仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 86
第一章 八二話
「そろそろ....本気で怒るよ!」
消え去った筈のカズミと又三郎は.....
仮面の人物の背後に切っ先を突きつけながら宣言した....
「....クククッ」
絶対絶命の筈の仮面の人物は何故か低い含み笑いを漏らして.....
「サルダンといい、お主といい.....さっきの言葉は取り消さねば成らんな、甘いのぉ、やはりお主程度では『始祖』には、遠く及ばん様だな」
「そんな負け惜しみ言っても切っ先は外さないから! 取りあえず縛りあげればいいかしら?」
そう又三郎に話しかけるカズミは、勿論目前の人物から視線を外したりはしない。そもそもカズミは多少の武道の心得はあっても、命のやりとりが当たり前にゴロゴロしてるこの世界の人間ではない。
戦争経験を話してくれた祖父が、『戦場で一番恐ろしかったのはな....屈強な大男でも、練達の域に達した達人でもない、ただ....慣れてる人間だったよ.....』と、語っていたのは強烈に記憶に残っている。
そんな世界で油断するなどありえない....そう、カズミは油断などかけらもしていなかった筈なのだ!だが!
〔危ない!!〕
又三郎の鋭い警告が念話で響く! 咄嗟に切っ先を外して思いっきり左に跳んでその場に転がる....一瞬、いや半瞬前までカズミの頭の存在した空間に白い線が数条走るのを見た。
「ふふふふ、よけたか.....そうよな....最低その程度の動きをしてくれねば.....な!」
よく注意すると仮面の人物から少し離れた位置に、蒼く光る小さな球体がフワフワと浮かんでいる。飛びすさったカズミはそのまま少し距離を取ると球体は仮面の人物の元へフワフワと近づいて、その背後辺りを浮遊する。
〔又ちゃん? あれなんだか分かる?〕
〔ちょっと待ってくれ、魔力構造式を解析中だ..... なる程な....どうもあれは使い魔みたいなもんらしい〕
〔えっと.....〕
〔つまり、俺や彼が連れていたフクロウの様に“認知と処理を並列して行ってくれる一時的なデバイス”を魔力で構築してるんだ。あの魔力球その物が索敵と迎撃に特化した自動型機動砲台なんだよ!〕
〔マジで! そんな面倒なもんを.....って、こっちが言えた義理じゃないか.....〕
「ワシがお前の立場なら距離を取った位でそんなに呑気にはせんがな....」
にわかに沸き起こる強烈な違和感....これがいわゆる“殺気”というものだろうか? 猛烈に“この場に居る”事が“拙い”と思わせる何かを全身に感じ、更に警戒度を高める!!
〔又三郎! あいつの攻撃が完成する前にもう一度“圧縮動作記録Ε”を解凍して....タイムは15秒で!〕
〔.....了解! 解凍!〕
瞬間....視界に映る物がその動きを止めた....
又三郎の機能の一つ“圧縮動作記録”は複数の魔法を『同時並列処理』したものを待機状態で保持して、必要な時にタイムラグ無しで発動できる。
この時に発動したのは“認識増速魔法”と“身体操作精密化”の魔法に、更に一生自身が培ってきた“武道の身体操作記録”を同時並列処理した物で、端的に言うと“相手の認識の隙をついてこちらの動きを認識させない”魔法だ。
認識その物に誤認を仕掛ける“隠蔽魔法”などとは異なり、相手の“魔法耐性”に関わりなく効力を発揮する反面、本当に“隙”のない達人には効き難い。
幸い相手は“魔法特化”の戦術を基本にしているようなので問題無く背後に周りこむが.....
“キュュゥゥゥーン”
形容し辛い音と共に自動型機動砲台から何か“形容し辛い”物体が放たれた!
凄まじい弾速で放たれた何かは、“解凍中”のカズミであったからこそ避ける事が出来たが、背後を取る事には失敗してしまう.....
辛うじて避けた何かはそのまま尾を引きながらカズミの頭髪を数本散らして背後にあった聖堂の石柱に着弾して....石柱を真っ二つに切断してしまった!
〔カズミ! あれは拙い! 魔法で高圧化した水流を発射してるんだ! 魔法障壁じゃ防御出来ないよ!〕
〔しかも自動防御って事? 全くどうなってんのよ!!〕
「クククッ、腕に覚えのある連中はどうにも魔法使いは“隙をついての接近戦”に弱いと勘違いしておるわ! そもそも近づく事も出来んのにな!」
「言ってなさいよ!」
とは言え現状、打つ手に乏しい事は事実だ....次の一手の為に迷っていたのは、ほんの刹那の出来事だったが....
「考え事はあの世でゆっくり楽しめ!」
今度は無数の水流弾が自動型機動砲台から発射される!
迎撃するべく魔力を集中する瞬間に放たれた水流弾はカズミの反応を半瞬遅らせた!
〔ヤバい!〕
又三郎が物理障壁を解凍しようとした刹那.....
「爆発反応障壁!」
鋭い詠唱と共に、薄い幕状のなにかが、水流弾を阻む様に眼前に出現する!
半透明の幕は水流弾が着弾した刹那、着弾した箇所が爆発した!
「久しいなランスロット! ノコノコと我が前に現れるとは....貴様のしたことを忘れたとは言わせんぞ!」
「姉さん! ここは師匠に任せてくれ! ヤツとはちっと因縁があるんでね....」
そう言って現れたのはヴィクトールとガスパールだった。二人は仮面の人物との間に立ちふさがり、ガスパールは更に魔力を込めて先ほどの障壁を更に一回り大きな物にする!
「ふん! 誰かと思えば....ノコノコ現れたのはお前のほうだろう、先々代を守れもせずにデカい口を叩くな小僧!」
「いつまでも餓鬼のままだと思うなよ! 先々代の墓に誓ってあるんでな! 貴様の事は肉片一つ残さん!」
「姉さんは障壁の後ろに居て下さい! 俺にも野暮用があります! なあ! サルダン!」
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