて、過酷すぎる罰ゲームだろ。かっこ悪すぎだろ。恥ずかしすぎだろ。
「女子に転がしドッヂする人いるー?いるなら野田も仲間に入れてあげてほしいんだけど」
高橋が聞いてくれた。やさしさではない。5000%おもしろがっている。
「こっちも一人だけいるよー。運動音痴だからみんなの足を引っ張りたくないんだってさー香織。」
・・・香織?
・・・・・山崎香織?
山崎さんじゃねーか!
高橋の質問に答えてくれた女子、町田も絶対面白がってる。顔が笑ってるもの。
香織って呼ばれてるんだね。クラスの人とも仲良くなっているようでよかったよ。
てかやべーよ!俺の想像では女子4、5人にまじる感じだったのだが一人だぞ!
4、5人でも十分すぎるほど恥ずかしいのだが一人は恥ずかしすぎる!恥ずかしさで死ねるなら間違いなく致死量のレベルだろ!
高橋と町田が凄い楽しそうに笑ってる。
なんだ、あの二人は。悪意が感じられるのだが。
「二人だけらしいね」
「らしいね。でも俺は転がしドッヂ以外許されないらしい」
「らしいね。先生が言ってたね。私も運動神経ないよ。やばいね」
「だね。この状況もやばいけどね。ハズい」
「ハズいよね。まあしょうがないから頑張ろうか」
「やね。よろしくね」
「よろしく」
この淡々とした会話はなんだ!やっぱ俺はヘタレだ!
緊張がやばい。でもやっぱそれなりにうれしいです。
球技大会の話し合いが終わり、今は放課後。
みんなバレーの練習をしてる。
みんな上手いね。うちのクラスのデブ代表の大木もかなり機敏な動きを見せてくれる。
うちのクラス運動神経良い奴が多すぎるんだよ。
ちょっと練習に参加してみた。
転がしドッヂ選んでよかったと再認識させられた。