不測の事態への対処で仕事の出来は変わるってもんですよね? 98
第一章 九四話
...表情一つで随分な言われようだ。
「その件については、後程じっくり聞かせていただきます...」
今一つ釈然としないモノを感じたが...今は気にしている余裕がない。
{ミネルヴァ! 魔法構文の構築は?}
{完了しています!! }
{よし! そのまま維持しつつ全力でエネルギー粒子の集積を続けてくれ}
{了解です!}
指示を最低限に留め、ガスパールとヴィクトールに改めて宣言する。
「さあ!! ゆっくりしてる時間はありません! お二人とも心の準備を!」
「いや!? ちょっと待っ...」
「空間互換転移!!」
二人の意見は後で聞く事にして転移を実行する。
詠唱した瞬間に“エネルギー吸収結界を中心にした球状空間”の外側が、まるで反転する舞台の様に入れ替わる。僕とミネルヴァには既におなじみの光景だが...
今まで経験した事のない“転移魔法”を初体験した二人は混乱している様だ。つい先ほど“転移させる”とはっきり宣言したのだが...因みに結界内のランスロットはまた瞑想を決め込んでいる。
周囲の突然の変化に、表情を固体化させたガスパールがゆっくりと周りを見渡し、ガスパールよりは多少落ち着きを保つヴィクトールからも、
「...説明して欲しいのだが...一体何をしたのかね?」
と質問される始末だ。
「...先ほどの言葉通り我々を中心とした周辺空間ごと転移させました。僕が城壁を転移で構築したのはご存じの筈ですが?」
僕の説明を聞いた途端、ガスパールの表情が得心した様に変わった。彼等の前に現れたときも転移は使っていたのだが...認識阻害魔法とでも思っていたのかもしれない。
「そうか...あれはそうやって作ったもんだったのか...って、じゃあここは一体?」
ガスパールの様子に若干呆れつつ、ヴィクトールも同じ疑問を持ったようだ。二人は周囲を見渡して、
「なるほど...で、ここはどこだね? 」
と...まあ、当然の質問を投げかけてきた。周囲は広い円形の空間で、外壁部分は岩壁がそそり立っている。
頭上には遥か上空に薄暗い円形の空が見え...一見すると広大ではあるが、谷底と言われればしっくりするかも知れない。ただし、空間の中心に巨大な金属隗が鎮座しているが...
「...エルグラン山脈の火口です」
「なッ!?」
「おまえ! そりゃあギドルガモンの巣じゃねえか?!」
「流石に御存知の様ですね...ここなら多少無茶をしても大丈夫でしょう。もうここに棲む者は居ないわけですから...」
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既に完全に日が落ちている筈の時間、しかも巨大な火口の奥底なのに周囲は“夜明け前程度の明るさ”を保っている。
ギドルガモンが現れた時は周囲の岩肌全てが翡翠色に発光していたが今は違う。どこが光を発しているとも言えぬ薄明かりは、あえて言うなら周囲の空気そのものが発光しているかのようだ。
ギドルガモンを仕留めた後に大量に湧いていた魔物も、大量の氷漬けコカトリスを“異空間処理”した時に全滅したのか、現在の火口は静寂を保っていた。
「ふむ、そろそろか...」
ふいに今までの沈黙をやぶりランスロットがつぶやく。と、同時に立ち上がったランスロットは、目線を上に向けた。その視線の先、自身を覆う結界から火口の中心方向に、かすかに銀色に煙る靄が渦巻いていた。
事ここに至り、状況を見誤る者は最早何処にも居ない。それはミネルヴァを通して現状を把握している大聖堂の方でも同じだった。
「ヴィルヘルムさん!」
ミネルヴァを通して大聖堂にいるヴィルヘルムに呼びかける。
「そこに今から“ゲート”を作ります。対空攻撃手段を持つ人だけを連れてこちらに来て下さい!」
「...? 分かった! 開けてくれ!」
{ミネルヴァ! エンター1を経由してこちらに渡れるゲートを設置してくれ! それとエネルギー粒子の集積量は?}
{了解! 現状の命令に問題はありません! しかし高威力を伴う魔法は元素変換質量兵器でギリギリです! 断熱元素変換冷却は...とても展開できません!}
やはり厳しい... 断熱元素変換冷却で毒素を完封出来ない状況では、対抗戦力を無数に配置する事も難しい。
{魔法構文の構築が完了しました。ゲートを構築します!}
ミネルヴァの言葉と同時にゲートが開く。ゲートからはグラブフットとヴィルヘルム、それにクレオール枢機卿とフランソワーズ...謎の少女カズミが黒猫と共に現れる。
「呑気な事よな...今更うぬら程度の戦力を数人集めて何ほどの物になるというのだ? さあ、見えるだろう...おぬし等の滅びが現れたぞ!!」
その場に集った全員が火口の中心付近を見上げる。既にわずかな靄だった銀色の煙は、その姿を雲と見まがう巨大な銀灰色の渦と化している。そして、ゆっくりとした銀煙の渦は、次第に中心に向かって収束して行き...
「チッ、でかい! ギドルガモンの倍はありやがる!」
直接ギドルガモンと対峙したことのあるグラブフットが、思わず愚痴を漏らし...それに応えるようにランスロットの呟きが聞こえた。
「よもや200年の眠りを経た六翼の神鳥が、“魔力枯渇寸前の三首の神獣”と同じだとでも?! さあ? コレをどうさばく? 風によらず羽ばたき、魂すら凍らせる鳴き声と死の灰をばらまく神鳥を!」
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そこには...鳥というにはあまりに巨大なモノが居た。体高こそギドルガモンより一回り大きい程度だが翼長はゆうに150M近いだろう。
大まかな形状は...カラスのソレに近い。美しい連動をみせて羽ばたく三組の翼は紫と赤が入り混じるように変化する“構造色”をしている。
バランス的には少し長めの尾翼を優美に従え、猛禽類以上のかぎ爪を備えた脚は、クジラですら小魚のように掴み取りそうだ。
頭部には始祖鳥を彷彿とさせる細く長い口吻をそなえ、口腔の内部にはサメのごとき牙が乱立している。そして瞳は...光沢をおびた黒一色。なぜかは分からないが激しい羽ばたきに矛盾して風は感じない。
そして...呼びもしないのに顕現した“神のもたらす試練”は...瞳の無い眼球でこちらを認識したようだ。
一際大きく羽ばたいて若干の距離を取った“神鳥”は、全くと言って良いほど重さを感じさせず着地。同時に頭部を少し下げて...こちらをじっと観察しだした。
「皆さん! 散開して牽制に回って下さい! ドローンオウルを連れている限り“毒灰”は結界で防ぎます! 足留めを基本にして防御重視に!」
「「「「「 おうっ!! 」」」」」
威勢のいい返答と共に、皆が四方に散って行く。ヴィクトールとガスパールだけは結界維持と護衛の為に動けないので更に結界と光学隠蔽魔法を重ね掛けしておく。
「お二人は、そのエルフの監視をお願いします! このバカ騒ぎがおさまったら色々と聞かなければならない事がありますので...メギラガロンは僕らに任せて下さい」
「ちっ...とりあえずは聞いとくが...ヤバくなったら介入するぜ?」
「うむ...」
二人からの返答に無言で頷いてメギラガロンに向き直ると、奴はまだ最初に降り立った所から動かず、周囲に散開して行く様をさほど興味もなく見ていた。
身体強化魔法を自身に掛けたヴィルヘルムが、神鳥の右翼へ高速で移動して行く。
不意に移動中のヴィルヘルムから魔法行使の閃光が漏れ、彼の眼前には黒曜石の輝きを持つ巨大な翼竜が現れた。同時にヴィルヘルムは翼竜の背に飛び乗る。
リンドブルムと名付けられた暴風の翼竜王は、本来の使役者の元に戻り、歓喜の咆哮をあげて一際大きく羽ばたいてみせた。
左翼にはクレオール卿がフランソワーズを肩に乗せて猛烈な勢いで走って行く。フランソワーズはそれ程小柄な訳ではないが、まるで何も持っていないかのような軽やかな足取りだ。あまりにも普通に走って行くので思わず二度見しそうになってしまった。
そうやって左翼に到達したクレオール卿がフランソワーズを下ろしたかと思うと...突然その場に跪き、両手を合わせて祈りの姿勢をとってしまった。
「ん? 何をしてるんだ?」
思わず呟く...と、まだその場に留まっていたグラブフットが、
「あいつの個人的な能力は、基本的に物理攻撃のみでな、そもそも“魔法主体の対空攻撃手段”なんぞ持ち合わせちゃいないんだが... まぁ見てろ、あいつがあれをやるのは、サルバシオン首長連邦で八脚の神獣と対峙したとき以来だが...奴が“12枢機卿家筆頭”を務める理由が良く分かるぜ!」
いつも読んで頂いている皆様ありがとうございます。
(随分お待たせしてしまいましたm(__)m)
新たに見つけて読んで下さった方は、是非今後とも宜しくお願いします。
実は新作を同じ“なろう”にて発表させて頂きました。タイトルは
『マシニングオラクル “AIが神を『学習』した世界”』
です。宜しければ覗いてみて下さいm(__)m
それでは...今後とも応援よろしくお願い致します。
批判や誤字・脱字のご指摘も絶賛受付中ですので何卒よろしくお願い致します。




