仕事の準備を怠らないのは・・・大人として当然ですよね? 80
第一章 七六話
拙い....
ミネルヴァの索敵は魔法全盛の“この世界”では、異質と言っていい音波の反響を利用した探査だ。
当然だがエコーロケーションを誤魔化す方法が無い訳では無い。それよりも“誤魔化す方法を知り得る存在”が敵に居るのが甚だ拙い!
クレオール枢機卿の隣、モノクルに新たにポイントされた所に徐々に姿を現したのは、少し明るい茶色の髪をした恐らく15~16歳くらの少女だった。
{ミネルヴァ! 魔力の動きにフォーカスして厳重警戒! 攻撃の予兆を感じたらグラブフットを伴って一度引く!}
{了解!!}
これで相手が何者だったとしても最低限の備えは出来た。隣を見ればグラブフットも警戒の度合いを深めて相手を凝視している。僕らが揃って相手の出方をうかがっていると....
「.....あちゃー、困ったわね...」
少女の第一声はなんとも間の抜けたものだった。
「もう! クレオールさん! 今回は私たちは出来るだけ目立ちたくないって言ったじゃない!」
少女は姿を現すと真っ先にクレオール枢機卿に文句を言った。
「済まんな、カズミ殿。だがこうなればそなたの見極めの結果こそが我らにとっても重要なのだ」
「もう! とりあえず“所構わず暴れる人”でも無さそうだったから良かったけど....まあいいわ! それに....」
少女がこちらに向き直る。
「そこの黒髪のあなた? あなたがギドルガモンの討伐者よね?」
急にこちらに話をふってくる。こちらとしてはどうにも不審極まりないのだが.....彼女の姿は、この世界ではまだ出会った事のない東洋系の顔立ちだ。しかも恐らくだが彼女の側に付き従っている黒猫は使い魔と見て間違い無さそうだ。さらに今しがたの言動といい....彼女は何か重大な秘密を知っている可能性がある。
「その疑問に答える前に一つ確認したい事があります.....グラブットさん少し離れていてもらえますか?」
「??ああ、お前がそう言うなら構わんが....大丈夫なんだろうな?」
「ええ、恐らくですが....今しがたクレオール枢機卿が呼んだ彼女の名前....もしかしたら彼女は僕の同郷かもしれません」
「なに?!」
グラブフットとの会話はそこまでにして、僕の返答を待つ“カズミ”と呼ばれた少女に話かける。
「あなた....もしかしたら日本人ですか?」
日本語での呼びかけ....それを聞いた少女は、これまた場違いな感じで
「ええ、まあ純粋にそうかと言われたら困るけどね。あなたが日本人なのはさっきの名乗りで分かってはいたけど....どうしてここに居るのかはさて置いて....で、どうなの? あなたが討伐者でいいの?」
「....ええ、ですが....これはもっと詳しい話を聞かなければならない様ですね.....」
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奏多が一生と邂逅を果たす前日....
グローブリーズ帝国の帝宮では....宰相ドミトリ・フォン・リップシュタット公爵が、執務室にて一人、精力的に執務を執り行っていた。
帝国の重要案件を一手に引き受け、必要な物は皇帝に裁可を仰ぎ、彼の権限で問題の無いものに関しては、更に選定した担当者への指示を書類にしたためていく....
当然ながら猛烈に忙しいのだが....仕事をこなしつつも、その思考のかなりの部分を、先日帝宮に現れた“カナタ”と名乗る魔法使いの考察にあてていた。
あの時、ヤツが行使した“魔法”は恐らく“空間干渉能力”の筈、ならば....思考を彷徨わせていた宰相は、いつの間にか眼前のソファーに座ってこちらを見つめている男にやっと気づく。
「.....相変わらず悪趣味だの....」
気づきはしたものの....視線をそちらに向ける事なく、ボソリと呟く。たっぷりとした外套に仮面を被った人物は、音もなく立ち上がり、宰相の前に跪いた。
「お騒がせして申し訳ありません....先日の“神獣の討伐者”の件ですが....」
ドミトリのこめかみかピクリと震える。
「何か分かったか?」
「まだそれ程の事は....ですが分かった事もございます。先日ギルムガンにて活動していたランスロット師から連絡が有りました。何でも調略を進めていた王弟に対して邪魔が入り、国王の暗殺も失敗したそうです」
「なんと?! ランスロット師がしくじったと?」
「はい。その時に国王に助力していた若い男の風体が....」
「件の男だと?」
「恐らくは....」
いよいよ放って置く訳には行かないかも知れない....
「して奴はアルバ地方でどうしておる? 時間的にはまだグラムの奴等とは会敵してはおるまいが....」
「その事でランスロット師から伝言が....」
「何だ?」
ランスロット師からの伝言? ドミトリは急に嫌な予感がして来る。
「“これからグラムと件の男の一件を見届ける為に、アルバに赴く。好機あらば双方とも消す事を辞さず”との事です」
「なんだと! では....ランスロット師はまさかアレを?」
「私にはわかり兼ねますが....師であれば、必要ならば躊躇いなく使うかと.....」
これは....拙い、拙いが....時間的に今更止めようもないのは明白だ。しかたない....
「もはや是非も無い。して、お前は今何処に居る?」
「は、ランスロット師とは別行動ですがアルバに向かっております」
「....分かった、改めて命じる。お前も直ちにアルバに赴き、事の次第を見届けて知らせよ、ランスロット師とは....師がやり過ぎ無い限りは干渉無用だ」
「御意!」
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